ローマ歌劇場 2018年日本公演 フランチェスカ・ドット インタビュー ヴィオレッタは私に幸運をもたらした役

ローマ歌劇場の『椿姫』で、ヴァレンティノ・ガラヴァーニによる素晴らしい衣裳に身を包み、華やかに、そして堂々たるヴィオレッタを演じるフランチェスカ・ドット。新春にふさわしく、美しき歌姫のインタビューをお届けします。すでに数々の舞台で認められていますが、なおも美しい声で丁寧に歌い演じることに努め、常に深く追究していく真摯な姿勢がうかがわれます。

Photo: Yasuko Kageyama / TOR

ーーヴィオレッタ役は、すでにイタリア各地で歌っていらっしゃいますが、あなたのレパートリーにおいてどのような意味を持っていますか? またこの役を歌うにあたって最も重要に考えていることは?

ドット ヴィオレッタは私のレパートリーの中では一番複雑な役です。それは幕ごとに完全に心境が変化していくからです。環境の変化と共に、声や歌い方も変わるし、演技にも影響してくるので、充分な勉強が要求されます。第1幕と第3幕とでは全然違う人物になっていますよね。第1幕では華やかな社交界で明るく振舞ってはいても、自分が病気であることを自覚していますから、陽気に振舞いながら病気と闘っているというように二面性を持っているのです。そこに、新しく『愛』という第三の要素が入ってきますから、益々複雑になっていきます。第2幕になると、愛のためにもっと生きたいという気持ちに覆いかぶさるようにアルフレードのお父さんとの対話があります。そして第3幕では死と向き合っています。この役は演技力が要求されていると思いますから、できるだけ現実的な演技で役作りをするようにしています。その演技がわざとらしいものであってはならないし、誰もが見ていて本当のように思えなければならないので、声の表現がとても重要になってきます。自分が役にのめり込みすぎては駄目なんです。役になりきっても、冷めていて自分をコントロールしていなければならないので緊張し通しです。私は動揺しやすいので自分の感情を押さえるのも大変なんです。
 ヴィオレッタは歌手としてデビューして間もないころから歌うチャンスに恵まれました。本来ならたくさん経験を積んでから取り組む役だと思っていましたし、ヴィオレッタを歌うことはソプラノ歌手の夢というのが普通ですが、私はまだ歌手として歌い始めて3~4年ですから、今は舞台経験を積みながら成長できればと思っています。幸運なことにというか、幸運をもたらしてくれた役なので、とても親しみを感じています。歌い込めば歌い込むほど乗り越えるべき課題が生まれてくるので、表面的ではない深い勉強を続けるよう努力しています。

ーーローマ歌劇場のこのプロダクションではプレミエキャストでしたね。ファッション界の大御所であるヴァレンティノが手掛けた衣裳も大変話題になりましたけれど、実際にヴァレンティノの衣裳を着て舞台に立たれた時、特別な感覚はありましたか?

ドット 舞台で起こるどんな経験も何か大切な思い出を残してくれます。今回のプロダクションでヴァレンティノさんと仕事をしたことで、優雅な振舞いを身に付けることができたと思っています。この舞台で着た衣裳は芸術作品と言っても過言ではないでしょう。衣裳が魂を持っているような感じがしました。ものすごくかさばった衣裳ですから、着方や着こなし方を間違えると、全く不格好になってしまうのです。エレガントな着こなしができるように何度も繰り返して自分の動きを練習しました。ヴァレンティノさんのデザインした服はトップモデルや映画の大スターなどが着ていますよね。我々オペラ歌手は立ったり座ったり、しかも歌いながら演技をするのです。ヴィオレッタは聡明でエレガントな女性という設定ですし、私の動き方によって衣裳が生き生きするかどうか左右されてしまうということをいつも意識していました。オペラ歌手としての今後の演技にとても役立つ経験ができたと思っています。

Photo: Yasuko Kageyama / TOR

ーー演出家のソフィア・コッポラさんとはどのように準備を進められましたか?

ドット ソフィアさんは映画の監督ですから、舞台の演出家とはアプローチの仕方が違いました。彼女は私たちのことをよく観察していました。とても繊細な方で、女性特有のきめ細かさを持っていると思いました。私たちはお互いに自分の考えを表わすことができましたが、演技に関しては非常に細かいところまで指示がありました。彼女にとってはオペラの演出は初めてだったのですが、出来上がった時には満足していただけたようで、喜んでくださいました。映画だとシーンによって役者を至近距離で撮影することがあるからだと思いますが、細部へのこだわりがありました。特に第2幕のジェルモンとの場面、アルフレードに別れを告げる「Amami Alfredo(私を愛して、アルフレード)」の場面、第3幕のアルフレードとの二重唱など細かい演技を求められました。この経験も私にはとても役立ちました。

ーーヴィオレッタに限らず、オペラの役柄を演じるうえでの表現について何か特別に勉強されていることがありますか?

ドット まずは音楽をよく聴きます。それから楽譜をじっくり読みます。役柄が歴史上の人物であるなら、その歴史に関する本を読みますし、原作がある場合、例えばヴィオレッタの場合はデュマの「椿姫」(原題:La Dame aux camélias)を読んだり、ボロニーニ監督の映画を観たりして、登場人物への知識を増やします。その人物がどのような社会のどのような環境に存在しているかを知ることはとても大切なことだと思います。そして、作曲家がどのような気持ちで登場人物を描いたのかを調べることも役に立ちます。何度も歌った作品でも何か関連する本を見つければ読むようにしています。毎回新しい発見があると、より興味を持てるので勉強することが楽しくなります。

ーーフルートを学んでいらしたそうですね。なぜ歌手を志されたのですか?

ドット 小学生の頃からフルートを勉強していました。18歳の時にフルート科を卒業して、歌を始めたのは20歳の頃からです。実はずっと歌手になりたいと思っていたんです。歌は楽器が自分の身体の中にあるので表現しやすいというか、歌が好きだったということですね。フルートは嫌いではありませんが、何と説明したらよいのでしょう。楽器奏者は一般に楽器と一体になって演奏していますよね。私にとってフルートは楽器であって自分の一部ではなかったのです。歌だと楽器と一体になって演奏できる感じがするのです。フルートの先生も私が難しいフレーズで悩んでいると歌ってごらんと言って歌で表現させてくれていました。自然に歌えたのです。フルートを学んだことは声楽に大きく影響していて、とても役立っているのは呼吸法です。腹式呼吸や喉の開きなど声楽のテクニックに通じるものがあったので声楽を始めた時には呼吸法で苦労しませんでした。声を顔面で響かせることも自然にできました。

ーーご自身の性格を一言で表すとしたら?

ドット 自分で自分の性格を言うのは難しいですよ。一言で言うと「ヴェネタ」(ヴェネト地方の生まれ)でしょうか。ヴェネト生まれは結構人見知りなんです。だから自分の心を開くには相手を充分に知ることが必要なのです。でも一度心を開くととても親しくなれます。私は他人を羨ましがったり、ライヴァル意識を持ったりすることがありません。これは長所かもしれませんね? 余計なことはしないのも性格かしら? ショッピングは大好きです。

Photo: Yasuko Kageyama / TOR

ーーローマ歌劇場はあなたにとってどのような場ですか?

ドット ローマ歌劇場は私に大きなチャンスを与えてくれた劇場です。この劇場でヴェルディの『椿姫』をヴァレンティノの衣裳とソフィア・コッポラの演出で歌えたことは本当に光栄でした。私に主役を与えてくれたことは私を信じてくれたことですから。それからグラハム・ヴィック演出の『コシ・ファン・トゥッテ』を歌えたことも私の世界観が変わるほどの経験になりました。それから、ミキエレット演出の『ランスへの旅』も素晴らしい経験になりました。

ーー初来日となる日本のイメージは?

ドット 私にとっての日本は高層ビルディング、テクノロジー、親切で思いやりのある人々、それから寿司とみそ汁ですね。お花も美しいと思います。日本で歌った仲間たちは日本の観客は温かくて最高だと言います。日本に行かなければわからないことはたくさんあると思います。日本に行くのが待ち遠しくてたまりません。

2018年日本公演
ローマ歌劇場

『椿姫』

指揮:ヤデル・ビニャミーニ
演出:ソフィア・コッポラ

【公演日】

2018年
9月9日(日)3:00p.m.
9月12日(水)3:00p.m.
9月15日(土)3:00p.m.
9月17日(月・祝)3:00p.m. *9月発表時から1公演が追加となりました。

会場:東京文化会館

【予定される主な配役】

ヴィオレッタ:フランチェスカ・ドット
アルフレード:アントニオ・ポーリ
ジェルモン:レオ・ヌッチ

*表記の出演者は2017年9月現在の予定です。今後、出演団体側の事情により変更になる場合があります。

『マノン・レスコー』

指揮:ドナート・レンツェッティ
演出:キアラ・ムーティ

【公演日】

2018年
9月16日(日) 3:00p.m.

会場:神奈川県民ホール

9月20日(木)3:00p.m.
9月22日(土)3:00p.m.

会場:東京文化会館

【予定される主な配役】

マノン:クリスティーネ・オポライス
デ・グリュー:グレゴリー・クンデ
レスコー:アレッサンドロ・ルオンゴ

*表記の出演者は2017年9月現在の予定です。今後、出演団体側の事情により変更になる場合があります。

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