フロトーの『マルタ』はちょっと切ないところもあるけれど、甘く楽しいラヴ・ストーリー。その音楽は、美しいアリアや二重唱や四重唱がたくさんあって、一度耳にしたら、すぐ口ずさむことができる親しみやすい旋律ばかり。なかでも誰もがご存じの曲が3曲ある!
まずは「庭の千草」で知られる「夏の名残のバラ」。これは5回もいろいろな場面で歌われ、このオペラのテーマソングともいうべき曲。2曲目はテノールの名アリア「マッパリ」で知られるロマンチックな「ああ、かくも汚れなき(夢のように)」。
3つ目は、1幕のリッチモンドの市場で農民たちが歌う「おとなしく真面目な娘さんたちよ」の合唱。これはなんと、浅草オペラで“ジイさん、酒飲んで酔っぱらってころんだ”という歌詞で歌われていた、あのメロディです!
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【第1幕】
なかなか聴き応えのある序曲に続いて幕が開くとレディ・ハリエットの居間。侍女たちの合唱「夜のように重苦しい夢で」が響く。ハリエットと友人ナンシーの二重唱「女王さまの宮殿を飾りたて」ではハリエットの高音とコロラトゥーラの技巧が聴きもの。続いてキザな貴族トリスタン卿も加わって三重唱になる。
場面変わってリッチモンドの市場。農民たちが賑やかに「おとなしく真面目な娘さんたちよ」と合唱する。農夫のブランケットとライオネルが登場し、ライオネルは美しい旋律のアリア「小さな子どもの頃から」を歌い、身の上を語る。
娘たちの奉公先を決める市が始まり、マルタとユリアと名を変えたハリエットとナンシーを、ブランケットたちが見初め、四重唱「ごらんなさい、じろじろ見てるわ」が歌われる。 |
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【第2幕】
ブランケットの家。奉公人として雇われた二人だが、彼女たちは何にも仕事ができない。男たちが糸のつむぎ方を教えながら、リズミカルな「糸つむぎの四重唱」が歌われる。
ライオネルとマルタ(ハリエット)が二人だけになると、まずマルタが「夏の名残のバラ」を歌い、それにライオネルも加わり、二重唱に。ブランケットとユリア(ナンシー)が現れ、 4人でゆったりした旋律の「おやすみの四重唱」が歌われる。(このオペレッタには四重唱が多い!) |
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【第3幕】
森の中の小屋で、ブランケットが黒ビールを讃えて「一言、訊ねたいがね(ポーター・ビールの歌)」を元気に歌う。女王の狩りの場面では、女声合唱とナンシーの勇ましい曲が森にこだまする。
マルタに恋したライオネルが現れ、彼女を偲んで「夏の名残のバラ」の旋律を口ずさんだあと、全幕最大の聴きどころ、抒情的なアリア「ああ、かくも汚れなく(夢のように)」を歌う。ライオネルが去ったあと、ハリエットが登場して彼を偲び「この静かな暗い場所で」と美しいアリアを歌う。
二人は森の中で出会うが、ライオネルはマルタの本当の身分を知り、自分はからかわれていたのだと「君があわれなぼくを…」と切ない哀しみを歌う。全員の合唱で幕が下りる。 |
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【第4幕】
ライオネルが貴族の息子だったことが分かり、ハリエットとナンシーはそれを伝えにブランケットの家にやってくる。ハリエットは「あの大切な方を宥めよう」と高音とコロラトゥーラを駆使したアリアを歌う。続いて4回目の「夏の名残のバラ」をハリエットが歌うとライオネルが現れ、二重唱になる。しかし傷ついた彼は、まだ立ち直れない。
ブランケットとナンシーは二重唱「さあ、これからどうしよう」を歌い、ライオネルを癒す策を練る。その策とは家の前にリッチモンドの市場を再現すること。 5回目の「夏の名残のバラ」がハリエットによって歌われる。それを聴いてライオネルも心を開き、甘い二重唱に。全員でこの旋律を合唱して幕が下りる。 |
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石戸谷結子(音楽ジャーナリスト)
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