第1幕

クリスマスの夜、男の子がひとり、ちっぽけなモミの木のそばにすわっている。その枝には、去年のクリスマスからずっと残されたままの飾りが、寂しげに揺れている。男の子ビム の母親 は亡くなったのだ。ビムは、父にもらったくるみでひとり寂しく遊んでいる。部屋には父(M...と飼い猫のフェリックス*がいる。と、夢なのか魔法なのか、男の子のそばに白いスーツに身を包んだ母親が現れて、モミの木の下に小さなプレゼントを置こうとする。

背景の幕が落とされ、夢のような夜が始まる。まず、赤と白のレオタードのダンサーたちが現れ、クラス・レッスンが始まる。マントを羽織ったM...(ここではマリウス・プティパ)がダンサーたちの間をゆっくりした足取りでみて回っている。ビムもダンサーたちについて一生懸命に踊る。

猫のフェリックスが呪文を唱えると赤いカーテンから、かわいらしい緑のマントをつけた女の子が現れる。ビムの妹である。小さい頃ふたりはよくこんな扮装をして、ビムの大好きな「ファウスト」のお芝居 をして遊んだのだ。懐かしい家族団欒の雰囲気に誘われたのか、ふたたび母が、今度はマリンルックで現れる。待ちかねていたかのように母の元に、ビム、妹、フェリックスが集まってきて、M...(ここでは父)は母の手の甲にキスをする。

母や妹が去ってしまい、夢は次の場面へ。M...が杖でリズムをとると、それに合わせて規律正しく行進してきたのは、ボーイスカウトの少年たち。ビムも嬉々として一緒に踊る。やがて疲れ果ててみんなが寝袋に入って眠りについてしまうと、森の奥からまばゆく光り輝く天使 がふたり、そうっと現れる。やがてふたりの妖精も加わって、少年たちを見守るように、暖かく包み込むように舞い踊る。朝がきてビムと少年たちは目覚め、ふたたび元気に動き出す。すると、彼らの目の前に現れたのは…

大きくそびえる聖母像 だった。ビムは像に母の面影を見出し、一生懸命によじ登ろうとするが、なかなかうまく登れない。ついには足を滑らし、落ちてしまう。M...はそんなビムを突き飛ばし、荒荒しく猛るように踊り出す。

やがて、像がぐるりと回転し、美しいほこらが現れ、そこにはビムの探し求めていた母の姿が。そしてビムと母の愛情溢れるパ・ド・ドゥ。

ビムと母のふたりがほこらに消え、光の天使と妖精たちが踊り出す。と、それに誘われるかのように雪が降りだし、そりに乗ってサンタクロースならぬ、マジック・キューピーが登場。アコーディオンの暖かなメロディーにのせ、華やかなマジックを披露して、やっと母とふたたび出会えたビムを祝福するのだった。

第2幕

やっと出会えた大切な時間に、互いをいとおしむように踊るビムと母。が、M...に促されビムは、精一杯母を喜ばせようと、趣向を凝らした踊りの数々を母に見せるのだった。闘牛で盛り上がる「スペインの踊り」、自転車に乗った「中国の踊り」、不思議なマジックで始まる「アラビアの踊り」、ダイナミックで華やかな「ロシアの踊り」、そして猫のフェリックスもタキシードの男たちを引き連れて愉快な踊りを披露するのだった。

スペイン、中国、アラビア、ロシア…何かが足りない…そうだ、フランスだ!そして小粋なシャンソンで「パリの踊り」が始まる。ビムも母も一緒にワルツを踊りだす。
楽しく踊るうちに、ビムはバレエの世界に惹き込まれていく。M...(マリウス・プティパがお手本を見せるかのように踊りだし、ビムの目は釘づけになる。

白いドレスを身にまとっている母も、「花のワルツ」にのせて若い娘のように軽やかに踊りだす。タキシードの男たちも加わって、ビムも母も嬉しそうだ。
そしてM...(マリウス・プティパ)の紹介で、グラン・パ・ド・ドゥが踊られる。

場面は冒頭のシーンに戻る。ビムはクリスマスツリーのかたわらで眠り込んでしまっていたのだ。夢から覚めると目の前にプレゼントが。包みを開けるとそれは、愛しい母の面影を宿した像なのだった。

photos: Kiyonori Hasegawa

ビム: ベジャールの子どもの頃のあだ名。つまり、ビムは子ども時代のベジャール自身であり、ワイノーネン版『くるみ割り人形』のクララにあたる。

母: ベジャールが7歳のときに他界。「私から見て、母は世界で一番素晴らしく装った女性であった。」 ―― 「モーリス・ベジャール自伝他者の人生の中での一瞬……」(劇書房刊)より。

M...: ワイノーネン版でクララを夢の世界へと導くドロッセルマイヤーにあたる、ビムの成長を見守り将来へと導く役。ベジャールの父、師として尊敬する振付家マリウス・プティパ、子どもの頃から夢中になっている「ファウスト」のメフィストほかの複合像である。

猫のフェリックス: ビムの飼い猫。愛猫家のベジャールが新たに設定した、愛すべきキャラクター。

光の天使: 子ども時代のベジャールが好んで観に行ったショーに登場していたキャラクターに想を得ている。当時から創作のヒントとなっていたようである。

聖母像: 有名なボッティチェリの「ヴィーナス誕生」に模したこの像は、母のイメージと重ね合わせられている。

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