1975年生まれの英国人指揮者ダニエル・ハーディングが、音楽界に鮮烈な登場を果たしたのは1990年代中頃のことである。
 サイモン・ラトルとクラウディオ・アバドが力強く後押しする20代前半の青年指揮者。それがハーディングの第一印象であった。
 しかし、何といっても衝撃的だったのは、1999年にエクサン・プロヴァンス音楽祭引っ越し公演「ドン・ジョヴァンニ」(ピーター・ブルック演出)の指揮者として初来日したときである。当時24歳。その若々しく覇気に満ちた演奏は、「モーツァルトとはこのようでなければならない」という既成概念を打ち砕く、疾風のような激しい、そして強い説得力を持つものであった。
 これは私の憶測だが、アバドがハーディングを育てたというよりも、ハーディングの若々しいエネルギーが、アバドに影響を与えたのではなかろうか。それくらい、ハーディングの才能は衝撃的な可能性を秘めたものだったのだ。ムーティと決別したスカラ座が、かつての音楽監督だったアバドの音楽上の“息子”ともいえるハーディングと接近したのも、歴史の必然だと私は思っている。
 以来、ハーディングはウィーンやベルリンを始め、世界中から求められる指揮者の一人となった。オペラのみならず、若い世代の聴衆から高い支持を受けるシンフォニックなレパートリーのすべてについても言えることだが、ハーディングの音楽は、常に強靭な緊張の糸がピンと張り巡らされている。弱音の中に室内楽の響きを紛れ込ませたり、金管の表情にドキリとするような不協和な表情をこっそり忍び込ませたり…。作品の本質へと鋭く迫る、ある種の直接性があるのだ。決して守旧的な居心地の良さに聴き手を安住させず、誰もが慣れ親しんだ楽曲であっても、常に新たな意味の問いかけと、非日常性の裂け目がある。
 ウィーンやスカラが繰り返しハーディングを求め続ける最大の理由はそこにある。本当に待ち望まれているのは、ルーティンな安全運転ではなく、何か常識を超えるような飛躍や、魔法のような化学反応なのではあるまいか? ハーディングは、それができる数少ない選ばれた指揮者なのだ。
 そんな彼がこよなく愛するのが、日本の聴衆である。特に、2011年3月11日の東日本大震災当日にたまたま日本に滞在しコンサートを敢行した経験は、日本への愛とシンパシーをいっそう深めることになった。今回のスカラ座とのコンサートは、ハーディングの勇姿を日本の聴衆にお披露目する場でもあり、彼自身、燃えないわけがない。
 プログラムはオペラの名管弦楽曲集だが、ここでハーディングはロマン派から現代に至るまでの豊富なシンフォニックなレパートリーの経験を存分に活かすに違いない。ここで中心となっているヴェルディやワーグナーといった作曲家たちは、言うまでもなく、一国の文化にとどまらない、そしてオペラという一ジャンルにもとどまらない、私たちの過去も現在も未来も包摂した巨大な存在である。新しい視点は常に求められるのだ。
 世界のオペラとオーケストラの未来の一角を担うハーディングの檜舞台を、ぜひとも熱い視線で見守りたい。


林田直樹(音楽ジャーナリスト)

予定される楽曲 公演日・会場  入場料(税込み)

S=¥19,000 A=¥17,000  B=¥15,000  C=¥12,000 D=¥10,000 E=¥8,000
エコノミー券= ¥5,000 

(7月27日(土) よりイープラスのみで発売。お一人様2枚まで)
学生券=¥2,500
(7月27日(土)NBS WEBチケット (学生会員) のみで発売。25歳までの学生が対象。公演当日、学生証必携)


◆ペア割引券  ※ NBSチケットセンター電話予約のみで受付
S券ペア割=¥37,000 A券ペア割=¥33,000 B券ペア割=¥29,000


 ※未就学児童のご入場はお断りします。

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