What's New

2018/05/07 2018:05:07:21:39:44

マチアス・ディングマン(「眠れる森の美女」主演) ロング・インタビュー

 英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団(以下BRB)の日本公演がいよいよ今週金曜、5月11日に開幕します! 今回の来日では魅力的なダンサーが多数出演しますが、プリンシパルのマティアス・ディングマンに注目しているバレエ・ファンの方も多いのではないでしょうか?
 去る〈NHKバレエの饗宴2018〉に出演し、卓越したテクニックと爽やかなオーラで客席を魅了したディングマン。「今シーズンはツアーが多かったけど、僕は幸いなことに怪我もなく元気だよ」と、慌ただしいリハーサルの合間をぬって気さくにインタビューに応じてくれました。

__________________________________


Q YAGP(ユース・アメリカ・グランプリ)第1位をはじめ、国際的なバレエコンクールの受賞歴は1位ばかり。たくさんのカンパニーからオファーがあったそうですが、BRBを選ばれた理由はなんでしょうか?

- 1位以外に3位もありますよ(笑)。いくつかのバレエ団に自分の踊っている映像を送ったのですが、デイヴィッド(ビントリー)が直々にメールをくれたんです。他のカンパニーからお誘いもありましたが、どこよりも早く、芸術監督自ら連絡をくれたのはBRBだけでした。オーディションに来てほしいとも言われず、契約書もすぐに送ってくれました(笑)。
 デイヴィッドの作品を観たことはなかったのですが、僕のことを「信じよう」としている人柄と熱意に心動かされ、入団を決意しました。以来ずっとここで踊っています。
デイヴィッドの作品で最初に触れたのは「カルミナ・ブラーナ」でした、本当に素晴らしい作品です!



 アリーナ・コジョカルと共演について、そして今回の舞台で目標としていることがあればお知らせください。

- 今回初めて共演します。3月半ばに3日間だけリハーサルをしましたよ(笑)。彼女はスーパースターですから、会う前
にはとても緊張していたのですが、非常に穏やかで、僕のことをリラックスさせてくれました。彼女とのリハーサルは大変素晴らしいものでした。
 実はツアーで古典全幕の主役を踊るのは初めてのことで、僕にとってはとても大きな挑戦です。本番は2回だけですが、この舞台を楽しみたいと思っていますし、アリーナと踊れることは大変貴重な経験ですから、できるだけ多くのことを学びたいと思っています。



 「眠れる森の美女」の王子役は5年前にデビューしていますが、初役から舞台を重ねて、役に対する解釈や取り組みに変化はありましたか?

- 2013年にロール・デビューし、今回が2回目の王子役です。日本に来る前にイギリスで久しぶりに踊り、初役から数えて10回くらいは踊ってきました。
 「眠れる森の美女」は純粋なクラシックのテクニックが必要なバレエで、僕もテクニックに関してはしっかりとキープすることを心がけています。また、この作品は子どもが夢見る姫と王子の愛の物語ですから、朝、目覚めたときの気持ちが毎日違うように、表現することに関しては毎回変えています。いつも同じように踊ろうとすると、それは嘘になってしまいますから。


D2.JPGインタビュー時には爽やかな笑顔をみせてくれたディングマン



 「白鳥の湖」や「くるみ割り人形」の王子も踊っていらっしゃいます。ライト版「眠れる森の美女」の王子役はどのような点が他の作品の王子と違うと思いますか?または共通点を感じるところはありますか?

- どの"王子"も違いますね。『眠り』はオーロラ姫の物語で、比較的シンプルな王子の役です。この作品では王子は真実の愛を探しています。
 ライト版「白鳥の湖」では王子は父を亡くして悲しみにくれていますが、王妃から結婚するように言われてうんざりしています。"白鳥"に出会って愛に目覚めますが、最後には死んでしまうわけです。この王子は物語の中でキャラクターが変化していくので、表現をするのがとても難しい役です。「くるみ割り人形」は比較的取り組みやすい役ですね。どの王子も素敵な役ですよ(笑)
 『眠り』の王子ですが、オーロラが目覚める場面など、客席に背を向けていることがあります。お客様には王子の顔が見えない訳ですから、背中でも物語を伝えていかなければならない。表現するのがとても難しいところです。それから2幕の幻影のパ・ド・ドゥは大変美しい場面ですが、この場面のオーロラは影のようなもの。王子はまだ会ったことのない美しい恋人と踊ります。"美しい"と思うことと、"愛している"というのは違うことですから、幻のオーロラ姫からリアルな姫に出会い、愛に目覚めていく様を表現しなければなりません。



 ピーター・ライト版「眠れる森の美女」は大変素晴らしいプロダクションだと思いますが、ダンサーからみて、どのような点が優れていると思いますか?

- 他の版は踊ったことがありませんが、ライト版は壮大な長編にも関わらず、観客を最後まで飽きさせない、とても長く愛されている作品だと感じています。振付はもちろん、衣裳、照明、美術、全体の色のトーン......全てが素晴らしいプロダクションです。幕ごとにダンスの内容が全く異なります。ダンスの見せ場であるプロローグ、オーロラ姫の超絶技巧(ローズ・アダージオ)のある1幕、王子と姫の出会う2幕、そして最後のパ・ド・ドゥまで、全ての場面で観客に「もっと観ていたい」と思わせるような本当に素敵な作品です。



 作品の中で好きな場面があれば理由も含めてお話ください。また、「ココはぜひ観てほしい」というポイントはありますか?

- まずは主役のオーロラ姫ですね。この役は少女が大人の女性になり、祝福された結婚にいたるまでを演じるわけですが、最もスペクタクルな1幕では踊る時間が非常に長く、10分間踊り続ける場面もあります。ローズ・アダージオのように、長くバランスをとり続けなければならない場面もあり、大変難しい役ですが見応えがあります。
 リラの精とカラボスの対決も面白いですね、どちらも踊る役ではありませんが、この役がなければ物語がつまらないものになってしまいます。そしてこの役をうまく演じるのはとても難しいのです。
 最後に青い鳥の役をあげたいと思います。男性ダンサーにとってとてもハードな役です。全てのジャンプを軽やかに跳ばねばなりません。お客様は「簡単な振付だ」と感じるかもしれませんが、実際に踊るのは本当に大変なんですよ!(笑)



 あなたにとってBRBはどのような場所だと言えるでしょうか?

- 大家族のようなバレエカンパニーだと思います。クラス、リハーサル、本番と長い時間を一緒に過ごすわけですから自然と絆が生まれるのだと思います。お互いに助け合い、支えあっています。それがカンパニーの特徴と言えるのかもしれません。特に、若いダンサーが大役をもらったときなどは先輩のダンサーたちがしっかりと支えます。
 ツアーも多いカンパニーなので、皆で行動することが求められますから、ディヴィドも協調性のある人柄を選んで採用していると思います。


 幅広いレパートリーをお持ちですが、これまで取り組んだ舞台や作品で、特に印象に残っているものがあれば教えてください。

- 僕はクラシックのダンサーだと思っています。「白鳥の湖」は僕にとっては特別な作品で、この作品を踊ることはずっと好きでした。若い頃からベンノなどの端役やコール・ドを経験してきましたが、"主役をやることはないだろう"と思った時期もありました。入団後に最初に主役をいただいたのは「眠れる森の美女」で、そのときに"僕でも主役が踊れるんだ"と思うようになりました。プリンシパルに昇進して最初の主役は「白鳥の湖」でした。
 また、まだ踊っていませんが、2週間後(4月末)にアメリカ公演の「ロミオとジュリエット」でロミオ役デビューします。故郷のアメリカでこの役を踊れることを大変楽しみにしていますし、家族も観にきてくれるんですよ!
 「カルミナ・ブラーナ」も大切な作品です。物凄くエネルギーのある作品で、ダンサーは怒りなどの生の感情をむき出しにして踊るのですが、中々そんな作品はないのでとてもやりがいがあります。
「リーズの結婚」も非常に面白い作品で、コーラス役をとても愛しています。鶏の踊りなど本当に愉快で、クラシック・バレエでこんなに面白い作品はないでしょう!! 心から楽しめるバレエなんです!!


D1.JPG貴重なスーツ姿!?のディングマン



 同僚である、プリンシパルのダンサーたちの魅力をご紹介いただけませんか?

― まずブランドン・ローレンスを紹介します。6フィート(約190cm)以上もある、とても身長が高いダンサーです。美しく長い脚、完全にバレエ向きの身体をもっていて、難しいテクニックも難なくこなしてしまうので、舞台が狭くみえるほどです。
 日本ツアーでブランドンの相手を務めるのはデリア・マシューズ。彼女はプリンシパルとして最初のシーズンなんです。とても身長が高く、体幹も強く、ダンサーとしての自信にあふれています。彼女の演じるオーロラ姫は弱々しいお姫様ではなく、他のダンサーにはない素晴らしいクオリティの姫をみせてくれます。ブランドンとデリアはよく一緒に踊るので良いパートナー・シップを築いています。
 桃子(平田)は技術的に非常に優れていて、才能に恵まれたバレリーナです。僕も彼女とはよく組んで踊るのですが、本当に素晴らしい、盤石のテクニックをみせてくれます。すでに経験が豊かで、リラックスして踊れる境地に達しているのでしょう。全てが自然で、楽しげで、あまりにも軽々と色々なことをこなしてしまうので、彼女が踊っているとても簡単そうに見えます。とてもエクサイティングなダンサーです。
 ゲストのマチアス・エイマンはパリ・オペラ座のトップで、非常に高名なダンサーです。美しい身体とテクニック、全てを兼ね備えています。彼の踊る映像は何度も拝見していますが、本当に素晴らしいと尊敬しています。フランスのスタイルなので僕らとは違いますが、異なるカンパニーのダンサーが一緒に踊るのは面白いことですし、桃子とはとても良い舞台をみせてくれると期待しています。
 セリーヌ(・ギッテンス)は僕の同期で、ともに2006年の入団です。プリンシパルにもほぼ同時期にあがりました。彼女は陽気で楽しい性格をしているんですけど、非常に練習熱心で常にスタジオにいます。情熱的なのでリーズ役にはピッタリですね! 彼女とペアを組むタイロンとともに、今回日本でロール・デビューを飾ります。ロール・デビューはダンサーにとって1回しかないわけですし、しかも主役のペア2人が一気にデビューするなんてとても貴重な舞台だと思います。カンパニーから日本のお客様への特別プレゼントだと思いますよ(笑)

※このインタビューは4月5日行ったものです