2019/08/10 2019:08:10:10:26:43[NBS最新情報]
本年9月に来日する英国ロイヤル・オペラ。今回は日本での全曲上演が極めて稀なオペラ、グノー作曲『ファウスト』を上演します。本作の主演をつとめるのは、今をときめくスター・テノール、ヴィットリオ・グリゴーロ。先日までアレーナ・ディ・ヴェローナの『椿姫』に出演していたグリゴーロに、忙しいリハーサルと本番の合間をぬってインタビューを行いました。オペラへのパッション溢れる熱いインタビューです。ぜひご一読ください。
Q オペラ歌手になったきっかけは?
幼い時にオペラ歌手である叔父の声を聴いて衝撃をうけました。「マイクを使っていないのになんて声なんだろう!」と。普通の声ではなかったのです。それから「僕も歌おう!」と決意しました。
その想いが僕の根底にあるので、今もオペラにこだわっています。
Q オペラの役に取り組んでいるときは、どのようなことを考えていますか?
いつも自分が取り組んでいる作品が一番楽しいですね。常にエンジョイすることを心がけていますし、常に今歌っている役に集中しているので他のことは考えられません。
これまで50くらいの役を歌ってきましたが、どの役も大好き! オペラはたった1つのフレーズも疎かにするはできませんが、それを1つ1つ着実にこなすことも楽しんでいます。
オペラには様々な表現方法があります。オペラなら楽譜、映画なら台本がベースになりますが、そこから実際の舞台をどのように創り上げるかが大切なことで、アーティストはそれぞれ異なるべきです。かかれたものを理解し、自分のものとしたうえで、そこから新たなものを生み出すことがアーティストの仕事です。
Q フランス・オペラも得意にしていますね
子どものとき、フランスに住んでいたこともありますので、フランス語は僕にとって第二の言語です。『椿姫』、『リゴレット』、『ボエーム』、『トスカ』といったイタリア・オペラも大切ですが、『マノン』、『ロミオとジュリエット』、『ホフマン物語』、『ウェルテル』も僕にとってとても重要な作品です。2020年には『カルメン』デビューも予定しています。これからももっとレパートリーを増やしていきたいですね。
Q 今回歌う「ファウスト」について、あなたはどのようなオペラだと思いますか?
「ファウスト」は僕にとってとても大事なオペラ。ロンドンで歌ったとき、最初の老人として登場する場面をしわがれ声で歌ったので、みんなとても驚いていました。僕は、ファウストは90歳のおじいさん、という設定なので若い声で歌うよりも、この表現の方が良いと思っています。
『ファウスト』は物語も美しいです。現代でもおこりうる話とファンタジーの世界が同居しています。とてもモダンで、"愛"との付き合い方についても考えさせられます。最後の場面もとても大切です。人にとって何が大事なものなのか、どのように時間を使うのが人生において大事なことかを教えてくれるオペラです。「もう1回やり直せるチャンスがあったら」...と誰しも考えることがあるでしょう?とても奥が深い作品です。
Q 『ファウスト』の中でも、ここを聴いてほしい!と特に一押しの場面はありますか?
全部です(笑)。オペラはリサイタルではありません。オペラはチームワークです。今の段階でも自分の理想像を模索中ですし、まだ見つけ出せていないのかもしれません。うまく答えられないのですが、自分の納得できる歌が歌えるよう、そのための努力をしています。
Q イタリア・オペラとフランス・オペラの違いはどのような点にあると感じますか?
フレージングが全然違いますね。音楽のスタイルも違います。フランス・オペラではポルタメント(音と音を滑らかにつなぐ演奏技術)がないこともあります。また、イタリア・オペラではダイレクトな感情表現をしますが、表面的であってはいけません。フランス・オペラでは情熱を内に秘めた表現をする必要もあります。
Q マエストロ・パッパーノについてお話いただけますか
これまでたくさん共演してきました。『ファウスト』、『マノン』、『トスカ』...彼との仕事はとても重要ですし。親しい友人でもあります。マエストロはとにかく信じられないくらい素晴らしい方です! ピアノの腕も確かで、何よりも、何がオペラにとって大切か、何が意味をもつのかを我々歌手が歌うよりも先に考えて導いてくれるのです。
Q あなたのリサイタルやオペラの舞台を観ていると、心から楽しんで歌っているのだと感じます。
そう感じていただけるのは嬉しいですね。僕の気持ちより観客の皆さんの気持ちが大切です。観客とは信頼と愛を築いていかなければならないと考えています。そして、観客の皆さんに自分の本当の姿を伝えなければ感動はしてもらえないと思いますし、そのための努力をしています。
自信をもって歌う...というのはとても難しいことです。オペラは過去の音楽と思われがちですが、僕はポップでもあり、現代の音楽だと思っています。僕の出る舞台はショウとして、エンターテイメントとしても楽しんでいただきたいと思っています。
Q 昨年の12月には日本でもリサイタルも大成功をおさめました
あのコンサートに来てくださった方なら、日本人が静かで大人しいだけ...という認識が間違いだとわかるでしょう(笑)。僕のコンサートにはロックの要素もありますから(笑)。
日本人は公の場では厳粛でシャイだと思いますが、普段は表に出さないだけで、内側にはイタリア人よりも熱いものを秘めていると思います。僕がやろうとしているのは、まさにそのような内側の情熱に火をつけること。お客様を熱狂させたいですし、日本人の心をもっとオープンにしたいですね。
Q 様々なアーティストとのコラボレーションも積極的に行っている反面、オペラというジャンルにこだわって歌い続けているのはなぜですか?
他のアーティストとの仕事はとても刺激的ですし大好きです。かつてクイーンのブライアン・メイとアリーナで共演して歌ったことがあります。そのときの映像がこれ(嬉しそうに動画をみせてくれました)。彼との仕事は歌手として以上に、人として多くのことを学ぶことができました。これからもそんな機会があることを願っていますし、大きなプロジェクトにはとても興味があります。東京オリンピックなんてどうかな?(笑)
同時に、僕はイタリア人なので、イタリアの大切な文化を守っていかなければならない、と考えています。世界中で歌う機会がありますが、そこで得たものをまたイタリアに持ち帰ってきたいと思います。偉大なパヴァロッティ(ルチアーノ・)は亡くなってしまいましたが、
誰かが彼の後を継いで、大切なレパートリーを未来に伝えていかなければならないのです。それは「僕がやるしかない!!」と思っています。