巨匠リッカルド・ムーティが2015年まで音楽監督として改革を進めたことよって、劇場付きのオーケストラ、コーラスのレヴェルが飛躍的に向上したというのは、誰もが認めるところです。ローマはイタリアの首都で、政治、経済、文化の中心であり、“永遠の都”の異名をもっていますが、ローマ歌劇場は前身であるコンスタンツィ劇場の時代から、イタリアの芸術文化の栄光を担ってきました。1880年にロッシーニの『セミラーミデ』で華々しく開場して以来、マスカーニの『カヴァレリア・ルスティカーナ』やプッチーニの『トスカ』をはじめ多く作品が世界初演されています。イタリアには13の主要な歌劇場がありますが、その中でもイタリアの二大都市にあるローマ歌劇場とミラノ・スカラ座は別格なのです。

オペラは音楽や演劇、美術などが織り成す総合舞台芸術ですが、「現代」を生きるものです。今回の日本公演においても、つねに新しい挑戦を続けるローマ歌劇場の姿勢が示されています。彼らが日本公演に選んだのは、ヴェルディの『椿姫』とプッチーニの『マノン・レスコー』の2本。いずれも原作は小説で、どちらも絶望的な恋がテーマです。アベ・プレヴォーが「マノン・レスコー」を書いた100余年後にデュマ・フィスが「椿姫」を書いていますが、その中にヒロインのマルグリットが、「マノン・レスコー」の本を読む場面が入っています。この2つの作品は、時代を超えた結びつきがあるのです。

今回上演する『椿姫』は女流映画監督ソフィア・コッポラが初めてオペラの演出に取り組み、イタリアを代表するファッション・デザイナー、ヴァレンティノ・ガラヴァーニによる衣裳、ハリウッドで活躍するネイサン・クロウリーが美術を担当するなど大きな話題を呼びました。一方、『マノン・レスコー』はイタリア最高の指揮者リッカルド・ムーティの娘、キアラ・ムーティが演出していて、女流演出家対決の様相を呈しています。ローマ歌劇場はつねに新発想で「現代」を生きています。イタリア最大の国際都市であるローマを象徴するオペラの殿堂は、世界各地から迎える観客に満足してもらえるような高水準の舞台を今日も繰り広げているのです。