What's New

2018/10/12 2018:10:12:11:40:53

フリーデマン・フォーゲル(シュツットガルト・バレエ団) スペシャル・インタビュー

 シュツットガルト・バレエ団の日本公演まであと3週間! 今回上演する『オネーギン』、『白鳥の湖』で初日の主役をつとめるのはフリーデマン・フォーゲル。カンパニーを代表するダンサーとして度々来日を重ねてきたフォーゲルが、今回の公演にかける想いを語った熱いインタビューをお贈りします。ぜひご一読ください。


IMGL9807.jpg

シュツットガルトの男性にとって、『オネーギン』は神聖な作品です。


----フォーゲルさんは、1998年の入団以来、一貫してシュツットガルト・バレエ団でキャリアを積んできました。あなたにとって、このバレエ団の魅力とは?


 シュツットガルトでは、クランコを始めとする全幕作品に加えて、毎シーズン、新作のクリエーションに関わることができます。他のバレエ団やガラに出演して視野を広げることも大切ですが、ホームと呼べるバレエ団に所属していないと、系統だったレパートリーを踊れません。私達のレパートリーは、実に多彩なんですよ。さらには、同僚のダンサー達は、その人それぞれの個性を持ち、まるで違う言葉を話しているかのように異なるイメージを生み出す。そこに身を置くことによって、自分を成長させることができる。それが私にとってのシュツットガルト・バレエ団です。


---- 今秋のシュツットガルト・バレエ団日本公演では、看板演目の『オネーギン』が上演されます。意外なことに、フォーゲルさんの長年の持ち役はオネーギンの友人レンスキーで、表題役を初めて演じたのは、つい4年前のことででした。


 シュツットガルトの男性ダンサーにとって、『オネーギン』は神聖な作品です。ようやく踊るチャンスに恵まれ、感無量でした。実際に演じて発見したのは、完全燃焼できる役柄だということ。レンスキーも重要な役ですが、オネーギンと決闘した結果、物語の途中で突然、命を落としてしまう。出番が終わった時、実はどこか満たされない気持ちが残っていました。でもオネーギンは、最後までドラマに関わり、思い悩み、タチヤーナに思いの丈をぶつけ、その思いは成就しなくても、役を全うする。幕が降りた時、全てを出し切り、自分が空っぽになってしまったと感じるほどです。


_DSC7492_3.jpg

『オネーギン』は私たちの人生そのものを映し出します


---- この作品は、なぜ、観客を魅了してやまないのでしょうか。


 私達の人生そのものを映し出すからでしょう。確かにオネーギンという人物は、好人物ではありません。厭世的で、田舎のブルジョア達を見下し、タチヤーナの美貌に目を留めても、彼女の芯の強さは見過ごし、他人を傷つけてしまう。でも、人間は善人ばかりではありませんから、誰しも、同じような状況に遭遇したことがあるはずです。オネーギンの狭量さに共感できなくても、彼の生き方に心を動かされるのだと思います。


----幕切れでタチヤーナとオネーギンが踊る、万感胸に迫るパ・ド・ドゥは圧巻です。タチヤーナ役のバレリーナと、どのようにパートナーシップを作り上げるのですか。


 チャイコフスキーの叙情的な音楽にのって、演劇性豊かなクランコ振付を踊る----。パートナーと二人で役に飛び込み、二人の世界を築き、二人の物語を紡ぎ出すのです。感情を吐露するだけでなく、クランコの高度な振付を踊りこなさなくてはなりません。十分に稽古を重ねて互いを理解し、信頼関係を築くと、エネルギーが湧き出し、マジカルな舞台を生み出すことができます。


Onegin(Stuttgart Ballet)_DSC2708_1(photo_Roman Novitzky).jpg


----もう一つの演目は、クランコ版『白鳥の湖』。音楽の編成や幕切れの情景は、オーソドックスな演出とは異なります。


 振付の大筋は伝統的なプティパ=イワーノフ版に準じていますが、よりドラマチックに改訂されています。様式的なマイムを使うかわりに、何気ない立ち居振る舞いで登場人物の心の動きを描き出します。王子はオデットを見つめ、彼女に駆け寄り、手を差し伸べ、そっと抱き寄せる。型通りの演技ではなく、ディテールを積み重ねて、細やかでリアルな表現に昇華していきます。ユルゲン・ローゼの美術も見事です。なかでも第三幕の宮殿のシーンでは、舞台装置が屹立し、王子を追い詰めているようです。オディールとのパ・ド・ドゥの音楽編成も独特で、視覚と聴覚の両方から、オディールが王子を翻弄する様子を具現していきます。


3686_3.JPG


----王子とオデット姫が悪魔に打ち勝つのではなく、ともに命を落とすのでもない、独自の幕切れは、深い余韻を残します。


 二人は永遠に結ばれることはないのです。この物語の悲劇性を増す解釈だと思います。終幕のパ・ド・ドゥもクランコのオリジナリティが光る振付で、最後に待ち構えている悲劇を際立たせる。クランコの深い洞察力に圧倒されます。


AS.jpg


----今年9月、タマシュ・デートリッヒ氏がシュツットガルト・バレエ団の芸術監督に就任します。新シーズンへの期待と日本公演へのメッセージをお願いします。


 来シーズンのレパートリーは、エキサイティングですよ。アクラム・カーンやイリ・キリアンが新作を振り付け、マクミランの『うたかたの恋』を初上演します。日本公演は、タマシュの就任後、初の海外公演です。新監督の船出を素晴らしいものにするためにも、最善を尽くします。


IMGL9778.jpg

取材・文:上野房子(ダンス評論家)



チケットのご購入はこちら>>>