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2021/06/02 2021:06:02:20:53:02

追悼 カルラ・フラッチ ~第1回〈世界バレエフェスティバル〉(1976年)出演時の思い出~
5月28日に当ホームページにて"イタリアの名花"カルラ・フラッチ氏が逝去されたことをお知らせいたしました。

フラッチ氏はNBS(公益財団法人日本舞台芸術振興会)、および東京バレエ団の創設者である故・佐々木忠次とも親交が深く、東京バレエ団を愛してくれていました。過去5回にわたって〈世界バレエフェスティバル〉に出演し、東京バレエ団のイタリア公演の際には会場にかけつけ、終演後にはダンサーたちに労いの言葉をかけてくれていました。

ここに、第1回〈世界バレエフェスティバル〉出演時の思い出を語ったインタビュー全文を再掲し、故人を偲びたいと思います。

NBS、東京バレエ団一同、カルラ・フラッチ氏のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

公益財団法人日本舞台芸術振興会
東京バレエ団

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第1回〈世界バレエフェスティバル〉カーテンコールより。写真右端「ラ・シルフィード」の長いロマンティック・チュチュに身をつつみ、花束をかかえているのがフラッチ


1) 〈世界バレエフェスティバル〉の開催を初めてお聞きになった時はどんな印象を受けられましたか?
フラッチ世界の有名なダンサーが一同に東京に集まるなんて夢のようなことでしたから、最初は信じられませんでした。でもなかなか身近に会えない方たちと東京でご一緒できると思うと、来日が楽しみでたまりませんでした。世界バレエフェスティバルで過ごした時間は、私の人生の中でも最も充実した重要な時間になりました。

2) 現場はどのような雰囲気でしたか? 他のダンサーとの交流の思い出はありますか?
本当に夢のような毎日でした。マーゴ・フォンテインやマイヤ・プリセツカヤ、アリシア・アロンソと一緒に過ごせて幸せでした。お祭り気分でフィナーレを楽しんだこともはっきり覚えています。佐々木さんもNBSの方々も、皆さんとても親切で、私たちが過ごしやすいように気を配ってくださいました。良い思い出ばかりが残っています。そう、マリシア・ハイデもいたと思います。私たちは和気あいあいの関係でよくおしゃべりも楽しみました。
いつも車で移動していたのですが、ある日交通渋滞でどうしても本番に間に合いそうもなくなってしまって、地下鉄に乗りかえるという冒険をしました。パオロ・ボルトルッツィとロシア人のカップルと一緒だったと記憶しています。とても不安な思いをしましたけれど、今では楽しい思い出になっています。もちろん、本番には間に合いました。

東京バレエ団とは家族のようなお付き合いをさせていただきました

3) 全幕プログラムでは『白鳥の湖』、ガラでは『ラ・シルフィード』を踊られました。舞台の思い出を聞かせてください。
ものすごく緊張し、興奮していました。最初から最後まで緊張の連続でしたよ。このような大切な舞台で踊ることは自分のキャリアにおいて素晴らしい経験になりました。そのうえ、偉大なダンサーの方々とご一緒できて、とても名誉なことだと思っていました。いつまでも記憶に残る思い出です。今でもとても懐かしく思い出します。東京の観客の皆さんはとても熱心で優しくて、気持ちよく踊ることができました。この素晴らしい思い出は『感動』以外の何物でもありません。
私はその後も東京バレエ団とは家族のようなお付き合いをさせていただきました。東京バレエ団と一緒にツアーにも参加したのですよ。大阪にも行きました。スカラ座での東京バレエ団の公演の時もご一緒しました。
思い出すと懐かしくてすぐにでも東京へ行きたくなります。残念なことに、あの時ご一緒したダンサーは亡くなられた方が多いのですが、皆さんと東京に集まって思い出話をしたいです。

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第1回〈世界バレエフェスティバル〉より

4)〈世界バレエフェスティバル〉が実現し、世界のバレエ関係者の間ではどのような反響があったでしょうか?
世界有数のバレエ界のスターが、東京に集まるフェスティバルを実現させた佐々木さんの凄さを心から尊敬する声が多かったです。バレエ界の誰もが驚く企画だったと思います。当時の私は参加できたことは嬉しかったけれど、偉大な先輩と一緒に舞台に立てるということだけで精一杯でした。

5) 第1回〈世界バレエフェスティバル〉に出演した際、故・佐々木忠次さんの思い出は?
とにかくエネルギッシュな方! という印象でした。キビキビと動かれていました。一緒に仕事をする中で、自然とお互いに信頼関係に発展していったわけですが、佐々木さんのバレエに対する情熱が伝わってきました。いつも周りのすべてのことに注意なさっていましたね。細やかな気遣いやおもてなしで私たち皆を歓待してくださいました。
佐々木さんの思い出はたくさんあります。佐々木さんと知り合えたことを幸せに思います。今でも尊敬の気持ちで佐々木さんのことを思い出します。

第15回〈世界バレエフェスティバル〉公演プログラムより
取材・文:田口道子