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2021/10/26 2021:10:26:11:09:41

金森穣 東京バレエ団振付滞在記

この11月に世界初演される東京バレエ団「かぐや姫」の振付家 金森穣氏が、創作のために2021年3月からたびたび東京に滞在された際の日記をブログより転載させていただきました。スタジオで創作に臨む振付家の日々の思いに心を馳せながら共に舞台の開幕を迎えていただければ幸いです。

転載元の金森氏のブログはこちら https://jokanamori.com/blog/

第1期(3月8日〜19日)

Photo: Shoko Matsuhashi

Day1 オーディション〜記者会見

 大きなスタジオ(日本一大きいのでは?)で、東京バレエ団の全団員と初顔合わせ。オーディションではあるけれど、何かを踊ってもらう為に振付を始める。その空気感、気配、感触がこれからの創作を左右するし、私を知ってもらう一番の近道だから。勿論初日だからこちらにもあちらにも戸惑いはあるけれど、感触としては良い感じ。すでにキャスティングは絞り、明日から本格的に創作を始める。

 夕方は記者会見。超豪華なロココ調の部屋で多くの記者を前に、東京バレエ団への思いや新作の構想を話す。日本語で話している以外、ここが日本であることを忘れる。そして話せば話すほど、この作品に対する自らの思いに気付く。そう、私の中には既に全幕がある。課題はそれをいつ、どのように振付し、発表していくか。今はただ、全幕が上演される日が来ることを願い、信じ、創作に励む。

Day2 創作開始〜佐和子の授賞式

 昼に一回り狭いスタジオで、少人数で創作を始める(大スタジオでは他の団員がバレエクラス)。童たちのシーンなので、童心に帰って身体を使う。最初は恥ずかしげな舞踊家たちと心理的距離を縮め、どんどん笑顔になって行くのが嬉しい。実演が羞恥心と無縁でないように、振付も羞恥心と無縁ではないのだ。自分という一個人のプライドや顕示欲を捨てて、音楽に集中する。目の前の舞踊家に集中する。

 夕方は佐和子の芸術選奨贈呈式。感染防止対策で選考委員や推薦人が来場しなかったので、直接お礼をお伝えできなくて残念。それでも、ハレの舞台に緊張気味の、少女のようにソワソワしている伴侶の、晴れやかな姿を目にできて嬉しい限り。さあ、明日はいよいよポワント女性群舞、バレエの醍醐味に挑む。

Day3 構成という実験

 今日はプロローグ(緑の海)の実験。既に頭の中にある構成ではなく、女性たちに何度も、何度も異なる構成で実践してもらう。動きが多過ぎても、カノンを凝り過ぎても美しくならない。最終的にはシンプルな構成が一番であることを、改めて認識する。そして24人の女性が一斉に同じ動きをするだけでいかに美しいことか。それこそバレエ芸術の真骨頂。明日は今日の実験を元に、もう少し組み立てていく(先に進めていく)

 夕方は1幕の2シーン(童たち/翁のソロ)を創作。こちらは遅々として進まなかった。振付には創作的側面と指導的側面(動き方を教えることと、何ができるかを探ること)があるけれど、今日は指導的側面に時間をかけ過ぎた。反省。明日はもっと創作的に挑まなければ時間が足りなくなってしまう。
 余談。とても尊敬し、信頼しているある方に、1幕の使用楽曲リスト(私の選択)を見て頂いたら、「素晴らしい」とのお墨付きを頂けた。これで何の心配もなく振付に没頭できる。物語バレエにおいて使用楽曲は台本と同義だから。

Day4 準備という効率化

 今日は稽古の前にスタジオで佐和子を使ってマテリアルを創る。群舞の場合は構成に時間がかかるし、全員が覚えるまでにも時間がかかるから、あっという間に時間が過ぎる。おかげで女性群舞は少し進んだので、明日も同様に佐和子と準備をしておくつもり。その他のシーン(童たち/翁のソロ)はその場で舞踊家と生み出したけれど、今日は順調に進んだので良かった。仕上がりもいい感じなので安堵。とはいえ、残りあと6日間。のんびりはしていられない。

 個人的に振付は、準備をしておかず(勿論頭の中のイメージはある)舞踊家の目の前で、舞踊家と共に生み出したい。それが舞踊家として振付をもらうことの醍醐味だし、振付家を触発することで創作に加わることこそ、新作の醍醐味だから。けれど創作が時間との戦いである限り、やはり効率も大事。

 余談。今回はNoism設立以来初めてとなる外部振付だけれど、自らのプロジェクトではなく、他の舞踊団に振付するのは2003年のヨーテボリバレエ以来18年ぶりのこと。芸術監督としてではなく、振付家として純粋に創作することを楽しんでいる。

Day5 第1週終了

 あっという間の5日間であった。まるで熱に浮かされたように時間が過ぎ、日々が過ぎていく。その成果としての振付は順調に進んでいるけれど、それはあくまでもラフスケッチ。ひとまず創ることに専念して(質には目をつぶって)いる。そうでなければ今回の目標である1幕の半分を仕上げることはできないから。もっと教えたり、細かく見たり、質にも時間を費やしたいけれど、今は我慢。前に、前に進む。

 Noismを立ち上げ17年かけて構築してきた身体性は、当然一朝一夕に理解/体得できるものではない。それでもその片鱗を伝えたいし、私の作品を踊ることが舞踊家にとって学びや気付きの機会となることを願っている。なぜならこのクリエーションは今回で終わりではなく、ここから始まる長い道程のスタートなのだから。(そう信じている)

Day6 休み

 一日中頭の中で緑の海が渦巻いていた。その渦をどのように視覚化(舞踊家)するかを考え続けていた。

Day7 休み&準備

 土日は団員と稽古ができないのだけれど、今日は佐和子と稽古場へ出向き、空いているスタジオを使わせてもらってマテリアル作り。勿論佐和子の身体の向こう側に、今回のキャストの面影を見据えながら。

Day8 第2週スタート〜本腰を入れて

 今日は朝から衣装デザイナーと打ち合わせ。世界観や色味など、頭の中で息づいている登場人物たちについて説明(言語化)しながら、自分の中でさらにその輪郭がはっきりして来た。いよいよ舞台芸術の創作が始まった感。振付、衣装、美術、照明、それらが渾然一体となった表現こそが、総合芸術としての舞台芸術だから。

 その後は童たちのシーンのラフスケッチを仕上げ、緑の海をもう少し進め(群舞は時間がかかる・・・)、村人たちのシーンの振付開始。舞踊家たちにテーマを与えて、各自にポーズを考えてもらいながら構成していく。こういったコンテンポラリーな創作プロセスをバレエダンサーたちに経験してもらうことも一つの意義。思いの外アイデアを出してくれるし、そのプロセスを楽しんでいるようで何より。

Day9 体調不良でも進む創作

 今日は夜中に地震で起きたり、明け方腹痛で起きたり、眠れなかったから体調は良くなかったけれど、創作は順調に進んで何より。まず翁のシーン1のラフを仕上げ、緑の海の前半部分(海の部分)を進めた。明日には前半仕上がるかな。後半部分(竹藪の部分)は8月の第2期創作に持ち越し。村人のシーンもさらに進んだから、明日で村人のシーンのラフを仕上げれば、当初予定していた今回の振り付け目標は大方達成。本当は緑の海の全てを仕上げる予定だったから、完全目標達成ではないけれど・・・事を急いては仕損じる。

 稽古後は取材。会見で話したことを改めて語りつつ、Noismとの比較や、今回の主要キャストの舞踊家たちの印象についても語る。今回の創作が彼らにとって、「金森穣作品を踊った」以上の価値あるものとなることを願う。そしてそれが、この国のバレエ界に大きな一石を投じるものとなることを切に願っている。語れば語るほど、作品のイメージがクリアになって行くし、自らが今ここで、東京バレエ団と創作していることの意味や価値を実感してくる。

Day10 高い目標/不可欠なダメ出し

 今日は1幕のハイライト(かぐや姫と道児)、パドドゥの創作開始。予定にはなかったことだけれど、感触を確かめたくて始めてみた。手応えを感じられて何より。その後は村人のシーンを進め(明日で終わるか?)、緑の海は前半部分が完成。双方ともに大人数のシーンだから時間がかかるし、不安だったけれど、どちらもいい良い感じに仕上がっている。どのシーンを切り取っても見応えのある、良いものにしたい。創作における欲は深くていい、目標は高くていい。そうでなければ創作なんてする必要ない。

 夕方、とても尊敬し、信頼しているある方が稽古見に来場。振付した全てのパートをお見せする。核心をついた指摘に感嘆し、至らない自分に対する悔しさと、この時期に意見を頂けることに有り難さを感じる。どれほど評価を得ても、ダメ出しを受け付けられなくなったらお終。明日は一歩下がって、もう少し俯瞰で、この10日間に団員たちと創り上げた作品を見つめる。

Day11 質と予算と時間と現実

 今日は各シーン全てをチェックして、それぞれに加筆修正をし、若干踏み込んだ質的な部分も稽古する。漸く村人のシーンも仕上がり、なんとか振付目標は達成。まだ半分残っているけれど、方向性は間違っていないし、舞踊家たち個々の課題も分かって来た。8月の第2期は残りの部分を振付しつつ、さらに踏み込んで質的な部分に注力したい。新しい振付を通して、普段は意識していないこと、考えてみなかったことに気付く機会を与えたい。それがゲストとの、外部振付家との作業の意義でもあると思うから。

 夕方はテクニカル打ち合わせ。ZOOMを利用してチーム金森のスタッフと東京バレエ団のスタッフに、作品に必要な小道具、大道具、仕掛け等を説明していく。私の希望を全て伝える。ここからはそれがどこまで実現可能なのか、常にある現実、予算との兼ね合い(戦い)が待っている。妄想している時が一番楽しい。実現させることが一番大変。実現した時が一番嬉しい(当たり前)

Day12 第1期全日程終了

 今日は朝から各シーン最後のブラッシュアップ。シーン毎に、振付の確認、カウントの確認、ニュアンスの確認、目指す方向性(演出)を確認する。そしてそのあとに、シーン毎に映像に収めて行く。そうすることでこれからの4ヶ月、舞踊家たちが時折自分でチェックできるから。その後は皆にこの2週間の感想、今の自分の率直な想いを伝える。目指している高みまでどれほど遠いか、それでも皆で必ずいけると信じている、と。この作品は世界で唯一無二の、金森穣と東京バレエ団の作品であり、皆の為の作品である、と。

 そして荷物をまとめて東京駅へ。今これは新幹線の中で書いている。怒涛の2週間。確かな手応えを感じながら、登るべき山の大きさに不安がないといえば嘘になる。それでも今は、東京バレエ団と登るべき(登りたい)大きな山が、目の前にあることに感謝している。


第2期(8月9日〜20日)

Photo: Shoko Matsuhashi

Day1 再開(再会)〜振り向かずに前へ

 4ヶ月ぶりの振付再開。まずはポワント女性群舞(昼の竹藪)の続き。前回の振付パートをおさらいしたり、この数ヶ月で気付いた修正をしたりする間もなく、続きの振付を開始する。自らは勿論のこと、舞踊家達に、なるべく早く全体像を掴ませてあげたいし、その上で音楽性や質感、特に群舞にはとても重要な呼吸の稽古をしたいから。とはいえ初日。昨日まで本番のあった舞踊家達の、少し疲れた様子を感じながら、ゆっくりじっくり進めていく。

 夕方もポワント女性群舞(夜の竹藪)。今日は一日ポワントの女性達に振付。ポワントは難しい。私自身は勿論ポワントを履いていない(履けない)訳で、どうしても足元の処理(振付)が、おざなりになってしまう。この機会にもっとポワントによる足捌き(重心移動)を学ばなければと思う。その上で、どのようにしたらもっと全身を使って踊れるかを教え、女性達を、自らの抱くイメージまで導いていければと思う。

Day2 引き上げと低重心〜バレエとNoism

 昼の竹藪の続き。群舞は時間がかかるけれど、確実に進んでいるので何より。バレエを踊る女性達(男性も)は、ポワントで立つために相当身体を引き上げる。主に妖精などを踊る(物語る)バレエにおいて、体重を消すこと、すなわち引き上げることは、その技術の核心とも言える。ポワントワークは超絶技巧なのだと再認識。しかしそうすることで横隔膜が閉じ気味になり、脱力はしづらくなる。言い換えるとそれは、動きに呼吸を伴わせることがしづらくなるということ。

 夕方は4ヶ月ぶりにパドドゥ(道児とかぐや姫)。こちらはバレエシューズだけれど、日頃ポワントワークに慣れている女性達の、身体に染み付いた引き上げ方は同じ。いかにしたら滑らかな体重移動、しなやかな動きの連動を生み出せるか。それをどう伝達するかが課題。リフト慣れしている男性陣は頼もしいけれど、女性の動きを止めない滑らかさ、支えるというよりは、動きを共に生み出すことが課題。それでも振付は順調に進んでいる。仕上がりが楽しみ。

Day3 異なる状況〜今の発想

 今日はまず昼の竹藪の振付を続け、その後に夜の竹藪も続ける。同じ竹藪でも、昼と夜とで音楽は勿論、シーンが意図していることが違う。振付は作品冒頭から順を追ってしているわけではないし、同じ女性群舞への振付だから、よほど自分の中にイメージを持たないと、無自覚に同じような感じ(表現)になってしまう。翁はなぜ竹藪に来たのか。その時の竹藪は、翁とどのような関係性にあるのか。皆にシーンの状況を説明しながら、自分自身に言い聞かせている。

 夕方はパドドゥ(道児とかぐや姫)の続き。スタジオに入って舞踊家達と音楽を聴いたら、昨晩ベッドの中で思い描いていた動きが合わないことに気付く。やはり振付はその場で、その瞬間に生まれる方がいい。想定していたことなんて、高が知れている。その瞬間舞踊家たちを前にして、共に音楽に身を委ねて生まれる発想(振付)の方が、よほど創作に意義を与えてくれる。勿論、発想が生まれない時は苦しいのだけれど・・・

Day4 忍耐と絆〜孤独と信頼

 ポワント女性群舞。群舞の振付は忍耐。踊ることよりも、構成を決めるために振付を続けるのはシンドイ。舞踊家達はまるで駒のように感じるだろうし、何度も反復をお願いするから、集団のモチベーションが下がり易い。それをヒシヒシと感じながらも、閃きを得るためにアンテナを立て続け、目の前で待っている集団に次の動きを指示する。あと少し、あと少し、妥協するなと自らに言い聞かせる。ルルベが多い振付で、痺れる己のふくらはぎを感じながら。

 パドドゥ。ある振付を与えた時に、すんなり実践できる時がある。それはその動きが舞踊家の経験、あるいは持って生まれた感覚に近いから。しかし、やり易いことが、必ずしも最善の選択である訳ではない。最初はやりにくかったこと(ぎこちなかった動き)が、稽古を重ねることで有機的に実践できるようになった時、舞踊家は新しい身体感覚を習得する。そして何より、その新たな感覚の習得こそが、その作品(振付家)と舞踊家を繋ぐ絆となるのだから。

Day5 2つの舞踊団〜行ったり来たり

 昨日で昼の竹藪のスケッチが仕上がったので、残すポワント女性群舞は夜の竹藪のみ。とはいえこちらも時間がかかる。予定していた(待機してもらっていた)男性達のパートへは辿り着けず、待ちぼうけで申し訳ない。それでも、焦ってはならないと自分に言い聞かせる。そして途中で切り上げ、東京芸術劇場へNoismの本番を観に向かう。終わり次第戻って来たから今日は2往復。電車やバス移動は人混みを避けられないので、全てタクシー。お財布的には厳しいけれど、感染対策には万全を尽くす。

 夕方は道児のソロ。愛を与えてくれたかぐや姫が都へ去ってしまった後の、1幕最後を締め括るソロ。ソロバイオリンの音色に道児の想いを託し、ピアノによる伴奏に振付をする。この構想は、先週新潟を離れる直前に閃いたことだけれど、確かな手応えを感じられて何より。とはいえ音楽的構成は基礎において、その上に舞踊としてのリズム(呼吸)を持たせなければならない。

Day6 休み〜妄想は続く

 「第16回世界バレエフェスティバル」を観に東京文化会館へ。世界各地のスター舞踊家たちによる、古典からコンテンポラリーまでの多様な演目。とはいえ、よほど作品や舞踊家がこちらの興味(集中)を引かない限り、脳内で「かぐや姫」が上演される。何を隠そうこの由緒ある大劇場が、『かぐや姫』世界初演の会場なのだから。

 終演後に舞台上で、舞台監督と打ち合わせ。図面を見ながら幕の吊り位置などを確認する。高鳴る気持ちを抑えつつ、来週からの稽古に気合が入る。

Day7 自主稽古〜心身の解放

 先週は2つの舞踊団を行ったり来たりで、ろくに自分の稽古ができなかったので、空いたスタジオを使わせて頂いて自主レッスン。ゆっくり時間をかけて身体をほぐし、バーに捕まりバーレッスンで汗を流す。心身ともに解放されて気持ちがいい。その後は明日からの準備を少しだけ。いよいよ明日から第2週。

Day8 アシスタントの有難味〜助言の深さ

 まずはパドドゥ。今日からは佐和子もアシスタントに就いてくれているので色々と捗る。相談できる相手がいることは大きな助けだし、私が佐和子と実践することによって、男女個別に身体の使い方、動きの要点を教えてあげることができる。何より、時として私より私の創作を理解している佐和子の助言が、作品に強度を与えてくれる。その後は翁の第2ソロ=かぐや姫とのシーンの振付も開始。子離れできない親(?)と、自由奔放な娘による親子喧嘩。親と子が入れ替わるようなその関係性から、二人の特殊な絆、一つの愛の形が表現できればと思う。

 夕方は夜の竹藪。こちらは時間がかかっている。今日は2時間で1分・・・とは言え、このシーンの最重要部分の構成は出来たから何より。明日はもう少し進められるだろうか。今回の第2期振付は、初日から前へ前へと振付を続け、3月に振り付けたパートの修正もできていないから、明日にはそれ開始しなければならない。そして明後日にはシーン毎の通し、最終日には1幕全通しをして新潟に帰りたいと思う。

Day9 常任振付家の意識〜一過性の創作ではない

 今日は童のシーンの思い出しと直しから始める。舞踊家たちにとっては久ぶりだから、大分ギコチナイのは致し方ないのだけれど、ついNoism的なテンションで「何ですぐ出来ないんだい?」と思ってしまう。「それでいい」と自らに言い聞かせる。「ゲストじゃない、これから3年創作を続けるとすれば、それはれっきとした常任振付家だから」と。私も彼らも関係性を深め、要求(理想)を高め、初演を迎えたい。その後は、パドドゥ、そしてソロと、目まぐるしくシーンを変えて振付継続。若干焦ってきた自分を感じながら。

 夕方は夜の竹藪から。こちらはまた1分進んだ。明日には終えたい・・・。そして1日の最後は村人シーン。こちらも久しぶりだから大分散らかっているけれど、目をつむって直しに入る。とは言え、この状態で良いわけではないことは、皆に伝える。「限られた稽古時間なので、稽古が始まる前に、各自確認は終えておいて欲しい」と。彼らが忙しいことも、初演がまだ先なことも理解している。ただ、皆で最高のものを創りたい。それだけ。

Day10  芸術活動に没頭〜感謝

 稽古前に、昨日から取材に来ている新潟放送のインタビューを受ける。Noismとの環境の違い、舞踊家の違い、私自身の違いについて答えながら、今この時期(新潟市の判断を待つだけの時期)にここにいて、芸術活動に没頭出来ることに感謝する。

 稽古は夜の竹藪から。漸く、夜の竹藪が仕上がった!嬉しい、というか安堵。1幕大詰めの場面だから、じっくり振付して来て良かった。仕上がりも上々。その後は1幕冒頭、海のシーンの直しをする。さらに良くなった。

 夕方は、指示を出せていなかった村人達の演出をし、翁とかぐや姫、そして道児のソロの振付も仕上げた。これで全てのシーンの振付は終了!演出的には、次回の第3期で(美術が来たら)細々と支持していかなければならないけれど、ひとまず目標が達成できてよかった。明日はシーン毎に通して直し。楽しみ。

 稽古後は新聞の取材。3月にも感じたことだけれど、言語化することで自らのインスピレーションが整理される。3月に受けた取材の時よりも、さらに自らの問題意識(作品に託した思い)が深まっていることを実感できて何より。

Day11 シーン毎の通し稽古〜漸くここまできた

 稽古前に新聞の取材を1つ受け、稽古は作品冒頭からシーン毎に通していく。今回はシーン毎に1楽曲だから、1曲毎に通していくということ。楽曲を止めることなく流すことで生まれる情感がある。ミスがあっても続けることで見えてくる表現がある。その上で、演出的な修正を加え、ズレが発生している群舞を整理し、実演する舞踊家にとって振付がしっくり来ていない箇所を修正する。

 いよいよ明日は初の通し稽古。とはいえ直ぐにやっても結果は散々だと思う。だから不安な部分を舞踊家たちに確認し、そこの返し稽古に時間をかけ、各楽曲の繋ぎの部分を再確認してから、万全な状態で通しに挑む。楽しみ。

 稽古後は昨日に続き新聞の取材。Noismでは久しくお会いしていなかった記者から、最近作風が変わってきたことを指摘され、この2年のパンデミックが自身に及ぼしている影響を認識する。その後は当日販売するプログラム用のインタビュー。話せば話すほど第1幕の初演が楽しみになってくるし、2幕、3幕の創作、そして全幕上演が待ち遠しく感じる。

Day12 第1幕初通し〜第2期クリエーション終了

 時間をかけて最終確認を済ませ、事務所からスタッフさんなども稽古場に集まり、オーディエンスを前に若干緊張気味の舞踊家たちによる、1幕初の通し稽古。シーン毎に異なる情感が、初めて一つのうねり(物語)となって展開していく。所々、ここは修正せねばとか、もっと稽古せねばとか、冷静に考えながらも、いつしか物語に引っ張られている自分がいる。要するに手応え有り。スタッフからも好意的な感想を頂けて何より。ここからが本当のスタート。

 稽古終わりで皆に集まってもらい、まずは感謝を述べる。前回が10日、そして今回が10日、この20日間でよくここまで来てくれたと。私にとってもこれだけ短期間で、これほどの人数相手に、ここまでの振付をしたことはないと。その上で、次期稽古への希望、目指すレベルを語る。一番後ろのコールドまで含め、一人一人が作品を自分毎として捉え、実演に際する疑問や懸念を表明し、皆で解決し、一人一人が生き切れるようにしたいと。そのためには、各自が遠慮せずに表現して欲しいと。

 今、新潟へ帰る新幹線でこれを書きながら、第2期クリエーションが無事に終わったこと、目標であった全シーンの振付が終了したことを安堵している。そして次回第3期クリエーション。美術、映像、衣装、仕掛け等、様々な演出要素を加え、私たちの『かぐや姫』が誕生する。その産声が、若干疲労の残る身体の奥底から、聞こえてくる気がする。

Photo: Shoko Matsuhashi