ローマ歌劇場 2018年日本公演 グレゴリー・クンデ インタビュー 輝きを放つ“イタリアの声”をもつアメリカ人テノール “完璧なベルカント歌手”が迫るデ・グリュー像

グレゴリー・クンデを、イタリア人だと思い込む人は少なくないようです。完璧なベルカントと、なにより“イタリア人テノール”の特徴といえる輝かしい声をもっているからです。
ローマ歌劇場2018年日本公演では、長いキャリアの中でも、比較的新しくレパートリーに加わった『マノン・レスコー』のデ・グリュー役で日本のファンを魅了してくれるはず。
2017年6月、英国ロイヤル・オペラへの出演の合間に、ロンドン在住のジャーナリスト 秋島百合子さんのインタビューに応えてくれました。

Photo: ABAO-OLBE ©︎E.-Moreno-Esquibel

クンデのデ・グリュー役デビューとなったビルバオでの『マノン・レスコー』より。

ーー9月に日本でプッチーニの『マノン・レスコー』のデ・グリューを歌われますね。

クンデ 私は恐らく歌うことはないだろうと思われる役を、いつも探っています。スペインのビルバオで『マノン・レスコー』を歌わないかと依頼されて、2016年5月に歌いました。それがこの役のデビューです。それでやってみようかと。私のキャリアの今の時点では、もし誰かが機会を与えてくれるならイエスということが多いんです。失うものは何もないから(笑)。もう39年も歌っていますからね。プラシド(ドミンゴ)が言ったように、「休んだら(rest)錆びるよ(rust)」。だからやり続けて新しいチャレンジを受ける。おもしろいものであればね。『マノン・レスコー』を受けたのは、この後も歌う機会があるだろうと思ったからです。

ーーイタリアものを主なレパートリーとする歌手でいらっしゃるから、マスネよりプッチーニの方を取るのが自然だと?

クンデ そうです。マスネのは、おそらく今の私には軽過ぎるでしょう。マスネの役にはそれは繊細な部分が多くあるので、もっと軽い声の方が適していると思います。一方で、プッチーニの『マノン・レスコー』は強力です。このオペラを勉強する前は僕の一番好きなプッチーニは『ラ・ボエーム』でした。

ーーなぜですか。

クンデ とにかく音楽が美しい。すばらしい音楽を歌うわけだし、芝居としても途方もない演技力が要求されますから。

Photo: Ramella&Giannese ©︎Teatro Regio Torino

トリノでの『マノン・レスコー』より。

ーーデ・グリューはどんな人ですか。

クンデ ものすごく純真で、すっかりマノンにまいってしまう。初恋の女性であり、リアルなのは彼女だけ。とにかく諦めきれない。『椿姫』のアルフレードと同じです。マノンはしっかりデ・グリューを抑え込んでいるから、彼女が何をしても彼は許してしまうんです。

ーー彼は恋するうちに成長しますか。

クンデ 成長するのはマノンが死んだ時です。残念ながら。そして彼女の死を追いかけていく。ご存じ彼女は‘お客さんたち’を追い払っていくでしょう。デ・グリューは囚人船の船長に一緒に連れて行ってくれと頼み込む。床掃除も汚物の始末もなんでもやるからといって。船長がOKを出したから二人は船に乗り込んで、共に苦労する。そして彼女は彼の腕の中で死ぬわけです。もちろん彼は生き残る。経験を本にするわけですからね(笑)。

ーーデ・グリューのキャラクターはマスネとプッチーニでは違いますか。

クンデ 違います。

ーーマスネも歌われたのですよね。

クンデ はい、何度も歌っています。マスネのデ・グリューはほんとうに若くて無心で、かれが聖職に就くまでの心の中が実によく描かれています。マノンは彼を誘惑するわけだから、それは重要なことです。彼女が教会にまで来てあのような行為をしてデ・グリューを聖職の世界から誘い出すというのは、当時としては大問題でした。でもこのくだりはプッチーニの方にはない。こちらはマノン・レスコーの話だからです。マノンは華麗で贅沢な存在として描かれる。そこにデ・グリューが戻って来てマノンに立ち向かう。なんてことをしてくれたんだ! あら、ダーリン、いいでしょ、愛してるんですもの。そしてまた一緒になる。驚くべきことです。無条件の愛と情欲。とにかく彼女は麻薬なんですよ!

 とにかく舞台の外ではふつうの気さくなアメリカ人という感じだった。僕はよくしゃべるからと自認して、役柄の話などを始めると止まらない。そして歌に関してだけではなく、演技者として登場人物を裏付けるための論理性を淡々と展開していく。それをいかにもおしゃべり口調で。ロンドンで取材したのだが、夫人と娘さんと一緒に来ていて、短期間の滞在期間を満喫しているようだった。

2018年日本公演
ローマ歌劇場

『椿姫』

指揮:ヤデル・ビニャミーニ
演出:ソフィア・コッポラ

【公演日】

2018年
9月9日(日)3:00p.m.
9月12日(水)3:00p.m.
9月15日(土)3:00p.m.
9月17日(月・祝)3:00p.m. *9月発表時から1公演が追加となりました。

会場:東京文化会館

【予定される主な配役】

ヴィオレッタ:フランチェスカ・ドット
アルフレード:アントニオ・ポーリ
ジェルモン:レオ・ヌッチ

*表記の出演者は2017年9月現在の予定です。今後、出演団体側の事情により変更になる場合があります。

『マノン・レスコー』

指揮:ドナート・レンツェッティ
演出:キアラ・ムーティ

【公演日】

2018年
9月16日(日) 3:00p.m.

会場:神奈川県民ホール

9月20日(木)3:00p.m.
9月22日(土)3:00p.m.

会場:東京文化会館

【予定される主な配役】

マノン:クリスティーネ・オポライス
デ・グリュー:グレゴリー・クンデ
レスコー:アレッサンドロ・ルオンゴ

*表記の出演者は2017年9月現在の予定です。今後、出演団体側の事情により変更になる場合があります。

【入場料[税込]】

S=¥54,000 A=¥47,000 B=¥40,000 C=¥33,000 D=¥26,000 E=¥19,000 F=¥12,000
学生券=¥8,000

*学生券はNBS WEBチケットのみで8/3(金)18:00より受付開始。

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