2023/03/02 2023:03:02:10:54:00[NBS最新情報]
コロナ禍による2021年の公演中止を乗り越え、5年ぶり9度目の来日を果たすハンブルク・バレエ団。50年にわたりカンパニーを率いてきた芸術監督、ジョン・ノイマイヤーが2024年夏での退任を発表しているため、"ノイマイヤーのハンブルク・バレエ団"としてはこれが最後の来日となる。開幕が2日後に迫った2月28日、プリンシパルのアンナ・ラウデール、イダ・プレトリウス、エドウィン・レヴァツォフ、菅井円加、アレクサンドル・トルーシュ、そしてノイマイヤー自身が記者会見に登壇。今回上演される2作品について語った。
今回ならではの〈ジョン・ノイマイヤーの世界〉
ジョン・ノイマイヤー
「ハンブルク・バレエ団は、誰が止めてもクリエイトし続ける監督が率いる(会場笑)、非常にクリエイティブなカンパニー。その進化と様々な側面を日本の観客に見せたいと思うがゆえに、作品選びはいつも難航します」。ユーモアを交えてそう切り出し、今回の2作品を選んだ理由を説明したノイマイヤー氏。3月2~5日に上演される《ジョン・ノイマイヤーの世界》は、いくつかの演目の抜粋から成る、過去の来日公演でも披露された作品だが、キャストと演目の違いによりまた新しいものになっていると言う。
その例として氏が挙げた3演目のうち、一つ目が「シルヴィア」。1997年のパリ・オペラ座で初演された作品だが、今回タイトルロールを踊る菅井とプレトリウスが生まれ変わらせたと話す。氏から「円加はこの役に必要なすべてを持ち合わせている」「シルヴィアを踊るイダは普段とは違ってまるでアマゾネス!」と賛辞を送られ、二人が照れくさそうに目を見合わせるひと幕も。そして二つ目の「アンナ・カレーニナ」は、映像収録され欧州ではDVD化もされている公演に主演した、ラウデールとレヴァツォフが今回も登板する。氏は「二人の演技を観たら、DVDへの"食欲"がそそられることでしょう」(笑)。
アンナ・ラウデール
三つ目の「ゴースト・ライト」は、コロナ禍の2020年に初演された新作。行動制限が厳しかったなかでも、カンパニーは換気の良いスタジオで、6人ずつに分かれてクラス・レッスンを行っていたそう。1日10回に及んだクラスのすべてに立ち合っていた氏が、やがて少人数で創作も行うようになり、その結果として生んだのが本作だ。氏が「意識したわけではないのですが、結果として能を想起させる作品となりました。日本の舞台芸術はもはや、私の一部なのです」と語る作品の一部がこの度、その日本で初めてお披露目されるというわけだ。
菅井円加が魅せる「シルヴィア」
3月10~12日に全編が上演される「シルヴィア」は、今回が日本初上陸。氏はまず「パリ・オペラ座で記者会見をした際、「コッペリア」を作り直す気はないかと聞かれ、それはないけれども「シルヴィア」なら......と深く考えずに答えたことが創作のきっかけ」と誕生秘話を明かし、「「シルヴィア」はオペラ座にとって、ガルニエ宮で最初に上演されたバレエとして大切な作品ですが、私はかなりモダンに作り直しています」とコンセプトを説明。その上で、「ミニマリスティックで非常に美しい美術を、日本の観客はきっと理解し、賞賛してくれると信じています」と自信を覗かせた。
エドウィン・レヴァツォフ
イダ・プレトリウス
会見の後半では、ダンサーたちも一言ずつコメントを。「東京にまた来られてとても幸せ。私は《~世界》では「くるみ割り人形」、そして大好きな「アンナ・カレーニナ」のパ・ド・ドゥを踊り、「シルヴィア」では円加のディアナとなります」(ラウデール)、「日本に戻ってくる度、古い友人と再会するような気持ちになります。僕は《~世界》で、「アンナ・カレーニナ」をアンナと、ジョンがベジャールのために作った「作品100――モーリスのために」をアレクサンドル・リアブコと踊ります」(レヴァツォフ)、「日本に来るのは初めてなので、興奮してあまり眠れませんでした(笑)。《~世界》ではとても楽しい「アイ・ガット・リズム」を、「シルヴィア」ではシルヴィアを踊ります」(プレトリウス)、「僕は《~世界》で、まずアリーナ・コジョカルと「椿姫」より、2本の木が草原で風に動かされているようなピースフルなパ・ド・ドゥを、そして円加と「シルヴィア」のパ・ド・ドゥを踊ります。「シルヴィア」全編公演ではアミンタ役です」(トルーシュ)と、日本に来られた喜びと出演作品の魅力を口々に述べていく。
アレクサンドル・トルーシュ
菅井円加
そして菅井は開口一番、「お久しぶりです!」と日本語で挨拶。「母国で「シルヴィア」を踊れるのは、私にとって本当に大きなこと。家族、友達、先生を全員招待したら、それがプレッシャーとなって今から緊張しています(笑)」と話して会場を笑わせた。《~世界》では、その「シルヴィア」に加えて「キャンディード序曲」「ゴースト・ライト」、さらには自身の「ドリームロールの一つ」であり、今シーズン秋に夢が叶って初めて踊った「マーラー交響曲第3番」にも出演するとのこと。日本人プリンシパルがここまで大活躍するという意味でもやはり、観逃せない公演と言えそうだ。
取材・文 町田麻子(フリーライター)
photo: Ayano Tomozawa