




バイエルン国立歌劇場来日記念特別演奏会 エディタ・グルベローヴァ オペラ・アリアの夕べ
歌うたびに奇蹟が起こる! これまで誰も達し得なかった歌唱芸術の頂に立つ孤高のプリマ!
指揮:アンドリー・ユルケビッチ 管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
EDITA GRUBEROVA
声とダイヤモンド
なんと硬い声なのだろう!どんな鋼鉄も、どんな鉱石も、エディタ・グルベローヴァの声は傷つけられない。強力なテノールやメゾ・ソプラノが立ち向かった末引き下がる二重唱や、いずれも実力ある歌手たちが取り囲みながら輝く声の刃に打ち負かされてゆくアンサンブルを、私たちはこれまで何度聴いてきたことだろうか。 『魔笛』の夜の女王などを歌って登場した時から、グルベローヴァは極度に硬質な声という武器を携えていた。柔らかな声だけがソプラノの美だと信じる者を、北方の夜の女王は大いに恐れさせたものだった。その声がルチアの心を狂わせていった時、崇める人だけでなく、後退りしてしまった人だっていたはずだ。グルベローヴァによってベルカント・オペラはもうひとつの恐るべき世界を獲得したのだった。 あの声は一種の凶器じゃないだろうか、と思っていたのだけれど、コンサートで不思議な現象に気づいた。オペラなら、ルチアやルクレツィア・ボルジアやヴィオレッタの運命がものを言う。グルベローヴァが遠慮会釈なく、人から興奮や涙を奪うのは当然の話だ。しかしコンサートで歌曲やオペラ・アリアが歌われた後、多くの人たちが陶然とするのだ。うっとりした表情を浮かべる人に成熟した女性が多いと気づいて、連想が働いた。まるで宝石を見た時のよう。それも大きなダイヤモンドを目のあたりにした時だ。そう、確かにダイヤモンドだった。エディタ・グルベローヴァの、これ以上硬いものはこの世にないという、ダイヤモンドの声だった。 気づけば現在のグルベローヴァが挑んでいるドニゼッティのオペラの、もうひとつの魅力が見えてくる。何しろ現代の上演だから、ルクレツィアやエリザベッタらのヒロインたちは、必ずしもきらびやかな衣裳をまとったりはしない。洗練されていても華美ではなく、時にはあえて地味な姿になることだってある。しかしグルベローヴァがヒロインを歌えば、その上演が華やかになるのはまちがいない。理由が一層はっきりする。歌の技において図抜けているのだが、それだけではなかった。ヒロインがいつもダイヤモンドの声を身にまとっているからだ。 コンサートでは、あの女王の、このヒロインの歌が、絢爛たるダイヤモンドの光を放つのを目のあたりにする。どうしてうっとりせずにいられるだろう。 堀内 修(音楽評論家)
予定される曲目
■W.A.モーツァルト: 歌劇『後宮からの逃走』より序曲(オーケストラ) 歌劇『後宮からの逃走』より“あらゆる苦しみが”(グルベローヴァ) ■G.ドニゼッティ: 歌劇『ロベルト・デヴェリュー』より序曲(オーケストラ) 歌劇『ランメルモールのルチア』より狂乱の場 “苦しい涙を流せ” (グルベローヴァ) ■G.ロッシーニ: 歌劇『ウィリアム・テル』より舞踏音楽(オーケストラ) ■G.ドニゼッティ: 歌劇『ルクレツィア・ボルジア』より“息子が!息子が!誰か!~彼は私の息子でした”(グルベローヴァ) ■A.トマ: 歌劇『レーモン』より序曲(オーケストラ) ■V.ベッリーニ: 歌劇『清教徒』より“あなたの優しい声が” (グルベローヴァ) ■A.ポンキエッリ: 歌劇『ラ・ジョコンダ』より「時の踊り」(オーケストラ) ■G.ヴェルディ: 歌劇『椿姫』より“ああ、そはかの人か~花から花へ” (グルベローヴァ) ※演奏順不同。 ※上記の曲目は2011年6月1日現在の予定です。曲目は演奏者の都合により変更になることがあります
エディタ・グルベローヴァ [ソプラノ]
ブラティスラバ生まれ。1970年にウィーン国立歌劇場「魔笛」夜の女王役で本格的デビューを飾り、カール・ベーム指揮によるR.シュトラウス「ナクソス島のアリアドネ」ツェルビネッタ役で国際的な注目を集める。以後、ミラノ・スカラ座、コヴェント・ガーデン、メトロポリタン歌劇場をはじめ一流オペラハウスにおいて、ドンナ・アンナ(「ドン・ジョヴァンニ」)、ジルダ(「リゴレット」)、ヴィオレッタ(「椿姫」)、ルチア(「ランメルモールのルチア」)などを歌い絶賛を浴びた。また、これらの歌劇場の多くが、グルベローヴァのために「マリア・スチュアルダ」「清教徒」「ロベルト・デヴェリュー」「夢遊病者の女」「カプレーティとモンテッキ」「アンナ・ボレーナ」「シャモニーのリンダ」といった稀少なベルカント・オペラを制作。デビューから40年以上たった今なお“完全無欠なコロラトゥーラのプリマ・ドンナ”“ベルカントのディーバ”という呼び名にふさわしい熱狂を世界中で巻き起こしている。
指揮:アンドリー・ユルケビッチ
ウクライナ出身。生地の音楽学校を1999年に卒業後、シエナのキジアーナ音楽院でアルベルト・ゼッダ、ジャンルイジ・ジェルメッティなどに師事。1996年からウクライナの国立歌劇場でヴェルディやプッチーニ、およびロシア・オペラ、バレエなど、数々の作品を振る機会を得た。その後、ローマ歌劇場、ブリュッセルのモネ劇場、パレルモのマッシモ劇場などに客演。2007/2008年シーズンには、ベルリンのフィルハーモニーでグルベローヴァがミュンヘンのヘラクレスザールで行ったコンサートでも指揮を務めている。