スカラ座は今年のヴェルディ・イヤーの幕開けを「ファルスタッフ」で飾りました。ヴェルディ最後のオペラ「ファルスタッフ」は、1893 年2 月、スカラ座で初演。今年は「ファルスタッフ」初演120年にもあたります。“ヴェルディの劇場”スカラ座が記念の年に新演出を託したのは天才的なアイディアと美しい舞台づくりが評判の人気演出家ロバート・カーセン。舞台は1950年代に設定。ファルスタッフの寝ぐらである“ガーター亭”に用いられたオーク材の壁の重厚感とアリーチェの家のモダンなキッチンの明るさは、落ちぶれ貴族と新興ブルジョワの対比を際立たせ、現実とウィンザーの森の幻想的な世界の対照は、交錯する登場人物たちの心情を絶妙に描き出します。カーセンの演出はヴェルディが織り込んだ人間心理の綾や音楽的なパロディを視覚的に表し、観るものを舞台に引き込んで放しません。
 さらに、歌手陣には現在最高のファルスタッフ歌いとして名高いマエストリ、アリーチェ役には抜群の歌唱力と女優並みの表現力をもつフリットリ、この演出で大きな存在感をもつクイックリー夫人には人気メゾ、バルチェッローナが顔を揃えます。また、ともに“スカラ座育ち”のカピタヌッチとカヴァレッティによるフォード、目下注目の若手ルングとポーリが演じる若い恋人たちなど、次代のスターを輩出してきたスカラ座ならでは万全な布陣。ヴェルディ生誕200年の大きな節目にスカラ座が贈る新時代のヴェルディが、この「ファルスタッフ」なのです。