アンナ・ボレーナ(ソプラノ):イギリス王妃。エンリーコ8世の妻。 ジョヴァンナ(メゾ・ソプラノ):アンナの女官。エンリーコ8世の愛人。 エンリーコ8世(バス):イギリス国王。 パーシー卿(テノール):アンナの初恋の男性。 スメトン(アルト):小姓。 ロシュフォール(バス):アンナの兄。
序曲 オペラの内容の悲劇性をあまり連想させないような軽快さをもった序曲
第1幕 ウィンザー城では、騎士や女官たちが、新しい愛人ができた王が王妃アンナのもとを訪れないと囁きあっている(合唱〈王は来ておられないか〉)。アンナに呼ばれてやって来た女官ジョヴァンナは、自分が王妃を裏切った後ろめたさにおののいている。悲しみと不安を抱きながら、アンナはスメトンに歌を命じる。密かにアンナを想うスメトンは〈あなたの悲しみはほほえみのごとく美しい〉と感傷的なロマンツァを歌う。しかしアンナはこの歌を遮る。彼女の心の中には、パーシー卿との過去の恋が生きているため、スメトンの歌にも心乱されるばかりなのだ。アンナは王を待つことを諦め、〈この悲しい心の中をのぞくことができれば〉とジョヴァンナに、王妃への誘惑にのらないように、と悲しみをもらして去る。 ジョヴァンナのもとにエンリーコがやって来る。苦しい胸のうちを語るジョヴァンナにエンリーコは〈わたしのすべての光がお前のなかにだけひろがるだろう〉と言う。「私の名声は祭壇の下にのみ。でも私には禁じられている」と答えて立ち去ろうとするジョヴァンナにエンリーコは、アンナの処罰をほのめかす。ジョヴァンナはアンナを不幸に陥れることに呵責を感じながらもエンリーコへの愛を抑えきれない。 反逆罪で追放されていたパーシー卿は罪を解かれ戻って来た。アンナの兄ロシュフォールから、アンナが王妃となったことを知ったパーシー卿は〈彼女を失い絶望して追放された日に死は始まった〉と言い、もう一度アンナに会うことができれば死んでもかまわないと、今も変わらぬアンナへの想いを歌う。 狩の一行とともにやってきたエンリーコを待ち受けるアンナ。パーシー卿がエンリーコに無実を認めてくれたことの感謝を示すと、エンリーコは「それはアンナだ」と言う。実はエンリーコは、偶然を装ってアンナの前にかつての恋人を再会させれば、二人の間に愛が再燃し、アンナを姦通罪で処罰することができると目論んでいるのだった。喜ぶパーシー卿を前に、アンナは動揺し、その様子を見たエンリーコは家臣に二人を監視するよう命じる(一同の重唱〈夜の帳がおりた時に私の心が動揺しませんように〉)。 スメトンが以前に盗んだ肖像画を返そうとアンナの居間に忍びこんでいる。肖像画を手に〈もう一度口づけを、愛する姿〉と歌っていると人の気配がするので身を隠す。やってきたのはアンナとロシュフォール。やがてロシュフォールのはからいでやって来たパーシー卿は〈私と一緒になり忘れるのだ〉と変わらぬ愛を打ち明けるが、アンナは心動かされながらもきっぱりと拒む。絶望したパーシー卿は自害しようとするが、スメトンが飛び出して止める。気絶するアンナ。そのとき突然、エンリーコが現れ、その場の状況を問いただす。スメトンはアンナの無実を証言しようとするが、運悪くスメトンが持っていた肖像画が見つかってしまう。気がついたアンナは釈明を訴えるがエンリーコはアンナが不貞を働いたものと決めつけ、アンナ、パーシー、スメトン、ロシュフォールを牢にと命じる。無実を訴える3人とエンリーコによる迫真の場面が第1幕フィナーレを飾る(「あなたの視線のなかに疑惑が見える」~「お前たちの運命は決まった」)
第2幕 捕らえられたアンナを思い女官たちが王妃の不運を嘆いている(合唱「どこに行ってしまったのでしょう」)。一人になったアンナのもとにやって来たジョヴァンナは罪を認め、王と離別すれば命は救われるという王の伝言を告げる。アンナが拒むとジョヴァンナは「王座が約束されている不幸な女の頼みだ」と言う。卑劣な女!と怒りに震えるアンナを前に、ジョヴァンナはそれが自分であることを告白し、許しを請う。二人の女の激しい葛藤の二重唱の後、やがてアンナは〈お前を許すべく神に祈りましょう〉と別れの言葉と深い悲しみのなか立ち去る。 廷臣たちはスメトンが真実を語るようにと祈っているが、彼が罪を告白したと告げられる。エンリーコがスメトンを罠にかけてアンナの罪を告白させたのだった。アンナはエンリーコに王家の一人としての名誉を願うが、エンリーコはとりあわない。さらにパーシー卿はアンナの無実を訴え〈アンナは私の妻だった。彼女を取り戻し、どんな運命にも従う〉と言うので、その高潔さと寛大な心にアンナは感動するが、エンリーコはアンナがパーシー卿と結婚していたことをはじめて知って怒りをあらわにする。 一人残ったエンリーコは、アンナがパーシー卿の妻だったことに動揺している。やって来たジョヴァンナは、アンナの恩赦を請い、自分が身を引くことを願う(〈これ以上私に罪を負わせないで〉)がエンリーコは聞き入れない。そこに、アンナに対する死刑の決定が告げられる。人々は王の恩赦を願い、ジョヴァンナは〈天も地も、みなの目は陛下に向けられている〉と最後の望みを託す。 ロンドン塔の牢獄に捕えられているパーシー卿とロシュフォールのもとに、王が二人の助命を決めたと知らせが届く。パーシー卿はロシュフォールに〈君だけは生きてくれ〉と願うが、ともに死を決意する。 アンナの牢の前で〈誰が涙なくしてあの方を見ることができるでしょう〉と悲しんでいる女官たちの前に、死刑を宣告され、発狂したアンナが姿を表し、〈婚礼の日なのにあなたたちは泣いているの?〉と口走る。そしてパーシー卿との幸せだった日々を〈私の生まれたあのお城に連れて行って〉と懐かしみ、しばし正気を取り戻すが、牢から引きだされた出されたスメトンが偽証した自分の愚かさを告白すると、アンナは再び錯乱に陥っていく。そしてエンリーコとジョヴァンナの婚礼を祝う音が聞えると〈よこしまな夫婦よ、私は復讐を求めはしない〉と赦しを歌い、人々の見守るなかで息を引き取る。
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