2024/06/10 2024:06:10:12:27:07[NBS最新情報]
追悼 エリック・ヴ・アン──「ザ・カブキ」初代由良之助
振付家モーリス・ベジャールが東京バレエ団のために創作した「ザ・カブキ」の世界初演で、主役の由良之助役を演じた元パリ・オペラ座バレエ団のエリック・ヴ・アン氏が、この6月8日、脳腫瘍のためフランスのニースで逝去されました。享年60歳。ヴ・アン氏のご冥福を心よりお祈り申し上げます。
エリック・ヴ・アンは、1986年4月、東京バレエ団が巨匠ベジャールに委嘱して世界初演した大作「ザ・カブキ」の初演で主役の由良之助を演じました。ベジャールは端正にして鋭いテクニックの持ち主だったヴ・アンに当てて、由良之助の役にさまざまな超絶技巧を盛り込んだヴァリエーションを振付け、見事期待に応えたヴ・アンは本作の成功の一端を担いました。同年8月、「ザ・カブキ」を携えて始まった記念すべき第9次海外公演において、ロンドンを皮切りにミラノ、シュツットガルト、ベルリン、ウィーン、パリ、ブリュッセル等の著名歌劇場で同役を踊り喝采を浴びました。早くも2年後にパリ他で再び実施された第10次海外公演にも参加。また1991年には第6回世界バレエフェスティバルに参加し、由良之助のヴァリエーション他を踊りました。
エリック・ヴ・アンは1964年生まれ。パリ・オペラ座バレエ学校を経て、特別に年齢制限を免除されて15歳でパリ・オペラ座バレエ団に入団。ルドルフ・ヌレエフやベジャールに目をかけられ、早くから将来を嘱望されていました。この時期ベジャールはシルヴィ・ギエムとヴ・アンのために「ムーヴマン・リズム・エチュード」を振付け、また「妖精の口づけ」「アレポ」「聖セバスチャンの殉教」の初演にも彼を選んでいます。1986年、マニュエル・ルグリとともにいったんエトワールに任命されたものの取り消されるという不幸な出来事があり、翌年以降はパリ・オペラ座を離れて各地に客演。後年はフランス各地のバレエ団で芸術監督を務めました。また日本でも公開され話題となったベルナルド・ベルトルッチ監督の映画「シェルタリング・スカイ」(音楽 坂本龍一、1990)にも出演しその名を馳せました。
1986年「ザ・カブキ」より photo: Ryu Yoshizawa