贅を尽くしたスカラ座の『椿姫』こそ、イタリア・オペラ究極の1本!

ジュゼッペ・ヴェルディ作曲
『椿姫』全3幕
 LA TRAVIATA
指揮: ズービン・メータ
演出: リリアーナ・カヴァーニ

“イタリア・オペラの殿堂”ミラノ・スカラ座においても、ヴェルディの『椿姫』は特別な作品です。スカラ座では一時期、『椿姫』の上演が封印されていました。理由はスカラ座の『椿姫』の舞台にはマリア・カラスの亡霊がいて、上演しても必ず失敗するというジンクスが、スカラ座を縛っていたからです。その禁を30年ぶりに破ったのが、元音楽監督のリッカルド・ムーティ。周到な準備を重ねた末に生まれたのが、女流映画監督であるリリアーナ・カヴァーニのドラマティックな演出と、豪華絢爛の舞台美術による『椿姫』だったのです。1995年の日本公演ではNHKホールでの6回公演が即日完売の大人気でした。『椿姫』は数々の外来オペラや国内のオペラ団がたびたび日本で上演していますが、スカラ座のこの『椿姫』は別格で、観客の満足度も一番高かったようです。別格の理由は「魂は細部に宿る」にあります。たとえば幕開きの舞踏会の華やかさを表すのは、単に舞台美術の豪華さだけではありません。カヴァーニの演出は、そこに集っている一人ひとりに役割があることが徹底されているのです。そこには裏社交界特有の色があり、雰囲気が感じられます。幕が進むにつれ、ヴィオレッタ、アルフレード、ジェルモン、それぞれの葛藤が観客の心の奥底に入りこんでいきます。オペラが観るだけ、聴くだけではなく、心を揺さぶるものでなければならないことを、スカラ座のこの『椿姫』は明らかにしてくれます。

今回の指揮者ズービン・メータは、すでに幾度も日本でオペラを振っていますが、スカラ座との来日は初めて。メータ自身「とにかくこの『椿姫』は舞台が美しい、そして音楽もどこにも隙がない」と意欲を見せています。キャストには、ヴィオレッタ役で現在世界中を席巻しているマリーナ・レベカ。アルフレード役のアタラ・アヤンは豊かな声量と伸びやかさをもつテノール。そしてジェルモン役にはレオ・ヌッチが登場、これが日本最後の舞台になるといいます。

輝かしいオペラの魅力に身も心も酔いしれることができる、“ヴェルディの劇場”と異名をとるスカラ座のこの『椿姫』こそ、イタリア・オペラの究極の1本と言えるでしょう。

Photos: Brescia e Amisano / Teatro alla Scala

舞台は19世紀半ばのパリ。高級娼婦のヴィオレッタが主宰するパーティーにアルフレードという青年が現れ、ヴィオレッタへの恋心を打ち明ける。

はじめは相手にしないヴィオレッタだが、その純粋さに触れ、次第に心が高揚していくことを感じ戸惑う。

数か月後、2人は華やかな生活を捨て、田舎で暮らしている。

そこへアルフレードの父、ジェルモンが現れ、"息子を誘惑した”とヴィオレッタを非難する。それに対し、ヴィオレッタは生活のために全財産を手放す覚悟を打ち明ける。ジェルモンは愛の深さに感動しつつも、息子のために別れてほしいと嘆願。ヴィオレッタは折れ、別れの手紙を書き残してパリへ戻る。

舞台は変わりヴィオレッタの友人、フローラのパーティー。そこへアルフレード、男爵の同伴としてヴィオレッタが現れる。ヴィオレッタの言葉に逆上したアルフレードはお客を呼び集め、大勢の前でヴィオレッタに札束を投げつけ侮辱する。

病床についているヴィオレッタ。そこへ全ての事情を知ったアルフレードがジェルモンとともにかけつけるが、時すでに遅く、ヴィオレッタはアルフレードの腕の中で息絶える。

指揮

ズービン・メータ

1936年ボンベイ生まれ。指揮者メーリ・メータを父にもつ。ウィーン国立音楽大学でハンス・スワロフスキーに師事。1958年にリヴァプール国際指揮者コンクール優勝を機に、一気に頭角を現し、1961年までに指揮を開始したウィーン・フィル、ベルリン・フィル、イスラエル・フィルとは、その後50年以上におよび緊密な関係を築いている。モントリオール響、ロサンゼルス・フィル、ニューヨーク・フィル、イスラエル・フィルの音楽監督を歴任。なかでもイスラエル・フィルとの関係は強く、1969年に音楽顧問、77年より音楽監督に就き、2019年に退任するまでに公演数3000以上、5大陸へのツアーを行った。

オペラ指揮者としては、1963年モントリオールの『トスカ』でデビュー。以来、メトロポリタン歌劇場、ウィーン国立歌劇場、英国ロイヤル・オペラ、ミラノ・スカラ座、シカゴ・リリック・オペラ、ザルツブルク音楽祭に登場。1985年から2017年にはフィレンツェ五月音楽祭を率い、1998年から2006年にはバイエルン国立歌劇場音楽監督を務めた。

2006年には、バレンシア州立歌劇場の開館を監督として担った。

ウィーン国立歌劇場、バイエルン国立歌劇場、ウィーン楽友協会の名誉会員をはじめ、ウィーン・フィル、ミュンヘン・フィル、ロサンゼルス・フィル、シュターツカペレ・ベルリンほかから、数々の名誉指揮者の称号を授与されている。

指揮者としての活動のほか、若手音楽家の育成と支援を世界中で続けている。

演出

リリアーナ・カヴァーニ

モデナ近郊のカルピ生まれ。ボローニャ大学で古典文学を専攻後、言語学を学んだ。大学在学中から映画制作に興味をもち、映画クラブを設立。1960年にローマに移り、映画専門技術アカデミーの映画監督コースを修了した。主な映画作品には、「ガリレオ」(1968年)、「ミラレパ」(1973年)、「愛の嵐」(1974年)、「フランチェスコ」(1989年)などがある。

1979年からはオペラ演出にも意欲を燃やし、第42回フィレンツェ五月音楽祭での『ヴォツェック』をはじめ、1984年にはパリ・オペラ座で『タウリスのイフィゲニア』、86にもパリで『メディア』を手がけた。この『メディア』は翌年にはフィレンツェで再演され、1985/86年シーズン最高の舞台に贈られるフランコ・アッビアーティ賞および音楽批評協会賞を受賞した。その後、フィレンツェ五月音楽祭で、1991年ヒンデミット作曲『カルディヤック』、93年ヤナーチェク作曲『イェヌーファ』を演出。

1990年にミラノ・スカラ座で演出した『椿姫』は、オペラ舞台国際フェスティバル最優秀賞、およびスカラ座天井桟敷の友賞を受賞。なお、スカラ座ではこのほか1993年にスポンティーニ作曲『ヴェスタの巫女』を演出した。


装置:ダンテ・フェレッティ
衣裳:ガブリエラ・ペスクッチ
振付:ミッシャ・ヴァン・ノック
照明:マルコ・フィリベック

予定されるキャスト

ヴィオレッタ:
マリーナ・レベカ

ラトビアのリガ生まれ。ラトビアで学んだ後、ローマのサンタ・チェチーリア音楽院で学んだ。在学中にザルツブルクの国際サマーアカデミーやペーザロのロッシーニ・アカデミーに参加し研鑽を積んだ。国際的な注目を集める契機となったのは、2009年ザルツブルク音楽祭でリッカルド・ムーティ指揮『モーゼとファラオ』でアナイを歌ったことだった。以来、ミラノ・スカラ座はじめメトロポリタン歌劇場、英国ロイヤル・オペラ、バイエルン国立歌劇場、ウィーン国立歌劇場、チューリッヒ歌劇場ほかの主要歌劇場およびカーネギーホールをはじめとするコンサートホールでのリサイタルなどで活躍。著名な指揮者たちと共演し、現代のトップ・ソプラノの一人と認められている。特に『椿姫』のヴィオレッタ役においては、現代最高の一人と称されている。また、レパートリーはヘンデル、ベッリーニ、ドニゼッティ、チャイコフスキーなど多彩だが、歌手としてのキャリアのスタートとなったロッシーニやモーツァルト歌手としても高い評価をもつ。

アルフレード:
アタラ・アヤン

ブラジルのベレン生まれ。生地の音楽院を卒業後ほどなく同地の歌劇場でデビュー。翌2008年に『ボエーム』のロドルフォでヨーロッパ・デビューを果たした。ボローニャ歌劇場への出演と並行して、ボローニャのイタリア・オペラ学校でさらに研鑽を積む。さらに2009/10年にはメトロポリタン歌劇場のヤング・アーティスト育成プログラムに参加、2011年7月にはメトロポリタン歌劇場にデビューした。このデビューは、「若きプラシド・ドミンゴを思い起こさせる」と絶賛された。2012年にシュツットガルト歌劇場のメンバーとなり、欧米の主要歌劇場での活躍を拡げた。ミラノ・スカラ座には2015/16年に『愛の妙薬』のネモリーノでデビュー。2017/18年にはパリ・オペラ座、サンフランシスコ・オペラ、ケルン歌劇場に続々とデビューを果たした。2019/20年にはウィーン国立歌劇場やベルリン国立歌劇場にも初登場があり、躍進が期待される注目のテノールの一人となっている。

ジェルモン:
レオ・ヌッチ

ボローニャ近郊のカスティリオーネ・デイ・ペーポリ生まれ。1967年にスポレートで『セビリアの理髪師』のフィガロを歌ってデビュー。その後、ミラノ・スカラ座合唱団に入り、ソロ活動の一旦休止を経て、1975年に再びソロ・デビューした。国際的なキャリアの契機となったのは、1978年英国ロイヤル・オペラ『ルイザ・ミラー』のミラーおよび1980年メトロポリタン歌劇場『仮面舞踏会』のレナートだった。以来、イタリアのベル・カントものからヴェリズモまで、幅広いレパートリーで世界中の舞台で活躍し、現代のイタリア・オペラを代表する歌手と認められている。なかでも、朗々とした声と確かなテクニック、ドラマティックな表現力が生かされる『椿姫』のジェルモン、『リゴレット』や『マクベス』のタイトル・ロール、『アイーダ』のアモナスロ、『オテロ』のヤーゴなど、ヴェルディ・オペラの諸役においてはオペラ史上に輝く名演も多い。ミラノ・スカラ座には1977年にソロ・デビュー。2007年には、デビュー30周年を祝すソロ・リサイタルをスカラ座で開催した。


ミラノ・スカラ座管弦楽団
ミラノ・スカラ座合唱団
ミラノ・スカラ座バレエ団

Photos: Brescia e Amisano - Teatro alla Scala, Janis Deinats, R.Ricci

NBSチケットセンター 
(月-金 10:00~16:00 土日祝・休)

03-3791-8888

英国ロイヤル・オペラ 2024年日本公演  「リゴレット」
  • 2024/06 会場:神奈川県民ホール、NHKホール