バイエルン国立歌劇場 2017年日本公演 背景画家 三浦真澄さんインタビュー 現在にはない技術とアイディアが用いられ、 上質の絵本のような舞台に。 だから『魔笛』は“伝説の名演出”! Photo: Wilfried Hoesl

バイエルン国立歌劇場では、意欲的な新演出がつくられる一方、伝統的なプロダクションが大切にされています。
今回の日本公演に、最新の『タンホイザー』と、伝統的なプロダクションの代表的存在である『魔笛』がプログラムされたことは、この歌劇場の特徴を最大に表しています。
今回は、バイエルン国立歌劇場で、背景画家として、オペラ、バレエの舞台の背景画(幕)を描いている三浦真澄さんに『魔笛』について、お話しいただきました。

『魔笛』のプロダクションには
深く関わっていらっしゃるとのことですが、
三浦さんからみてどのような点が魅力だと思いますか?

三浦 この『魔笛』は1970年代に創られたものでもう40年近くになります。時代とともに少しずつ演出の内容も変わってきたのですが、10年ほど前、“もう一度『魔笛』を復活させよう”ということで、昔のデザイン画とその時に舞台で使っていたものを見比べ、(美術を担当した)ユルゲン・ローゼさんにも来ていただいて検証したんです。やはり長い年月の間に欠けていったものがありますから、その部分を描きなおし、それからローゼさんが新たに手を加えたりして復活させ、現在にいたります。
 この演出の特徴としては最後のタミーノとパミーナによる火と水の試練の場面では大きな仕掛けがあるのですが、それ以外の場面では“幕だけで魅せることができる”という点が挙げられます。70年代は今のような技術がなかったので、紗幕をよく使っていたんです。たとえば、紗幕に透けない布を貼って、正面から照明をあてると紗幕に描かれた画がうきあがります。後ろから照明をあてると紗幕の画はとんでしまい、布のシルエットが際立ってみえるというように、シンプルながらに非常によく考えられた演出です。
 例えば、1幕で夜の女王が登場するシーン。客席からみると幕にライトがついていて、それが光っているようにみえます。今の演出ならばLEDライトをつけてそのようにするかもしれませんが、この演出では違います。小さな穴が無数にあいた幕を用意して、そのすぐ後ろに透ける白いスクリーンをたらします。そのスクリーンの後ろから光を当てると、穴から光がもれ、まるでライトがついているように輝きだすという仕掛けなのです。他にも、モノスタトスが寝ているパミーナに近づく場面では、彼の家来たちが後ろの幕をくるくるとまるめてもっていってしまうと、その後ろにパミーナがいたりと、ちょっとした幕の使い方で非常に効果的に魅せています。
 今の若い方はこの『魔笛』のようなオペラを観ていないので、このような技術を知らないんです。そういう意味でもとても貴重な演出だと思います。

場面の転換がとてもスピーディーですが、
装置や衣裳もとても美しい。

三浦 そうですね、やはり『魔笛』の決定版と言ってよいと思います。演出と美術がうまく連携していますし、良い意味でローゼの子どものような面が出ていると思います。グレーの背景の前に鮮やかな衣裳を着た人物を配置するなど、色彩的にもきれいな、まるで上質な絵本のような舞台です。
 今のオペラ上演ではライトデザイナーがかなりの決定権をもっているのですが、初演された当時、特にドイツの劇場では、劇場付きの照明家が演出家や美術担当者の意図を再現することに心をくだいていました。そのため、この演出ではローゼの良いところが全部出ていると思います。

『魔笛』は背景幕の数も
多そうですね…‥

Photos:Wilfried Hösl

三浦 そうですね、作品によって幕の数は全然違いますが、『魔笛』は10本以上あります。私も『魔笛』に関しては傷んでいるところを色々と描きました。
 『魔笛』の場合は「流れ幕」といって、場面にあわせて舞台の上手から下手へ、というように幕が移動する演出があるんです。この方法は今のオペラではなかなか使われない方法ですので観ていても面白いと思います。

昔の演出には優れている部分がたくさんあるんですね。
他にも、歴史あるプロダクションならではの特徴はありますか?

三浦 まず言えるのが、とにかく昔のパネルなどは「軽い」ということです。今は骨組みをアルミで作り、それにベニヤの合板を組み合わせるのですが、昔はすべて木でした。もちろんアルミの方が丈夫ではありますが、でも『魔笛』のように40年ももつかというと、そんなことはないと思います。
 以前『ボエーム』を修復したときは、古いものと新しいものを並べて、古いものをみながら新しいものをつくっていったのですが、重さがあまりにも違うので驚きました。

  このインタビューが行われた5月末から、日本公演のために必要な『魔笛』の手直し作業が行われたとのこと。劇場での背景画家としての仕事についてのお話は、NBSのホームページで紹介しています。

2017年日本公演
バイエルン国立歌劇場

『タンホイザー』(全3幕)

【公演日】

2017年
9月21日(木)3:00p.m.
9月25日(月)3:00p.m.
9月28日(木)3:00p.m.

会場:NHKホール

指揮:キリル・ペトレンコ
演出:ロメオ・カステルッチ

【予定される主な配役】

領主ヘルマン:ゲオルク・ゼッペンフェルト
タンホイザー:クラウス・フロリアン・フォークト
ウォルフラム:マティアス・ゲルネ
エリーザベト:アンネッテ・ダッシュ
ヴェーヌス:エレーナ・パンクラトヴァ

【入場料[税込]】

S=¥65,000 A=¥59,000 B=¥54,000 C=¥42,000 D=¥32,000 売切 E=¥25,000 売切 F=¥17,000 売切
エコノミー券=¥15,000 売切 学生券=¥8,000

*学生券はNBS WEBチケットのみで8月18日(金)より受付。

※タンホイザー役のフォークトのメッセージ動画を、こちらからご覧いただけます。

※ヴェーヌス役のパンクラトヴァの
メッセージ動画を、
こちらからご覧いただけます。

『魔笛』(全2幕)

【公演日】

2017年
9月23日(土・祝)3:00p.m.
9月24日(日)3:00p.m.
9月27日(水)6:00p.m.
9月29日(金)3:00p.m.

会場:東京文化会館

指揮:アッシャー・フィッシュ
演出:アウグスト・エヴァーディング

【予定される主な配役】

ザラストロ:マッティ・サルミネン
タミーノ:ダニエル・ベーレ
夜の女王:ブレンダ・ラエ
パミーナ:ハンナ=エリザベス・ミュラー
パパゲーノ:ミヒャエル・ナジ

【入場料[税込]】

S=¥56,000 A=¥49,000 B=¥42,000 C=¥35,000 D=¥26,000 売切 E=¥20,000 売切 F=¥16,000 売切
エコノミー券=¥15,000 売切 学生券=¥8,000

*学生券はNBS WEBチケットのみで8月18日(金)より受付。

※『魔笛』動画を、
こちらからご覧いただけます。

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