ミラノ・スカラ座バレエ団 2016年日本公演 「ドン・キホーテ」全3幕 溌剌とした生命力と華麗さあふれるヌレエフ版! 豪華ゲストとスカラ座の精鋭の競演 Photo:Marco Brescia and Rudy Amisano-Teatro alla

 この秋、3年ぶりに来日するミラノ・スカラ座バレエ団。上演するのはヌレエフ版「ドン・キホーテ」だ。世紀の大スター、ルドルフ・ヌレエフが手がけたこの作品は、ダンサーにとって、もっとも踊りたい作品であり、同時にもっとも踊りたくない作品のひとつかもしれない。
 というのも、まず、振付の難易度がかなり高いのだ。「ドン・キホーテ」は元々、ダイナミックな跳躍、スピード感あふれる回転など、高度なテクニックが満載。ヌレエフの振付ではさらに、音符のひとつも見逃さないかのような細やかなステップが続く。並みのダンサーでは振付をこなすのが精いっぱいで、演技など二の次。普通のヴァージョンにはない、ジプシーの野営でのキトリとバジルのロマンティックなパ・ド・ドゥなど、演じがいのある場面もあるのだが、その分、上演時間も長くなるので、ダンサーには底知れぬ体力も要求される。加えて、ヌレエフの濃厚な振付に負けない個性、振付を超えて舞台上で輝く華やかさがなければ作品の持つ強さの影に埋もれてしまう。ダンサーにとって実に過酷な舞台なのだ。
 その一方で、これらすべてを満たしてくれるダンサーが現れたら、観客たちの興奮、高揚感は一気に高まる。となれば、踊るダンサー自身の満足度、充実感もさぞかし…‥と思うのである。

 今回、このヌレエフ版の魅力を披露してくれるのは6人3組のダンサーたち。ひと組めはマリア・コチェトコワとイワン・ワシーリエフである。
 このふたりは、世界バレエフェスティバルなどで何度か来日しているので、日本のバレエファンにはすでにお馴染みだろう。小柄で溌剌とした踊りがチャーミングなコチェトコワ。バレエフェスの全幕で踊った「ドン・キホーテ(ワシーリエフ版)」で会場中を沸かせたことも記憶に新しい。コチェトコワというと、可憐な容姿に不似合いなほどの強固なテクニックを思い浮かべがちだが、ロシア出身のダンサーらしい、軟らかで優美な上半身も印象的だ。ワシーリエフは、超絶技巧をなんなく決める、観客たちの心を一瞬で虜にしてしまうダンサーだ。とりわけ「ドン・キホーテ」は十八番で、入団数年で主演したボリショイ・バレエ来日公演で観客たちを興奮の渦に巻き込んだのも忘れ難い。あれから8年。活動の場を変えて、ワシーリエフがどのようなバジルを見せてくれるのか。楽しみでたまらない。ふたりの火花が散りそうな共演にも注目だ。

 そして、ポリーナ・セミオノワとレオニード・サラファーノフである。セミオノワも、長年の拠点ベルリンを離れ、現在は各国の大カンパニーに招かれ踊っている。ミラノ・スカラ座もそのひとつだ。何度も日本で踊っているセミオノワだが、不思議と「ドン・キホーテ」を踊る機会はあまり多くなかったかもしれない。だが、長身でダイナミックな踊り、明るくキュートな個性にキトリはぴったりの役だろう。サラファーノフは鮮やかなテクニックを持つダンサーだが、彼の最大の魅力は、技術だけを強調することなく、役柄の表現にそれを生かせるところだろう。王子を踊ればそのテクニックは気品となり、ドラマティックな役柄を踊ればほとばしる感情となる。最近では演技も深みを増し、観る者の胸に強く迫る。スカラ座のほか、サラファーノフの本拠地ミハイロフスキー劇場バレエでもコンビを組むことのあるふたりのパートナーシップにも期待したい。
 ニコレッタ・マンニは今年、他バレエ団の主演ゲストにも予定されており、いまやスカラ座を代表するダンサーのひとりだ。クラウディオ・コヴィエッロは前回の来日公演「ロミオとジュリエット」でロミオを踊り、その瑞々しい感性で話題を呼んだスカラ座期待の若手。ミラノ・スカラ座バレエ団の雰囲気をもっとも体現する彼らふたりの舞台も楽しみだ。

              

ミラノ・スカラ座バレエ団
「ドン・キホーテ」全3幕

【公演日】

2016年
9月22日(祝・木)2:00p.m.
9月23日(金)6:30p.m.
9月24日(土)1:30p.m.
9月24日(土)6:00p.m.
9月25日(日)1:30p.m.

演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
会場:東京文化会館

【予定される主な出演】

キトリ:
ポリーナ・セミオノワ(9/22、9/24夜)
マリア・コチェトコワ(9/23、9/25)
ニコレッタ・マンニ(9/24昼)

バジル:
レオニード・サラファーノフ(9/22、9/24夜)
イワン・ワシーリエフ(9/23、9/25)
クラウディオ・コヴィエッロ(9/24昼)

【入場料[税込]】

S=¥19,000 A=¥17,000 B=¥15,000 C=¥12,000 D=¥9,000 E=¥6,000
エコノミー券=¥4,000 学生券=¥3,000

*エコノミー券はイープラスのみで、学生券はNBS WEBチケットのみで8月7日(金)より発売。
★ペア割引(S,A,B席)あり
★親子ペア券(S,A,B席)あり

*表記のキャストは2016年2月19日現在の予定です。カンパニーの都合等により変更になる場合があります。