指揮: | リッカルド・シャイー |
演出: | ダヴィデ・リヴェルモア |
2019年12月に今シーズンの開幕を飾った新演出の『トスカ』には、観客の誰もがその壮大さに驚嘆しました。第1幕の教会の聖体行列では、後光が差しているかのような絢爛豪華な祭壇が出現。200名以上の出演者たちによる荘厳な大合唱が、観客を圧倒しました。第2幕はファルネーゼ宮殿のスカルピアの居室。聖書の場面を描いた壁画が掲げられ、カヴァラドッシを暗に象徴させるような獲物を捕らえているライオンの像が置かれています。そこでスカルピアとカヴァラドッシ、そしてトスカの緊迫のドラマが繰り広げられます。『トスカ』の物語はサスペンス・ドラマですが、リヴェルモアの伝統と斬新さの両方を取り込んだ演出は、まるで映画を観るようにスピーディに展開します。苦悩から愛の希望、そして第3幕では大どんでん返し・・・。度肝を抜く巨大な舞台装置はコンテナで30台、11トントラックで45台分もあるのです。
「ドラマのすべてはプッチーニの音楽に書かれている」と語るリヴェルモアは、これまで見過ごされてきた細やかな部分をスコアから読み取る一方、観る者が直感的にドラマを感じ取れるよう、誰をも圧倒する壮大な舞台美術や最新のテクノロジーによって、イタリア・オペラの殿堂にふさわしい『トスカ』を創り上げました。音楽の原動力は音楽監督のリッカルド・シャイーの指揮。プッチーニのスペシャリストと評されていますが、今回のニュープロダクションでは1900年の初演時の音楽を再現します。歌姫トスカにはスカラ座一押しのソプラノ、サイオア・エルナンデスが登場。カヴァラドッシ役のファビオ・サルトーリが美声を響かせ、ルカ・サルシが凄みのあるスカルピアを演じます。
初演の批評はふだん賛否両論あるのが普通ですが、この『トスカ』は否定的な評は一つもないと言います。近年の中では最高のプロダクションと、関係者が口を揃えるほど、スカラ座の自信作です。音楽監督シャイーの練り上げられたドラマティックな指揮によって、全編、息つく暇もない壮大なスペクタクルが展開します。これぞ、プッチーニの代表作。贅の限りを尽くしたスカラ座最新の『トスカ』が早くも日本に上陸します。
舞台は1800年6月のローマ。教会に逃げ込んできた脱獄犯アンジェロッティは画家カヴァラドッシと再会。そこへカヴァラドッシの恋人トスカが現れる。嫉妬深いトスカをなだめ帰したカヴァラドッシは、脱獄犯とともに郊外の別荘へ向かう。そこへ警視総監スカルピアが現れる。スカルピアはトスカを利用し、脱獄犯を捕まえようと目論む。
スカルピアの部屋にカヴァラドッシが連行されてくるが、脱獄犯の隠れ場所を白状しない。そこでスカルピアはトスカを呼びつけ、彼女に聞こえるように拷問させる。トスカは恋人の苦痛の声に耐え切れず隠れ場所を白状、さらに恋人を助けてほしいと嘆願する。スカルピアは見返りとしてトスカの身体を要求。やむなく承諾するトスカだが、偶然にもナイフを見つけ、スカルピアが自分を抱こうと近づいた瞬間その胸にナイフを突き立て殺害する。
牢獄のカヴァラドッシのもとをトスカが訪れる。トスカはスカルピアの殺害と、見せかけの死刑、その後の逃亡計画について話す。ところが、刑は実行されてしまいカヴァラドッシは絶命。そこへ警官たちがトスカを追ってくる。トスカは城から身を投げ、自ら幕をおろす。
指揮
リッカルド・シャイー
1953年ミラノ生まれ。音楽学者・作曲家のルチアーノ・シャイーを父にもつ。ペルージャ、ローマ、ミラノの音楽院、シエナのアカデミア・キジアーナで学んだ。1972年から2年間はクラウディオ・アッバードの元でミラノ・スカラ座管弦楽団副指揮者を務めた。
オペラ指揮者としての本格的なデビューは1974年、シカゴ・リリック・オペラ『蝶々夫人』。77年サンフランシスコ・オペラ『トゥーランドット』の大成功に続き、78年ミラノ・スカラ座『群盗』で国際的な注目を集めた。その後、メトロポリタン歌劇場、英国ロイヤル・オペラ、バイエルン国立歌劇場、ウィーン国立歌劇場、チューリッヒ歌劇場など、世界の一流歌劇場およびザルツブルクやロンドンのプロムスなど著名な音楽祭でも活躍。1986年から93年にはボローニャ歌劇場の音楽監督を務めた。
2017年ミラノ・スカラ座音楽監督に就任。スカラ座音楽監督として、膨大なオペラおよび交響曲の指揮を行っている。オペラ指揮者として、特にプッチーニに関しては最新の音楽学的研究に熱心に取り組み、成果を示す公演が高く評価されている。交響曲指揮者としては、2020年には作曲家の生誕250年を記念してベートーヴェンの全曲チクルスを行うほか、定期的にウィーン・フィル、ベルリン・フィル、バイエルン放送響、ロンドン響、パリ管、ニューヨーク・フィル、クリーヴランド管、フィラデルフィア管など、欧米の主要なオーケストラに登場する。
オペラ、コンサートの両分野に優れた手腕を発揮する現代を代表する名指揮者の一人。
演出
ダヴィデ・リヴェルモア
トリノ生まれ。1992年にテノール歌手としてデビュー。イタリア各地の劇場に出演した後、1998年より演出家としての活動を開始した。演出家デビューはトリノのRAIホールでのオラーツィオ・ヴェッキ作曲『パルナッソス山めぐり』だった。その後、活動の場を広げ、2002年からは実験的な音楽劇場、現代演劇としてオープンしたトリノのバレッティ劇場の芸術監督に就任した。
これまでにフィレンツェ五月音楽祭、ナポリのサンカルロ劇場、ジェノヴァのカルロ・フェニーチェ、ヴェネツィアのフェニーチェ劇場、ペーザロのロッシーニ・オペラ・フェスティバルなどイタリアの主要な劇場のほか、アメリカではフィラデルフィア、フランスではモンペリエとアヴィニョンでも仕事をしている。
近年の活躍としては、モンテカルロでの『アドリアーナ・ルクヴルール』、ナポリでの『マノン・レスコー』、マドリッドでの『ノルマ』、トリエステでの『連隊の娘』、バレンシアでの『トスカ』、バルセロナでの『マノン・レスコー』などがある。
ミラノ・スカラ座では、2017年『タメルラーノ』、2018年『ドン・パスクワーレ』の後、『アッティラ』(2018/19)と『トスカ』(2019/2020)でスカラ座のシーズン開幕公演を2年連続で手がけた。
装置:ジオ・フェルマ
衣裳:ジャンルーカ・ファラスキ
照明:アントニオ・カストロ
映像:D-wok
トスカ:
サイオア・エルナンデス
スペインのマドリード生まれ。ヴィンチェンツォ・スカレーラ、レナータ・スコット、モンセラ・カヴァリエに師事。2009年以降、数々の国際コンクールで優れた成績を獲得。2016年にはスペインの「年間最優秀女声」に選ばれた。近年の活躍としては、『ジョコンダ』のタイトル・ロールでバルセロナのリセウ劇場デビュー、英国ロイヤル・オペラ『アンドレア・シェニエ』のマッダレーナ、ドレスデン国立歌劇場およびパルマ王立劇場『ナブッコ』のアビガイッレ、アレーナ・ディ・ヴェローナ『トスカ』と『アイーダ』のタイトル・ロールなどでの成功が挙げられる。
ミラノ・スカラ座での活躍は、すでに2018/19年シーズン開幕『アッティラ』のオダベッラ役に続き、2019/20年『トスカ』のタイトルロールでの成功が伝えられている。今シーズン、エルナンデスは『トスカ』のほかに『仮面舞踏会』、『ジョコンダ』の新演出作品への出演が予定されている。1シーズンに3つの新演出作品に登場することは、彼女の実力と、聴衆からの期待の大きさが示すもの。
カヴァラドッシ:
ファビオ・サルトーリ
イタリアのトレヴィーゾ生まれ。ヴェネツィアのベネデット・マルチェッロ国立音楽院で学んだ。1996年にフェニーチェ歌劇場でデビュー。翌年、ミラノ・スカラ座の1997/98年シーズン開幕リッカルド・ムーティ指揮『マクベス』に出演。その後、ムーティ指揮でヴェルディ「レクイエム」も歌った。同シーズンには、フェニーチェ歌劇場とボローニャ歌劇場のオープニングにも出演。1999年にはクラウディオ・アッバード指揮『シモン・ボッカネグラ』でベルリンにデビュー、同年には『シャモニーのリンダ』でウィーン国立歌劇場、『カプレーティとモンテッキ』でシカゴ・リリック・オペラにもデビューを果たした。2017/18年シーズン、英国ロイヤル・オペラに『道化師』でデビュー。
ミラノ・スカラ座には、1996年デビュー以来『ボエーム』『二人のフォスカリ』『シモン・ボッカネグラ』『アッティラ』『オベルト』『アイーダ』『ドン・カルロ』ほか、ミラノ・スカラ座では“常連”として活躍している。
スカルピア:
ルカ・サルシ
パルマのサン・セコンド・パルメンセ生まれ。パルマのアッリゴ・ボーイト音楽院で学んだ。1996年ボローニャ歌劇場『絹のはしご』でオペラ・デビュー。2000年にはヴィオッティ国際音楽コンクールで優勝し、世界へと活躍の場を拡げた。これまでにメトロポリタン歌劇場、ミラノ・スカラ座、ワシントン・オペラ、ロサンゼルス・オペラ、ベルリン国立歌劇場、パルマのレッジョ劇場、ナポリのサン・カルロ劇場、ジェノヴァのカルロ・フェリーチェ劇場ほか、世界の著名な歌劇場に出演を重ね、国際的な名声を確立している。2013年ローマ歌劇場で成功をおさめたリッカルド・ムーティ指揮『ナブッコ』のタイトル・ロールは、2014年日本公演でも聴衆を魅了した。ミラノ・スカラ座では、2017年『アンドレア・シェニエ』のカルロ・ジェラール、2018年『エルナーニ』のドン・カルロ、2019/20年シーズンは開幕公演『トスカ』のスカルピアに続き、『仮面舞踏会』『ジョコンダ』での出演が予定されている。
ミラノ・スカラ座管弦楽団
ミラノ・スカラ座合唱団