アルマヴィーヴァ伯爵(バリトン):セヴィリヤの浮気な貴族。領主の権限として初夜権の復活を企んでいる。 伯爵夫人(ソプラノ):望まれて結婚したのだが、夫の浮気性には辟易としている。 フィガロ(バス):伯爵夫妻のキューピッド役を果たした功績から召し抱えられた伯爵家の召使。 スザンナ(ソプラノ):伯爵夫人付きの召使。婚約者フィガロに勝るとも劣らない知恵者。 ケルビーノ(メゾ・ソプラノ):伯爵の小姓。ちょっとおませな美少年。 バルトロ(バス):医者。実はフィガロの父親。 マルチェリーナ(メゾ・ソプラノ):伯爵邸の女中頭。実はフィガロの母親。 バジリオ(テノール):音楽教師。
序曲 笑いさざめくような主題に始まる序曲は、このオペラの喜劇的内容を表すもの。オーケストラ・コンサートでも取り上げられることも多く、序曲の逸品といえる。
第1幕 結婚式を前に、浮き浮きと部屋の寸法を計るフィガロに、スザンナが、伯爵は初夜権復活を企んでいて、自分たちに屋敷で一番便利なこの部屋を与えたのは、伯爵のスザンナ目当てが理由なのだと告げる。驚いたフィガロは、〈伯爵さま、踊りをなさりたければ〉と、主人のよこしまな企みに怒りを歌う。フィガロとスザンナの結婚を邪魔立てしようとするのはそれだけではない。女中頭のマルチェリーナは、年甲斐もなく、借金の証文をたてに、フィガロと結婚しようとしているのだ。スザンナとマルチェリーナの二重唱〈どうぞお通りになって〉は、“恋敵”の女同士が、軽妙ななかに皮肉なやりとりをする“女の闘い”。 マルチェリーナと入れ替わりにケルビーノがスザンナのもとへやって来る。鮮烈なアリア〈自分で自分がわからない〉で、伯爵夫人への想いを歌うが、スザンナの気も引こうとする。そこへ伯爵が来る。椅子の陰にケルビーノが隠れているとも知らず、伯爵はスザンナを口説きにかかるが、今度はそこにバジリオが来るので、伯爵が隠れる。しかし、バジリオが伯爵夫人とケルビーノの噂話を始めるので、伯爵が飛び出し、スザンナ、バジリオとの三重唱〈何だと!〉を歌ううちに隠れていたケルビーノが見つかってしまう。怒り心頭の伯爵の前に、フィガロが村人たちを連れて来る。フィガロはみんなの前で伯爵に初夜権の放棄を確認し、彼の企みを阻止しようというのだ。伯爵はフィガロの一計に気づくものの、素知らぬ顔で放棄とフィガロたちの結婚を認めるが、ケルビーノには軍隊行きを命じる。しょげるケルビーノに、フィガロは〈もう飛ぶまいぞ、この蝶々〉と、からかいながら励ます。
第2幕 伯爵夫人が〈愛の神よ、ご覧ください〉と、夫の愛がさめてゆくことを嘆いている。スザンナとフィガロは、夫人のために伯爵を懲らしめる計画を立てる。フィガロと入れ替わりにやって来て〈恋とはどんなものかしら〉と歌うケルビーノ。スザンナは計画通りケルビーノの女装にとりかかるが、そこへ狩に出かけた伯爵が帰って来てしまった。ケルビーノはあわてて衣裳部屋に隠れるが、伯爵は夫人を問い詰め、鍵をこじ開けるための道具を取りに、夫人も連れて部屋を出る。様子をうかがっていたスザンナはケルビーノを窓から逃がし(小二重唱〈早く開けて〉)、自分が衣裳部屋へ隠れる。戻って来た夫人はたまりかねてケルビーノが中にいると告げるが、伯爵が〈もう出て来い、不埒な小僧め〉と、扉を開けてみると中からはスザンナが登場。伯爵は夫人に、あらぬ疑いをかけたことを謝る。そこにフィガロが婚礼の準備が整ったことを告げに来る。庭師のアントーニオもやって来て、窓から飛び降りた男の話をするので、フィガロは機転を利かせて、それは自分だと苦しい言い訳をする。さらにそこにマルチェリーナ、バルトロ、バジリオも現れる。マルチェリーナはフィガロに、借金が返せないなら約束通り結婚せよと迫る。7人それぞれの思いが入り乱れる大混乱のアンサンブル(〈私どもの正しいお殿様〉)のうちに幕となる。
第3幕 疑念を抱いている伯爵のもとにやって来たスザンナは密会の約束をするが(二重唱〈ひどいぞ! どうして今まで私を〉)、スザンナが去り際に、すれ違うフィガロへ囁いた言葉を耳した伯爵は再び疑いを強め〈もう訴訟に勝ったと言ったな~主人がため息をついているのに、召使が幸せになってよいものか〉と、戦闘意欲をあらわにする。 伯爵夫人は〈美しい思い出はどこへ〉と、かつての愛情豊かだったころを懐かしむ気持ちを歌う。 マルチェリーナの訴えにより、フィガロは窮地に立たされるが、ひょんなことから実はマルチェリーナとバルトロが両親であることが判明し、六重唱〈いとしい息子よ〉で喜びの対面が歌われる。晴れて、マルチェリーナとバルトロも、フィガロとスザンナの結婚に協力を約束する。 一方、伯爵夫人はスザンナに伯爵宛ての手紙を書かせ、ひと芝居打つことを考えている(手紙の二重唱〈そよ風に寄せる〉)。村娘たちがやって来て伯爵夫人に小花を捧げる。一人の娘の額に伯爵夫人がキスしたところで、アントーニオがやって来て、その娘が女装したケルビーノだとあばく。伯爵がケルビーノを罰しようとすると、バルバリーナが伯爵にキスされたことを暴露するので、伯爵もこの場は見逃さざるを得なくなる。 場面は婚礼の行進曲によってマルチェリーナとバルトロ、スザンナとフィガロの二組の結婚式が始まる。不機嫌だった伯爵だが、スザンナからこっそり手紙を渡され、機嫌を直す。
第4幕 夜の庭で、バルバリーナが〈失くしてしまった〉と、伯爵からスザンナに渡すように命じられたピンを探している。フィガロはピンの話を聞き、スザンナに疑惑を抱く。裏切られたと思い込んだフィガロは復讐のためにバルトロとバジリオに加勢を頼み、〈すっかり用意ができた〉と、女への怒り、世の男たちへの警告を歌う。 互いに衣裳を取り替えた伯爵夫人とスザンナが登場。スザンナが〈とうとううれしい時が来た〉と、秘密の逢い引きへの期待を歌うのを、フィガロは物陰で聴いているが、やがてそれがお芝居だとわかり、わざと夫人の衣裳を着たスザンナを口説きにかかる。事情を知らない伯爵はそれを見て人々を呼び集めるが、真実が明らかとなり、伯爵はみんなの前で夫人に許しを請う。全員のアンサンブルのうちに、「たわけた一日」が終わる。
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