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2018/10/09 2018:10:09:11:30:02

マチュー・ガニオ(シュツットガルト・バレエ団日本公演客演) スペシャル・インタビュー

 11月のシュツットガルト・バレエ団の日本公演では『オネーギン』にパリ・オペラ座バレエ団エトワールのマチュー・ガニオがゲスト出演します。芸術監督のタマシュ・デートリッヒも太鼓判を押すほどのガニオのオネーギン役はなんと日本初披露! ガニオに今回の公演にかける意気込みを聞いたスペシャル・インタビューをぜひご一読ください。


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―はじめてバレエ『オネーギン』を見たのはいつですか?

 鮮明に覚えているのは、2007年の「ルグリと輝ける仲間たち」に参加した際に見た、ルグリと(モニク・)ルディエールの手紙のパ・ド・ドゥです。作品も、それを踊る二人も素晴らしかった。自分も踊りたくて、バレエの映像やオペラ、映画も見ました。オネーギン役に魅せられ、彼の心理や行動の動機をどうしたらダンスで表現できるか、人物像を裏切らずに演じられるか、考えてきました。


― パリ・オペラ座で2011年と2018年にオネーギン役を踊られましたが、7年を経て変化を感じましたか?

 2011年はエルヴェ・モローの怪我で急遽出演が決まり、夢中で取り組みました。タチヤーナ役はイザベラ・シアラヴォラ。2018年は、リュドミラ・パリエロと踊りました。7年ぶりに踊り、成熟を感じました。佇まいが変化し、動作に緩やかさや重みが加わり、役に説得力をくれた。初役の時にはオネーギンは自分とまったく違うと感じたけれど、年を重ね、人生や物事への幻滅も経験して、今では自分とオネーギンが重なる時もあります


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― オネーギンという人物を、どう解釈して踊っていますか?

 オネーギンをただの不愉快な人物に留めるのは、僕には難しいことです。彼はもっと深い。そうでなければ、第3幕でタチヤーナがあれほど苦しまないでしょう。賢いタチヤーナがなぜ彼に魅かれたのかを考えて、オネーギンを理解していきました。オネーギンは美しい。でも美貌が彼の魅力なら、むしろオルガが彼に魅かれたでしょう。オネーギンの魅力は知性です。過ちを犯すけれど、彼は人生や物事に関する智慧をもっているのです愛は過ぎ去る。愛し合っても、飽きて、裏切る時が来る...。タチヤーナの恋文を破るのは、彼女に愛の失望を経験させない、一種の誠実さだったのかもしれない。オルガを誘うのも、愛の空しさを教えようとしたのかもしれない。「ほら、あれほどレンスキーを愛していると言う君の妹でも、僕が声をかければ彼を放ってついてくる」、と。悪意と見える行動の後ろに、さまざまな思いがあると僕は考えるのです。


― 作品でどの場面がいちばん好きですか?

 最後の手紙のパ・ド・ドゥです。振付にはハードな技術が盛り込まれ、身体も疲労して、考えすぎずに本質に近付くことができる。互いを心から信頼し、身を任せます。愛を乞い、己の罪を償う姿は、極めて悲痛だけれど美しい。二人が愛し合っているのは疑いない、でももう遅い。人生では時を誤ることがあるでしょう?この悲劇的な結末は、人生の本質を語るのです


―オネーギンは、いつタチヤーナに恋に落ちたと考えていますか?

 明確に気付かないまま、第3幕ではっきり自覚したのではないでしょうか。第2幕の終わりでも、二人は強い感情を通い合わせています。それはもうすべて取り返しがつかないという、深い絶望ですが。


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― オネーギン役の稽古はどのように進みましたか?

 今年のパリ・オペラ座での『オネーギン』上演にあたり、芸術監督のタマシュ・デートリッヒが指導してくれました技術や音楽性は完璧に、振付も変えませんが、ダンサーの個性に合った提案をしてくれるのが面白い。ダンサーが探求する余地を与えてくれるのです。


― タチヤーナ役のエリサ・バデネスとの共演は初めてですね。

 2年前、シュツットガルト・バレエ団のガラにゲスト出演したとき、皆が互いを気遣う、人間的で温かいバレエ団だと感じました。エリサは、このイメージを体現するダンサー。初めての相手と踊ると多くを学ぶし、彼女と役を深めていくのが今から待ち遠しいです。


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― 日本のファンにメッセージをお願いします。

 皆さんの支えと惜しみない愛情に、心から感謝しています。僕にとって、日本は夢やプロジェクトを実現できる特別な場所。大切なこの役を、作品が生まれたバレエ団で踊れるのは夢のようです。皆さんにも自分にも、忘れられない公演になるよう努めます。


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取材・文:岡見さえ(舞踊評論家)



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