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2019/09/02 2019:09:02:17:05:20

英国ロイヤル・オペラ2019年日本公演 イルデブランド・ダルカンジェロ(『ファウスト』メフィストフェレス役)インタビュー

英国ロイヤル・オペラの日本公演初日まであと10日となりました。本日は『ファウスト』でメフィストフェレス役をつとめるイルデブランド・ダルカンジェロのメールインタビューをご紹介します。

これまでにも『ドン・ジョヴァンニ』、『カルメン』、『コジ・ファン・トゥッテ』などの数々のオペラで客席を魅了してきたダルカンジェロが、日本で初披露となる同役への想いをたっぷりと語ってくれました。ぜひご一読ください!



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イルデブランド・ダルカンジェロ


◆「ファウスト」のメフィストフェレス役はすでに何度も歌われていますが、同役はあなたにとってどのような役ですか? ほかの悪役と比べて、どのように感じられますか?


メフィストフェレスは非常に複雑な役です。特に歌唱面では様々な要素が絡み合っていて、ある種完璧な、見事な悪役だと感じます。歌手には暗く悪魔的な声と、アイロニーを表現したり、人々をからかう巧みさを見せるための明るい声も必要です。
これまでに私はグノー、ベルリオーズ、ボーイト、それぞれの悪魔(メフィストフェレス)を歌いましたが、率直なところ、グノーの悪魔が最もロマンチックだと思います。例えば、ベルリオーズの『ファウストの劫罰』の悪魔がより概念的で夢のような存在であるのに対し、グノーの生み出したメフィストフェレスはもっと人間的で、私にはよりリアルな表現、登場人物だと感じられます。そしてこの悪魔を彩るための手法は無限大にあると感じています。


◆『ファウスト』の音楽のどのような点がお好きですか? 特にお気に入りの場面などはありますか?


教会のシーンですね...この場面の音楽の素晴らしさについては言葉では表現できません。ただひたすらに、私の心に響き、とらえて離さないのです。特にコントラバスが三連音符を鳴らすとき、悪魔のもつ邪悪さが、この作品においていかに巨大な力をもっているか、ということをグノーは実に的確に表現しています。


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「ファウスト」第4幕より、教会の場面


ー私ができる最善のことは、私のすべてをグノーの音楽で満たすこと


◆メフィストフェレスは音楽的にも演劇的にも難しい役です。歌うときに特に注意している点はありますか?


メフィストフェレスを演じる難しさは、すべての色彩を求められることです。つまり暗さと明るさ、ジョーク、アイロニー、誘惑、倦怠、説得力など、ありとあらゆる側面を表現しなくてはならないのです。身体、そして声で表現するわけですが、メフィストにとってはそれらはすべて一つのゲームなのです。たとえば、彼の歌うセレナードはまるでジョークのようですが、同時に無情な雰囲気を出すことも必要です。ですから、私ができる最善のことは、私のすべてをグノーの音楽で満たすことです。そうすることで、おのずと役柄にふさわしい選択がなされていきます。また、メフィストフェレスは常にエレガントでなくてはなりません。彼がパワーを得る秘訣は、優雅さに磨きをかけること。なぜならその中にこそ、彼にとって必要な誘惑の魔力が存在するからです。そのことは彼の歌に反映されています。彼の歌は決して野蛮ではありません。


◆メフィストフェレスの視点からみて、オペラ『ファウスト』のどのような点が魅力でしょうか?


メフィストフェレスの存在が『ファウスト』を面白くしています。彼こそが物語の演出家なのです。彼はファウストに仕えるかのように見せながら、実はファウストを操るのです。ファウストが契約書にサインをした瞬間、ファウストは悪魔の操り人形と化すわけです。


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『ファウスト』第2幕より


ーマクヴィガーはどの場面も非常に明確に描き出しています。


◆今回は現地でも長く愛されているマクヴィガーの演出です。この演出は歌手からみてどのような特徴があると感じますか?


マクヴィカーの演出はとても気に入っています。マクヴィガーはどの場面も非常に明確に描き出しています。特に登場人物は、それぞれ異なる衣裳で、非常に分かりやすく演出されています。正直なところ、今日、まさにこうした演出が必要だと思っています。なぜなら、私たち歌手が舞台で演じるとき、このような演出によって、より一層その役柄になりきれるからです。もちろん、悪魔的精神というものは、どのような演出の中にも存在しますが、視覚的効果は、さらにその役の感情に深く入りこむことを助けてくれるからです。それは私が鏡の中の自分を見るときだけではなく、観客の皆さんの理解のためにも役立つことだと思います。もちろん、役を最大限に表現するためには、歌唱力の完成度も必要です。


◆英国ロイヤル・オペラには何度も出演されていますが、あなたにとってはどのようなオペラハウスでしょうか?


歌手にとって、それぞれ「家」のように感じるオペラハウスがあります。私にとっての「家」はウィーン国立歌劇場と英国ロイヤル・オペラです。劇場に対し、そのような感情を持てることは本当に幸運だと思います。英国ロイヤル・オペラは世界最高峰の一つなわけですから。英国ロイヤル・オペラとは、1995年以来仕事をしてきましたが、彼らは常に、プロフェッショナルで、共演者を尊重し、常に最高の舞台を提供しています。「ロイヤル」はまさにこのカンパニーを表す言葉です。


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『ファウスト』第2幕より。


◆マエストロ・パッパーノとも何度も共演されています。彼と仕事をすることにはどのような意味がありますか?


たしか1991年のベルリン国立歌劇場での『カプレーティとモンテッキ』が彼との最初の仕事だったと記憶しています。その後、何年にもわたり、私は彼とともに成長してきました。すべての瞬間を心から楽しんできました。彼のことは素晴らしい音楽家として、また人間として尊敬しています。


◆最後に日本のファンへメッセージをお願いします。


いつも申し上げているのですが、日本のファンの皆さんは本当に素晴らしい! たとえば、終演後、サインを求めて何時間も出待ちをしてくださる。私のキャリア初期の写真やCDを見せてくれたりするときなど、私はまるでポップスターになった気分です。出演後は、たいてい早く家に帰って休みたいと思っていますが、日本では、ファンの皆さんにご挨拶するためのエネルギーを残しておくよう、頑張っていますよ(笑)。だって、皆さんの愛情は本当に有難いですから。芸術に対する日本の皆さんの熱意に感謝しています。





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