ジュゼッぺ・ヴェルディ
2018年の日本公演で上演して大評判になった女流映画監督ソフィア・コッポラ演出による『椿姫』が再び上陸します。女性をテーマとした映画で手腕を発揮するコッポラは、極端に設定を変えることなく、ヴィオレッタの愛とその 生き様を深く描き出すことに成功しています。ハリウッドで数々の大作を手がけるネイサン・クロウリーが創る世界 をイタリア・ファッション界の重鎮、ヴァレンティノ・ガラヴァーニによる本物のオートクチュール・ドレスをまといながら生きるヴィオレッタ。その外見が華やかで美しいがゆえに“裏社交界”の翳りとともに彼女の苦悩が強く迫ってきます。
今回の日本公演には、ヴィオレッタに世界中の歌劇場から引っ張りだこで『椿姫』や『ルチア』において華麗なコロラトゥーラを聴かせるリセット・オロペサ、アルフレードに美声にして美形、端正な歌い方でイタリア随一の実力派と認 められるフランチェスコ・メーリ、そしてジェルモンには初来日とはいえ、ヨーロッパでは引く手あまたの活躍をみせているアマルトゥブシン・エンクバートが登場。いまが盛りの歌手たちによる声の饗宴が繰り広げられます。目の贅沢、耳の至福、これぞ総合芸術であるオペラの醍醐味です。
演出
ソフィア・コッポラ
ニューヨーク生まれ。映画監督のフランシス・フォード・コッポラを父に、映画のセットデザイナーだったエレノア・ニールを母にもつ。カリフォルニア芸術大学で美術を学んだ。
映画「ヴァージン・スーサイズ」脚本・制作・演出家としてデビュー。2004年公開の映画「ロスト・イン・トランスレーション」で はアカデミー賞のオリジナル脚本賞を受賞、また監督賞とプロデューサーとして作品賞にノミネートされ、一躍女流監督とし て注目を集める。脚本・演出・制作を手がけた3作目の映画「マリー・アントワネット」は、アカデミー賞の衣装デザイン賞を受賞。2010年「Somewhere(サムウェア)」では、ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞した。
さらに、2017年の第70回カンヌ国際映画祭では、「TheBeguiled/ビガイルド 欲望のめざめ」で、女性監督として56年ぶりに監督賞を受賞。(同作は2018年2月に日本でも公開される)
2016年、ローマ歌劇場の『椿姫』で、オペラ演出家としてデビュー。プレミエ公演の収録は、彼女自身の編集により、映画「ソフィア・コッポラの椿姫」としても公開された。
衣裳
ヴァレンティノ・ガラヴァーニ
1932年北イタリアのヴォゲーラ生まれ。1949年ミラノのサンマルタ専門学校のファッションスケッチ課程に入学。またミラノでフランス語を勉強し、エコール・ドゥ・ラ・シャンブル・サンディカル・ドゥ・ラ・クチュール・パリジェンヌでファッションデ ザインを学んだ。卒業後、ギ・ラロッシュのアシスタントを経て、1959年にローマのコンドッティ通りにオートクチュールのアトリエを開く。
1960年、ジャンカルロ・ジアメッティとともに自身のブランド〈ヴァレンティノ〉を創業。1962年に最初のコレクションを発表した。1984年サラエボオリンピックおよびロサンゼルスオリンピックのユニフォームを手がける。1985年イタリア政府より「グランデ・ウフィッチャーレ」勲章、1996年「カヴァリエレ・ディ・グラン・クローチェ(功労騎士)」の勲章を授与された。
2008年1月のパリ・オートクチュールコレクションを最後に、ヴァレンティノ・ガラヴァーニは〈ヴァレンティノ〉のデザイナー から引退した。 ローマ歌劇場の『椿姫』新演出で、衣裳を手がけることになった際、彼自身「『椿姫』を新たに表現することは長年の夢だった。 スペシャルな作品に仕立てる夢がかなった」と語り、ヴァレンティノ・ガラヴァーニが再びアトリエに立つことはファッション 界においても大きなニュースとなった。
指揮
ミケーレ・マリオッティ
ペーザロ生まれ。ロッシーニ音楽院で作曲と指揮、ペスカレーゼ音楽院でドナート・レンツェッティに管弦楽指揮を学んだ。オペラ指揮者としてのデビューは2005年サレルノでの『セビリャの理髪師』。2007年の『シモン・ボッカネグラ』の成功を機に2008年に就任したボローニャ歌劇場首席指揮者は2018年まで務めた。この間には、ボローニャをはじめ、ミラノ・スカラ座、ペーザロのロッシーニ・フェスティバルほかでの活躍におけるエレガントな音楽づくり、安定したテクニック、鋭い解釈による表現が認められ、第36回アッビアーティ賞の最優秀指揮者に選ばれた。パリ・オペラ座、ウィーン国立歌劇場、英国ロイヤル・オペラ、バイエルン国立歌劇場、ベルリン・ドイツ・オペラ、ザルツブルク音楽祭、メトロポリタン・オペラ、ナポリのサンカルロ劇場ほか、イタリア国内および海外の主要な劇場に招かれ、その実力は広く認められている。
2022/23シーズンよりローマ歌劇場音楽監督に就任。就任1年目のシーズンには4つの新制作作品を指揮。また、同シーズンのラインナップ発表時には2023/24に『メフィストフェレ』、2024/25に『シモン・ボッカネグラ』、2025/26に『ローエングリン』と、3シーズン先までの予定が発表された。ローマ歌劇場の果敢な挑戦は、マリオッティ音楽監督のもと繰り広げられる。
アルフレード
フランチェスコ・メーリ
1980年ジェノヴァ生まれ。17歳のときにパガニーニ音楽院で声楽を学び始める。その後、エンリコ・カルーソー国際声楽コンクールをはじめとするいくつかのコンクールでその才能が認められるところとなった。プロの歌手としてのデビューは2002年、スポレートのドゥエ・モンディ音楽祭で、『マクベス』のマクダフ役、「小荘厳ミサ」、プッチーニの「グロリア・ミサ」を歌った。これらは、後にメーリのベルカントとロッシーニのレパートリーにおける際立ったキャリアのスタートを示すものでもあった。23歳でリッカルド・ムーティ指揮『カルメル派修道女の対話』でミラノ・スカラ座にデビュー、以後、チューリッヒ歌劇場、ウィーン国立歌劇場、英国ロイヤル・オペラ、メトロポリタン・オペラなど、世界の著名な歌劇場で活躍。2009年以来、徐々にベルカントの役柄からドラマティックな声が求められる役柄へとレパートリーを拡大し、50を超える役柄をレパートリーとすることとなっている。2013年、ヴェルディ作品の優れたパフォーマンスによって受賞したアッビアーティ賞をはじめ、数多くの賞を受け、世界で最も魅力的で人気のあるテノールの一人と認められている。
ヴィオレッタ
リセット・オロペサ
ルイジアナ州ニューオリンズ生まれ。フルートを学んだのち声楽に転向し、メトロポリタン・オペラによるナショナル・カウンシル・オーディションの優勝を機に同歌劇場の若手芸術家育成プログラムに参加、22歳にして『フィガロの結婚』スザンナでデビューを飾る。以後はメトロポリタン・オペラをはじめ、ミラノ・スカラ座、ウィーン国立歌劇場、バイエルン国立歌劇場、パリ・オペラ座など世界の主要な歌劇場に次々と主演を重ねる。2021/2022シーズンは英国ロイヤル・オペラのシーズン開幕作品『リゴレット』でジルダを演じ高評を博した。2022年夏にはザルツブルク音楽祭にデビュー。『ランメルモールのルチア』(演奏会形式)で成功をおさめた。その翌月、初来日を果たし、ルカ・サルシとともにオペラ・アリアで聴衆を魅了した。レパートリーは幅広く、モーツァルト、ベッリーニ、ドニゼッティなどリリック・コロラトゥーラの諸役で圧倒的な輝きを放つ。
ジェルモン
アマルトゥブシン・エンクバート
1986年モンゴルのスフバートル生まれ。モンゴル国立文化芸術大学で学んだ。2008年以来、モンゴル国立オペラ・バレ エ・演劇劇場のソリスト。2009年モンゴル国内コンクール、2011年ロシアで開催されたバイカル国際オペラ・コンクールとチャイコフスキー国際コンクール、2012年北京で開催されたプラシド・ドミンゴ主宰のオペラリア、2015年カーディフ世界歌手コンクールなど、数々のコンクールで優れた成績を獲得。以後、ソウル、キエフ、パリ、ニューヨーク、シンガポールなどで多くのコンサートを行い、オペラでも着実に活躍の場を世界へと広げた。2021年にはフィレンツェ歌劇場、アレーナ・ディ・ ヴェローナ、パルマのヴェルディ・フェスティバル出演のほか、ウィーン国立歌劇場と英国ロイヤル・オペラに『ナブッコ』のタイトルロールでデビュー。2022年には『ルイーザ・ミラー』でローマ歌劇場にデビューを飾るほか、ミラノ・スカラ座、ベルリン・ドイツ・オペラ、ボローニャ歌劇場をはじめとした著名な歌劇場でヴェルディ・バリトンとしての実力を発揮。2023年は 『椿姫』のジェルモン役でメトロポリタン・オペラデビューを果たした。
ヴィオレッタ・ヴァレリーの住む屋敷
ヴィオレッタが客たちをもてなしているところに、ガストーネ子爵が現れ、彼女に熱烈な想いを抱くアルフレード・ジェルモンを紹介する。ガストーネが愛の力を祝して杯を上げると、それに応えてヴィオレッタが享楽と気楽さを謳歌する。やがてダンスが始まり客たちはサロンへと移って行く。突然気分が悪くなったヴィオレッタは、その場に座り込む。アルフレードは彼女に付き添い、こんな生活を送っているからだと優しく諌め、自らの愛を告白する。ヴィオレッタはその気持ちに応えることはできないとはっきり断るが、アルフレードによって呼び覚まされた気持ちに深く動揺する。そして一輪の花を渡し、客たちが帰った後、ヴィオレッタは心の中に生まれたアルフレードに対する大きな愛情と、もはやその呼び声から逃れることはできないのだということに気づく。
第1場 パリ郊外の別荘
二人だけで楽しく暮らすことを決めたアルフレードとヴィオレッタ。狩りから戻ったアルフレードは、ヴィオレッタの大いなる愛のあかしとも言えるその暮らしに思いをめぐらす。そこへ小間使いのアンニーナが現れ、ヴィオレッタは二人の生活のために自分の馬や多くの財産を売らなければならなかったのだと話す。アルフレードはこの悲惨な状況を何とかするために、パリへ戻ることにする。突然の出発に呆然とするヴィオレッタは、友人フローラから届いた今夜開かれるパーティへの招待状を気にも留めない。そこへアルフレードの父ジョルジョ・ジェルモンの訪問が告げられる。息子をたぶらかしたと非難するジェルモンに、ヴィオレッタは全財産を売りに出していることを打ち明ける。するとジェルモンは、彼女の高貴な心に訴えかけながら、息子のことは諦めてほしい、アルフレードには結婚を控えた妹がいるのだが、二人の間のスキャンダルが消え止まぬうちは結婚できないのだと話す。抵抗し、長らくためらったあと、ヴィオレッタはとうとうジョルジョ・ジェルモンの懇願を受け入れる。そしてアルフレードにもう愛していないと伝えることを約束する。別れの手紙を書いているちょうどそのときに、アルフレードが戻りヴィオレッタを驚かす。アルフレードは何が起こっているか、知る由もない。ヴィオレッタは両腕で彼を抱きしめ、その愛のすべてを語ると、立ち去る。不審な思いを抱くアルフレードは、気を取り直す間もなくヴィオレッタの手紙を受け取る。そこへ父が現れ、慰めながら一緒に家に帰るよう説得する。
第2場 フローラの客室
多くの取り巻きに囲まれながら、フローラがアルフレードとヴィオレッタの二人が別れたと噂する。仮面で仮装した人々が現れ、パーティが始まる。アルフレードが現れ、賭博台へと向かう。そこへドゥフォール男爵にエスコートされたヴィオレッタが現れ、負け知らずに勝ち続ける恋人の姿を認め動揺する。ドゥフォール男爵も一戦交えるが、アルフレードに敗れる。賭博台をあとに友人たちと夕食に向かいながら、アルフレードは男爵の好きなゲームでリベンジを受けて立つと申し出る。ヴィオレッタがアルフレードに近寄り、危険だからパーティから去るようにと訴えるが、アルフレードは彼女と一緒でなければ帰らないと繰り返す。ヴィオレッタは拒みながら、ジョルジョ・ジェルモンとの約束のために本意を明かすことはできず、男爵のことを愛していると言ってしまう。怒りと嫉妬に駆られたアルフレードは、人々を集め、これ見よがしに借りは返したと、怒りに任せてヴィオレッタの足下に賭博で得た金の詰まった財布を投げつける。一同がその振る舞いを非難するなか、ちょうどそこに現れた父ジェルモンが、ヴィオレッタの犠牲をただ一人知るものとして息子を諌める。意識を取り戻しアルフレードに対する想いを繰り返すヴィオレッタ。アルフレードは自らのおこないを深く悔やみながら、決闘を申し出る男爵の声を耳にする。
パリのヴィオレッタの寝室
寝床に伏すヴィオレッタ。もはや回復の見込みはない。医者は肺結核を認め、アンニーナにこっそりと、もう何時間ともたないだろうと告げる一方で病人には励ましの言葉をかける。通りでは人々が謝肉祭に沸いているのが聞こえる。ヴィオレッタは苦しんでいる人々のことを思い、残った金の半分を貧しい人に与えるようアンニーナに託す。一人になると、ヴィオレッタはジョルジョ・ジェルモンの手紙を読み返す。そこには彼女の犠牲のことを知ったアルフレードが、許しを請いににやってくると綴られている。ようやくアルフレードが到着し、二人は強く抱き合う。そして共に過ごした幸せな日々を思い出しながら、これからの人生の幸福を語り合う。病を克服し、生き、幸せになり、そして愛したいと願うヴィオレッタ。しかし高揚した気持ちが病状を悪化させる。ヴィオレッタはもう生きられないのだということを悟り、遅れてやってきた父ジェルモンを優しくとがめる。そして最後の力を振り絞りアルフレードに自分の肖像画の入ったロケットを手渡したあと、安らかに息を引き取る。