モーリス・ベジャール振付の超大作、L.V.ベートーヴェン作曲「第九交響曲」は、東京バレエ団創立50周年記念シリーズのハイライトとして企画されました。総数80人余のダンサーにオーケストラとソロ歌手、合唱団を加え、総勢350人に及ぶアーティストの力を結集した他に類をみない大規模なスケール。合唱団や独奏者が必要であるばかりか多くの優秀なダンサーが不可欠であるため、本作は長年上演が実現しませんでした。しかしベジャールが6年間の準備期間を経て本作を初演してから50年目、日本とスイスの国交樹立150周年にもあたる今年、スイスのローザンヌに本拠を置く「モーリス・ベジャール・バレエ団」と東京バレエ団の共同制作によりついに実現します。二つのバレエ団はベジャール作品を通じて“兄弟カンパニー”と認められています。東京バレエ団の創立50周年を共に祝うという目標が、この一大プロジェクト実現に向けた大きな推進力になったのです。

 ベートーヴェンの「第九交響曲」といえば、すぐにズービン・メータを思い浮かべるほど、多くの日本人にとって忘れられない思い出があります。あの2011年3月の東日本大震災の当日、オペラ公演のために東京に滞在していたメータは、公演が中止となり止む無く離日する際に、「必ず、すぐに戻る!」と言い残しました。そして翌4月10日、約束通りに来日し、在京オーケストラのチャリティ演奏会で「第九」のタクトを振りました。その入魂の演奏は大きな感動をもたらし、テレビでも放映されて大きな反響を呼んだのです。
 今回の演奏は人間的にもスケールの大きいメータと、彼と“魂で繋がれている”と評される名門イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団によるもの。魂のふるえるような音楽が“世界一の弦”と評されるイスラエル・フィルによってパワーアップして蘇り、さらにダンスと一体となって高みに昇る瞬間はまさに奇跡の体験です。

 「第九交響曲」は、50年前の1964年、煌めくような才能とパワーを漲らせていた当時37歳の振付家モーリス・ベジャールがベートーヴェンの人間賛歌「第九交響曲」に敢然と挑み、歴史的な成功を収めた作品です。自らが率いる20世紀バレエ団によって初演したのはブリュッセルの王立サーカス。若き日のベジャールはオペラハウスの観客数をはるかに凌ぐ大観衆を想定した会場で、本作をより多種多彩な人々を巻き込む“祭典”の場にと意図したのです。実際、この作品は以降も、パリのパレ・デ・スポール、ブリュッセルのフォレスト・ナショナル、モスクワのクレムリン宮殿など、あえて大人数を収容できる会場を選んで上演され、さらにはヴェネチアのサン・マルコ広場、ヴェローナ闘技場、メキシコ・オリンピック・スタジアムなど野外の歴史的祭典の場にも移って、一部のバレエ・音楽ファンにとどまらない幅広い観客を魅了してきました。

 通常のバレエ公演では舞台前のピットに配置されるオーケストラが、ここでは舞台奥にしつらえられた階段に合唱団を伴って上がり、その前面でダンサーたちが躍動的な踊りを繰り広げます。
 ベジャールは4つの楽章にそれぞれ“地”“火”“水”“風”を象徴させ、舞台に神秘学的な宇宙絵図を展開します。それぞれは実力の拮抗したソリストと群舞によって踊られ、第4楽章の最後には彼らが一堂に会して、興奮が頂点に達したところで“歓喜の歌”へ、そして熱狂的なファランドールへとなだれ込んでいきます。80人という出演ダンサーの数も大規模ですが、個性と実力が伯仲したソリスト陣とそれ自体が強靱さをもつ群舞に至るまで、何層もの踊り手の厚みがあってこそ上演できるのがこの「第九交響曲」です。
 舞踊と音楽がまるごと観客の現前に立ち現れ、すべてが一体となって、人類の遺産ともいうべき楽聖ベートーヴェンの傑作を奏でる。これは従来のバレエ公演やコンサートの興奮を何十倍も凌ぐ壮大なスペクタクルです。

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