東京バレエ団「白鳥の湖」ブルメイステル版 斎藤友佳理芸術監督の感銘の原点が東京バレエ団の珠玉のレパートリーへ!

ドラマに、ディヴェルティスマンに、
さらなる深化が魅せる、納得の一夜に期待!

Photo:Kiyonori Hasegawa

 芸術監督・斎藤友佳理が就任後間もなく取り組んだのが、この作品をレパートリー化することであった。今現在のカンパニーの実力や方向性を、隅々にまで反映させるには最もふさわしい版、と判断したためであろう。実際、本作の導入は、2年前のバレエ団初演において、彼女の慧眼を見事に実証することとなったのである。
 ウラジーミル・ブルメイステルがこの演出を発表したのは、1953年、スタニスラフスキー&ネミロヴィチ=ダンチェンコ記念モスクワ音楽劇場(以下モスクワ音楽劇場と略称)。斎藤がロシアに初めて渡り、最初に見た『白鳥の湖』は、まさしく同劇場におけるこの名演出だったのである。彼女は深い感銘を受け、その鮮烈な体験は、いわばバレエ人生の原点ともなった。この版の上演に当たり、斎藤のこだわりは、オリジナルにどこまでも忠実であること。それは当然、美術にもおよんだ。一例を挙げれば、ブルメイステルと共に仕事をした美術総監督アレクサンドル・ルーシンの手になる衣裳を、モスクワ音楽劇場の衣裳庫から一点一点、斎藤自らが探し出した上、同劇場から借り受けることに成功している。なお、このたびの再演は、東京バレエ団が新しく製作した衣裳で上演される。
 本演出最大の特徴は、まず第一に音楽解釈、それにドラマ的整合性であろう。そしてこの二つは不可分である。というのも、ブルメイステルは、バレエ作品は何よりも音楽に立脚していなくてならない、と考えていたからである。チャイコフスキー作曲のこの名品は、じつは作曲家自身に物語への独自な見解があり、元々はそれに基づいた構成となっていた。が、現在上演されている演出の多くは、曲の順序がオリジナルとはかなり違ったものになっている。それに反してブルメイステル版では、あくまでチャイコフスキーの原曲に立ち戻り、その厳密な再現を志した。

Photo:Kiyonori Hasegawa

 ストーリー上の一貫性も、他の版とは大きく異なっている。たとえば、プロローグでは主人公のオデットが、ロットバルトによって白鳥に姿を変えられてしまうエピソードが綴られる。ここは重要な伏線であり、最後のエピローグまで常に調和を保った展開となっているのである。また、一般にこの作品を象徴する「白いバレエ」の第2幕も、原典のイワーノフによる振付を細大漏らさず踏襲した、ブルメイステルの意図を斎藤が正確に汲み、彼女によって、じつに入念な再現がなされている。これにより、続く全体のハイライト、第3幕への布石としてこの上なく有効に機能しているのだ。
 そしてその舞踏会の盛り上がりたるや、文字通り比類がない。各国の民族舞踊団は、全員が一つの企みをもって王子の城へと乗り込んできた悪魔の手先であり、物語の筋とはほとんど無関係な、ただのディヴェルティスマンではない。しかも諸国の舞踊の合間合間に、思わせぶりにチラチラと姿を見せるオディールの蠱惑は、息を飲むほどに圧倒的である。それゆえにこそ、抗いがたい。「いくらオデットと姿形が似ているからといって、なぜ王子はこうもあっさりと騙されてしまうのだろう?」──。通常ありがちなこの疑念に対する、明瞭な回答がここにある。
 2016年の上演では主演にトリプルキャストが組まれ、それぞれの個性が煌めく演劇性豊かなステージが、大きな反響を呼んだ。上野水香と柄本弾は、共に長身を生かした伸びやかで端麗なヒロインと、凛として瑞々しい王子。また秋元康臣は、何よりも佇まいと所作の品格が際立つ王子だった。いっぽうここ最近、数々の主演を経て俄然、風格を増してきた川島麻実子。三組三様でありながら、皆一様に、より深化した表現がこの演出によって図らずも引き出され、予想を上回る成果を上げたのである。
 今回の再演では、沖香菜子と宮川新大という、新たな顔ぶれが加わる。前回に引き続き、期待もひとしおと言わねばなるまい。

東京バレエ団「白鳥の湖」 ブルメイステル版

【公演日】

2018年
6月29日(金)18:30
6月30日(土)14:00
7月1日(日)14:00

会場:東京文化会館

【予定される主な配役】

オデット/オディール: 上野水香(6/29)
川島麻実子(6/30)
沖香菜子(7/1)
ジークフリート: 柄本弾(6/29)
秋元康臣(6/30)
宮川新大(7/1)

指揮:ワレリー・オブジャニコフ
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

【入場料[税込]】

S=¥10,000 A=¥8,000 B=¥6,000 C=¥5,000 D=¥4,000 E=¥3,000
エコノミー=¥2,000 学生券=¥1,000

*エコノミー券はイープラスのみで、学生券はNBS WEBチケットのみで5/24(木)より発売。
★ペア割あり[S,A,B席] ★親子ペア割あり[S,A,B席]

【その他の公演】

【鎌倉】6月16日(土) 鎌倉芸術館大ホール [TEL:0120-1192-40]