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2025/05/27 2025:05:27:17:00:00

【特別インタビュー】開幕直前!オーストラリア・バレエ団芸術監督 デヴィッド・ホールバーグ インタビュー
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 15年ぶりの来日公演を控えるオーストラリア・バレエ団が今、注目を集めている。2021年、第8代芸術監督に就任したデヴィッド・ホールバーグは、これまでアメリカン・バレエ・シアターとボリショイ・バレエという2つの名門バレエ団でプリンシパルを務めてきたスターダンサーだ。
 そんな彼が現役を引退し、選んだ道がオーストラリア・バレエ団の芸術監督だった。就任を決めたのは「自然な流れだった」という。
「ゲスト・アーティストとしてオーストラリア・バレエ団で踊ったとき、前芸術監督のデヴィッド・マッカリスターから打診されたのが最初です。そのときは『え、本当に? 僕はまだ現役で踊っているし、オーストラリア人でもないのに』と思いましたが、2年後に『今がやるときだ』と自然に感じました。その当時、僕は踊ることが楽しめなくなっていました。怪我の影響もあって以前のような踊りができず、怖くて不安だったとき、直感的に『今が次のステップに進むときなんだ』と思ったんです」
 かくしてホールバーグはオーストラリアに居を移し、芸術監督となった。今では自分のことよりもバレエ団とダンサーのために時間を使い、力を尽くしている。ダンサーだったときの生活と比べて「とても幸せになりました」と微笑む。
「ダンサーに対しては芸術監督としてではなく、ひとりの人間として向き合うようにしています。どうしても立場の違いは生まれてしまいますが、できるだけ正直に、誠実に。ダンサーたちの成長を見ると、心が満たされますね。母からも『あなたは踊っていたときよりも、今のほうが幸せそうね』と言われましたが、実際そのとおりだと思います」

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 そんな彼が手塩にかけて育てているダンサーたちを引き連れて、このたび日本で上演するのが『ドン・キホーテ』だ。この作品は、ルドルフ・ヌレエフが1970年代にオーストラリア・バレエ団のために振付・主演した映像作品をもとに、ホールバーグが2023年に装置と衣裳を新たに作り直したものである。
「日本ではすでにさまざまなバージョンの『ドン・キホーテ』が上演されていますが、今回あえて『ドン・キホーテ』を上演すると決めたのは、この作品が生命力にあふれ、温かさに満ちたオーストラリアらしさを感じていただけるからです。私たちのカンパニーを代表する自信作ですので、ぜひほかのバージョンと見比べてほしいです」

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 就任して4年が経ち、ダンサーたちは「テクニック的に強くなっただけでなく、舞台上で自信をもって踊り、お客さまを物語に引き込めるようになった」という。さらにホールバーグは、シルヴィ・ギエムをゲスト・コーチとして招いた。
「シルヴィは決してコピー&ペーストのような教え方はしないんです。ダンサーひとりひとりに向き合い、それぞれの個性をどう引き出すかを考えてくれました。たとえばキトリを踊るダンサーが3人いる場合、異なる3人のキトリが生まれます。彼女のおかげでカンパニーのレベルが上がったと思います」
 ヌレエフ版の振付の特徴について聞くと「とてもハードで、体力を使う作品」と笑う。
「ヌレエフは難しいことに挑戦するのが好きで、しかもそれをお客さまに見せるのが好きな人だったので、ダンサーに対する要求度の高い作品です」

 現役時代も含めると、20~30回は来日しているというホールバーグ。「日本のお客さまは繊細な表現もよく見てくださるので、心のつながりを感じられる」と言うほど、日本公演は彼にとって特別なものだ。日本の観客をよく知る彼が、15年ぶりの来日公演に選んだヌレエフ版『ドン・キホーテ』が今から待ちきれない。


(取材・文=富永明子)


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photos: Rainee Lantry, Yuji Namba