2025/04/15 2025:04:15:09:00:00[NBS最新情報]
去る4月11日(金)に行われたデヴィッド・ホールバーグ(オーストラリア・バレエ団芸術監督)の記者会見のレポートを掲載しました。ぜひご一読ください。
デヴィッド・ホールバーグ(オーストラリア・バレエ団芸術監督)
2025年4月11日、5月末に開催されるオーストラリア・バレエ団(以下、TAB)の日本公演への期待が高まるなか、芸術監督デヴィッド・ホールバーグが来日し、メディア向けの記者会見が行われました。
グレーのスーツにストライプのシャツを身につけたホールバーグは、現役ダンサー時代と何も変わらず、エレガントな物腰で登場。「日本に帰ってくることができて嬉しい」と微笑みます。
「今回の日本公演は、私たちにとって重要なイベントです。なぜなら、ほとんどのダンサーが日本で踊ったことがないからです。日本のお客さまはバレエをよくご存じなのを知っているので、少し緊張もしていますが、緊張の先には大きな喜びが待っていますからね。ダンサーたちにはそこに到達してほしいと思います」
年間170以上の公演数を誇るTABは60年以上の歴史を持ち、熱心な観客を育ててきました。世界中を飛び回るツアーリング・カンパニーとして、もっとも大切なのは「国際的に活動すること」とホールバーグは言います。
「オーストラリアは地理的に、ほかの国々よりも距離が遠いので、ツアーを回ることで世界中の方々に観ていただくことは重要です。私たちはツアーリング・カンパニーですので、ダンサーたちはいつもカバンに荷物を詰め、あちこちの国を飛び回っています。また、昨年は東京バレエ団がオーストラリアで『ジゼル』を上演してくださいましたが、今回は私たちが日本で公演を行います。そのように、他国と文化的な交流を持つことも大切だと考えています」
バレエ団のダンサーは75人で「170回以上の公演数の割に多くない」と言うから驚きです。
「たとえばボリショイ・バレエ団の場合、200人を超えるダンサーがいますが、私たちのダンサーは75人だけ。その人数で、メルボルンをベースにしつつ、年のうち4カ月はシドニーでも活動し、さらに海外公演なども行います。移動は楽ではありませんが、すべてのダンサーにさまざまな役を踊るチャンスがあるのはよい面ですね」
今回上演される『ドン・キホーテ』は、ルドルフ・ヌレエフがTABのために1970年に振付・主演し、その3年後に映画化した作品が元になっています。ホールバーグは2023年、バレエ団設立60周年の際に、その映像をもとに装置と衣裳を新たに作り直し、上演しました。
「日本ではすでにさまざまなバージョンの『ドン・キホーテ』が上演されていますが、今回あえてヌレエフ版『ドン・キホーテ』を上演すると決めたのは、この作品が生命力にあふれ、温かさに満ちたオーストラリアらしさを感じていただけるからです。私たちのカンパニーを代表する自信作ですので、ぜひご覧いただき、ほかのバージョンと見比べてほしいです」
2023年のオーストラリアでの上演時、シルヴィ・ギエムがゲスト・コーチとして指導を行ったことも話題になりました。
「シルヴィには今回の日本公演でもコーチをしてもらうことになっています。彼女は世界でもっとも素晴らしいダンサーのひとりですが、同時に素晴らしいコーチでもあることがわかりました。彼女はダンサーに対して『私はこうやったから、あなたもこうすべき』というような指導をしません。ダンサーひとりひとりに向き合い、それぞれの個性をどう引き出すかを考えてくれました。彼女のおかげでカンパニーのレベルが上がったと思います」
ホールバーグが芸術監督になって4年。「キャスティングは常に悩ましく、睡眠時間も削られます」と言う彼が今回選んだ主役のキャストについては......?
「アコ・コンドウ(近藤亜香)やチェンウ・グオのような長年プリンシパルを務めてきたベテランもいれば、ジル・オオガイやマーカス・モレリのように最近プリンシパルに昇進したメンバーもいます。ベテラン勢の日とフレッシュな組の日とはまた違うストーリーが描かれると思いますが、どの日を観ても楽しんでいただける自信があります。ダンサーたちには、バレエの厳格さにとらわれることなく、自由に個性を出してほしいと思ってます」
近藤亜香とチェンウ・グオのカップルのように、出産・育児をしながら活躍するダンサーの多いTAB。ホールバーグは就任以前、ゲスト・ダンサーとしてTABを訪れた際に深刻な怪我を負って、バレエ団のヘルス・チームでリハビリを受けたそうです。
「私たちのバレエ団は75人のダンサーに対し、200人近くのスタッフがいる巨大な組織です。マーケティングや社会貢献活動、映像の収録や配信など、さまざまな部署に専門家がいて公演をサポートしてくれています。また、怪我の予防やリハビリなど、ダンサーの心身の健康をケアする体制も充実しています。実のところ、バレエの公演はダンサーだけでなく、多くのスタッフに支えられて実現していることに気づけたのは、現役を引退してからでした。当時は踊りに集中して、そのことに気づけなかったのです。今は世界でもっとも優れた組織を引き継げたことを光栄に思っています」
なお、オーストラリアで使用している劇場であるアートセンター・メルボルンが間もなく3年に渡る改修工事に入る話題の際に、ホールバーグは「オーストラリア政府がその間に上演できる劇場を見つけてくれました。日本の東京文化会館も同じ状況だと聞いているので、日本政府もバックアップしてくれることを願います」と語りました。ちなみに、TABの活動は政府からの支援が12%、ほかはチケット収入と個人的な支援で成り立っているそうです。
最後に、日本のお客さまに見ていただきたいことに「カンパニーの個性」を挙げました。
「4年前に就任して以来、ダンサーのクオリティを上げることと同時にカンパニーの個性を保つことも大切にしてきました。また、私が世界各地で経験してきたお客さまの惹きつけ方も指導を重ねてきています。東京でもダンサーの演技を含め、TABの個性をご覧いただければと思います」
取材・文:富永明子(編集・ライター)