ジョン・ノイマイヤー「京都賞」受賞記念 ハンブルク・バレエ団 2016年日本公演 アリーナ・コジョカル ゲスト出演&注目のノイマイヤー作品! アリーナ・コジョカル~ハンブルク・バレエ団日本公演にむけて Photo:Charlotte McMillan Photo:Holger Badekow

 ジョン・ノイマイヤーが芸術監督を務めるハンブルク・バレエ団が、来年3月に来日公演を行う。その楽しみのひとつが、アリーナ・コジョカルの客演だろう。若くして英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパルとなり、役柄の深い解釈や音楽性豊かな踊りで私達を魅了してきたコジョカルだが、とりわけこのところの舞台には、眼を見張るものがある。「踊ることこそが、内面の真実を届ける声」とでもいいたげな円熟の表現は、ときに神がかった印象を与えるほど。その内省的なアプローチが、ノイマイヤーの思索的作風と相性の悪かろうはずもなく、実際に、今回の来日に予定されている『真夏の夜の夢』と『リリオム』でも、すでに大きな成功を収めている。

──ノイマイヤー氏との出会いについて、教えてください。

コジョカル:数年前、デンマーク・ロイヤル・バレエ団に客演したときのことです。以前からジョンの作品に興味があったのですが、このとき『真夏の夜の夢』を踊ることができました。彼自身私のことを気に入ってくれたようで、その後ハンブルク・バレエ団にも招かれてこれを踊りました。次いで『椿姫』に主演したのですが、それと並行して私のために作られたのが、『リリオム』でした。

──フェレンツ原作の『リリオム』は、映画や舞台、そしてミュージカル『回転木馬』としても知られています。ならず者のリリオムが純真なジュリーと出会い、二人は結婚する。けれども彼は失業して荒んだ日々の中、妻にも手を上げ、強盗に手を染めた挙句に自殺してしまうという、不幸な物語です。

コジョカル:ジョンは前々から長年そのバレエ化を構想していたのですが、私とカースティン・ユングを得て、ついに時が満ちたと決意したようです。確かに暴力は許されることではありません。でもジョンは、リリオムを心根の清らかな人物と捉え、その行動と内面が全く違ったものであることを描いています。舞台となった大恐慌下のアメリカでは、家族を養えない男性のフラストレーションは想像を絶するほどに強かった。彼はジュリーを守りたいのに、そのためにどうしたらいいのか分からず手を上げてしまう。ジュリーもそれを知っているから、痛みを感じないのです。
 人間は、他に選択肢がないと極端に走ってしまうし、また、相手を外見や言動で判断してしまうものですよね。でもジュリーはそうでなく、「彼こそは自分がともに生きて幸せになれる相手」と、出会いの瞬間に確信します。それが、以前に東京でも私の公演(ドリーム・プロジェクト)で踊った、「ベンチのパ・ド・ドゥ」。全く違うタイプの二人が出会って素直な心で結びつく、“真実の瞬間”を描いた美しい場面です。ミシェル・ルグランの音楽も、まるでまだ20代の作曲家が書いたかのように瑞々しいだけでなく、全編を通して、バレエ音楽としては驚くほど斬新で効果的な使い方がされているので、ぜひ楽しみにしていてください。

──もうひとつの『真夏の夜の夢』は、ノイマイヤー版以前にロイヤルの十八番であるアシュトン版も踊っていらっしゃいます。

コジョカル:どちらも傑作ですが、敢えて違いを挙げるなら、アシュトンはコンパクトにストーリーを語る天才で、妖精の世界だけに絞り、詩的でコミカルで官能的な美しさもある1幕作品に仕上げています。
 いっぽうジョンは、より複雑な長尺のドラマに長けています。何よりの特徴は、ヒロインのタイターニアとヒッポリータを一人のバレリーナが踊るというユニークな設定で、それによって妖精と人間の世界を結びつけていることです。初めは互いの存在を感じることもなかった二人が、それぞれの物語を演じるうちに互いに影響し合い、成長していき、やがてはソウルメイトともいえる不可分の関係になっていく。最後の結婚式のパ・ド・ドゥは、その全てが結びつき大団円を迎える場面です。
 かなり前に作られた作品ですが、ジョンは今もこれに上演のたびに手を入れています。ツアー先の舞台に合うようにという意味もありますが、それによって作品自体が進化し続けている印象を受けます。

 現在はイングリッシュ・ナショナル・バレエとハンブルク・バレエ団との活動が半々で、それぞれのカンパニーに固有のエネルギッシュさと目的意識、そして献身的な空気が漲っているのが素晴らしいというコジョカル。「バレエは生きた芸術。たとえば『眠れる森の美女』のような古典でも、伝統の美を次の世代に伝える責任があると同時に、常に磨き続けて“今観て美しい”ことが大切です。私はそのことを、ジョンから教わりました」と語る彼女の踊るノイマイヤー作品が、今から楽しみだ。


ジョン・ノイマイヤー「京都賞」受賞記念
ハンブルク・バレエ団

「リリオム〜回転木馬」

【公演日】

2016年
3月4日(金)6:30p.m.
3月5日(土)2:00p.m.
3月6日(日)2:00p.m.

会場:東京文化会館

〈ジョン・ノイマイヤーの世界〉

【公演日】

2016年
3月8日(火)6:30p.m.
3月9日(水)6:30p.m.

会場:東京文化会館

「真夏の夜の夢」

【公演日】

2016年
3月11日(金)6:30p.m.
3月12日(土)2:00p.m.
3月13日(日)2:00p.m.

会場:東京文化会館

【予定される主な配役】

「リリオム」 リリオム:カースティン・ユング
  ジュリー:アリーナコジョカル
「真夏の夜の夢」 ヒッポリータ/タイターニア:エレーヌ・ブシェ(3/11、3/13)
  アリーナ・コジョカル(3/12)
  シーシアス/オベロン:エドウィン・レヴァツォフ(3/11、3/13)
  カースティン・ユング(3/12)ほか

*演奏:「リリオム」は特別録音音源+北ドイツ放送協会ビッグバンド、「真夏の夜の夢」は東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

【入場料[税込]】

S=¥23,000 A=¥20,000 B=¥17,000 C=¥14,000 D=¥11,000 E=¥8,000


特別協賛
公益財団法人稲盛財団
主催
公益財団法人日本舞台芸術振興会/日本経済新聞社