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2018/09/14 2018:09:14:10:50:14

キアラ・ムーティが語る『マノン・レスコー』

先日行われたローマ歌劇場2018年日本公演、開幕記者会見では『マノン・レスコー』の演出をしたキアラ・ムーティが本作の演出コンセプトをたっぷりと語ってくれました。演出家本人の語る作品への想い、どうぞお読みください。



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キアラ・ムーティ



 「『マノン・レスコー』はアヴェ・プレヴォーの文学作品(『騎士デ・グリューとマノン・レスコーの物語』1731年)が原作になっていて、プッチーニはジュール・マスネの『マノン』を見て大変感動し、同じ物語でオペラを書きました。プレヴォ―の原作は1700年代を舞台にした文学的にも非常に重要な作品です。二つのオペラは、一方はフランス的で、一方はイタリア的です。マスネの『マノン』では、マノンはとてもずる賢い派手好きな女性として描かれていて、音楽的にも有名なメヌエットに代表されるように非常に壮麗です。プッチーニの音楽はエモーショナルで、マノンは最初から自分の運命に何が起こるかを予感している女性です。男性に頼ることよって自分の運命が操られてしまう...限定されてしまうということを知っているのです。マノンは自分の意志をもっていました。自分自身が幸せになりたい。そのために、お腹がすいていたり貧乏でいたりということは避けたい。しかし、最後は愛に生きて死を迎えてしまう。重要なのは、1700年の世界を砂漠の上に作り上げたということです。最後マノンは砂漠で朽ち果て、彼女自身が自分を「砂漠のように枯れ果てた存在である」と口にして死んでいきます。幸せを求めていたけれど、それが果てせず死んでいく。その舞台が砂漠なのです」


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 「自分自身が女性であるということは、確かにオペラのヒロイン像を創り上げていくのに役に立っている部分があるかも知れません。女性特有のニュアンスであるとか...16歳から18歳くらいの女性が経験すること、青春時代の初恋のときめきといった気持ちを演じるのに、女性の立場から助言することも出来ます。同時に、私の師匠のジョルジョ・ストレーレルは『作品の中に入り込んでいくことが重要だ』と教えてくれました。 

『マノン・レスコー』は女性のことだけを語っているわけではなく、社会のことだけを語っているのでもない。マノンを愛人にするジェロンテは、かなり男性的な要素があると思います。作品の中に入っていくことに関しては、女性であるとか男性であるということは、あまり関係がないのではないかと思います」


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 「マノンを演じるクリスティーネ・オポライスは信じがたいほどの女優で、彼女は歌手である以前に女優なのです。声、声、声だけの歌手もいますが...オポライスに演技をつけながら、私自身が感動してしまったほど。デ・グリュー役のグレゴリー・クンデも素晴らしい歌手です。また、この来日公演ではエキストラの日本のダンサーや俳優たちに助けられています。イタリアと日本という全く違う文化の中で、プッチーニの世界を創り上げていくことは大変なのではないかと思います。皆さん努力を惜しまずに、朝から晩まで辛い顔ひとつせずに稽古につきあってくださる。このことに感動していますし、お礼を申し上げたい。残念ながらイタリアではこのような経験はなかなか得られないのです」



取材・文:小田島久恵(音楽ライター)



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