サロメ(ソプラノ):16歳の王女。 ヨカナーン(バリトン):ヘロデとヘロディアスの不義を非難し幽閉される。 ヘロデ(テノール):ユダヤ王でサロメの義父。兄を殺し、その妻ヘロディアスを奪う。 ヘロディアス(メゾ・ソプラノ):サロメの母、元夫の弟ヘロデと結婚。 ナラボート(テノール):サロメに想いを寄せる護衛隊長。
音楽が始まるとすぐに幕が開く。クラリネットの上昇する音型に続いて奏されるのはサロメを表すモチーフ。 月が不気味なほどの輝きを放つ夜。饗宴が催されているヘロデ王の宮殿のテラスで、護衛隊長のナラボートが〈今宵のサロメ王女はたいそうお美しい〉と歌う。彼を慕っている小姓は、サロメをあまり見つめるのは危険だと忠告する。突然、地下の古井戸の底から預言者ヨカナーンの声が響く(〈私より力ある方があとに来られる〉)。 サロメが饗宴の席を離れて出て来る。彼女は、継父ヘロデの情欲に満ちた視線を逃れてきたのだった(〈もう居たくないわ〉)。月を賛美するサロメ。再び響く古井戸からの声が、預言者ヨカナーンだと知ったサロメは、彼と話したいと言い出す。兵士たちは何人たりともあの男と話すことは禁じられていると断るので、サロメは自分に想いを寄せるナラボートに「お前ならできるはず」「もし望みをかなえてくれたら・・」と報酬をちらつかせてせがむ。ナラボートは抗いきれず、ヨカナーンを井戸から出す。 ヨカナーンは、井戸から引きだされた途端に、ヘロデとヘロディアスの不倫の結婚を激しく非難する(〈どこにいるのか、罪業の杯の満ちた者は〉)。それを聞いたサロメは、不気味さを感じながらも、その不思議な魅力の虜となる。自分がヘロディアスの娘であることを告げたサロメは、ヨカナーンから「淫奔の娘」と嫌悪されるが、サロメは彼の白い肉体を賛美する。ヨカナーンは身震いして拒絶し、彼女に顔を布で隠し、頭に灰をまき、荒野にキリストを訪ねて罪の許しを請えと言う。ヨカナーンの拒絶は、サロメの情欲に火をつけることとなる。ヨカナーンの美しさを讃え、お前の髪にさわりたい、お前のくちびるに接吻したい、と叫ぶサロメ。断固として拒絶するヨカナーン。恐怖の念を募らせながら様子を見ていたナラボートは、嫉妬のあまり苦悶し、音楽がクライマックスに達したところで自殺する。それを見ても平然としているサロメに、ヨカナーンは呪いの言葉を残して井戸へと姿を消す。ヨカナーンを表すモチーフが高らかに歌い上げられ、情熱的な盛り上がりがもたらされる。 ヘロデがサロメを探してやって来る(〈サロメはどこじゃ〉)。ナラボートの死体を片付けさせるヘロデは、預言者を捕らえたことに心中不安を感じている。ヘロデの不安定な心境は、オーケストラの響きによって表される。ヘロディアスから、サロメを見つめてはいけないと繰り返し忠告されながらも、ヘロデはサロメに酒や果物を差し出して気を引こうとする。サロメはことごとく拒絶。そこに〈見よ、時は来た〉と、ヨカナーンの声が響く。自分の不倫が責められていると感じたヘロディアスはヨカナーンを黙らせるよう要求する。しかしヘロデは預言者としてのヨカナーンの力を恐れているので、傍らのユダヤ人たちのヨカナーンを引き渡せという要望も拒む。ユダヤ人たちはヨカナーンが真の預言者であるか否かについて論じ始めるが(ユダヤ人の五重唱〈預言者エリアこのかた、誰ひとり神を見たことはない〉)、ナザレ人たちはヨカナーンが起こした奇跡を告げるので狼狽したヘロデは不安を紛らそうとサロメに踊ってくれと頼む。サロメは拒絶するが、ヘロデが望みのものを与えると約束するので踊ることにする。傍らでヘロディアスは踊るなと繰り返すが、サロメは踊り始める。7枚のヴェールを1枚ずつ脱ぎ捨てながら、官能的な踊りを繰り広げる〈7つのヴェールの踊り〉は演出上の見せ場であり、音楽としても聴かせどころ。静かに始まる舞曲は、それまでに用いられたモチーフの組み合わせに、新たに3拍子のワルツも加わって次第に高揚し、最後にサロメが何かに憑かれたように踊り狂うまで突き進む。 踊り終えたサロメが望んだのは「銀の盆にのせたヨカナーンの首」。ヘロデは仰天し、拒絶するが、サロメは「ヨカナーンの首がほしい!」と繰り返すばかり。遂にヘロデは願いを聞き入れ、首切り役人が井戸へ降りて行く。沈黙の後、サロメは切り取られたヨカナーンの首を手に入れる。サロメはヨカナーンへの復讐を遂げた冷酷な喜びを表すが、すぐに、それはヨカナーンの肉体への要求が永遠に叶えられないことへの絶望へと変わっていく。艶麗にして官能的、極限の精神状態を表す長大なモノローグはこの作品の神髄というべき聴きどころ(〈ヨカナーン、お前は自分の口に接吻させようとはしなかった!〉)。やがてヨカナーンの唇に接吻し、勝ち誇ったような陶酔に浸るサロメの姿に恐れを抱いたヘロデは、「あの女を殺せ!」と命令を下す。
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