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Photo: Ayano Tomozawa

2021/01/20(水)Vol.414

インタビュー 菅井円加(ハンブルク・バレエ団)
コロナ禍のもとでの気づきとチャレンジ(2)
2021/01/20(水)
2021年01月20日号
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Photo: Ayano Tomozawa

インタビュー 菅井円加(ハンブルク・バレエ団)
コロナ禍のもとでの気づきとチャレンジ(2)

10分間のパ・ド・ドゥに、いろんな気持ちを込めて、全身全霊で踊ることができました。

ハンブルク・バレエ団のプリンシパルとして活躍する菅井円加へのインタビュー2回目です。コロナ禍の中で進められた芸術監督ジョン・ノイマイヤーとの新作のリハーサル、初演の舞台を通して彼女が得たものとは──?

コロナ禍での新作初演
踊る幸せを噛みしめて

ハンブルク・バレエ団が2020年9月に初演したノイマイヤーの新作『ゴースト・ライト』は、"コロナ時代のバレエ"と銘打たれた作品。この作品の中盤、シューベルトの即興曲に振付けられた美しいパ・ド・ドゥを踊った菅井に、創作時の様子を聞いた。

ーーノイマイヤーのリハーサルは、どのような雰囲気で行われたのですか。

菅井:ジョンとのクリエーションは、これまでほんの数回しか経験していませんが、すごく集中力が求められるし、張り詰めた雰囲気に緊張もします。それが、振付が進むにつれて少しずつ緩んでくる感覚があります。『ゴースト・ライト』のリハーサルでは、ある時、「円加、茶道の時はどういうふうに座るの?」とジョンに尋ねられました。といっても、私は茶道のことはよくわからないので、着物を着ているイメージで正座して、こうお辞儀をしてみると、「お辞儀はいらないけれど、でもそういう感じだね」「わかった、それでいこう」──。そうやって振付を進めていった場面がありました。

ーーシューベルトの即興曲第1番 ハ短調に振付けられたパ・ド・ドゥですね。

菅井:このバレエの中で最も長い、10分間に及ぶ、とても静かな、でもぐっとダイナミックにもなるパ・ド・ドゥです。
このバレエは全編ピアノ一台の生の音楽で踊られます。リハーサルではピアニストの方とよく話し合いをしました。ジョンも、「円加たちはここでたくさんステップが入るから、もっとためてほしい」と間に入ってくれました。そのプロセスの楽しさもありましたが、舞台に立って、あの生のピアノのシンプルな音楽にこんなにも包容力があって、こんなに思い切り踊ることができるんだ!と実感しながら、踊る幸せを噛みしめていました。

ーー作品の全体像が見えてきたのは、舞台上での通し稽古が始まってからだそうですね。

菅井:そこで初めて皆の踊りを見て、自宅待機中に皆それぞれに頑張っていたのだと感じて、まずいちばんにこみ上げてきたのが、感動、でした。ジョンはこんなふうに、それぞれの場面を創り、繋ぐことを構想していたのかと、彼の視点に思いを寄せて作品を見ることもできました。その後9月6日、無事初演を迎えました。これは明確なストーリーのないバレエです。そこにあるのは音とダンサーのコンビネーションであって、観る人によって受け取るものは違ってくると思います。特に、音の美しさ、ダイナミズムが直に伝わってくることが、この作品の大きな魅力になっていると思います。

ーー日本でも、配信された舞台映像を多くの人たちが見て、菅井さんの活躍ぶりに強い印象を受けました。

菅井:嬉しいですね! この夏に帰国した際、いろんな方とお話して、いろんなことを言葉にして、改めて気づくことがありました。正直、昨シーズンは思うような活躍ができず、ともするとモチベーションを維持できなくなりそうになっていたけれど、今は、自分の悩みなんて本当にちっぽけだなと思うようになりました。くよくよしている時間があるならどんどん行こう(笑)!って──。『ゴースト・ライト』の10分間のパ・ド・ドゥも、いろんな気持ちを込めて、全身全霊で、集中して踊ることができた。このバレエは私にとってとても大事な作品になりましたが、多分、カンパニーの皆にとってもそうだと思います。このバレエを通して、語り合うこと、気付き合うことがたくさんありました。いまはまた別のバレエのリハーサルに取り組んでいますが、この気持ちはまたそこで活かせると思うのです。

振付家ノイマイヤーによる「ベートーヴェン・プロジェクトII」のリハーサル
Photo: Kiran West

別のバレエというのは、12月6日に初演が予定されていた『ベートーヴェン・プロジェクトII』。が、新型コロナウイルス感染の再拡大を受けて、公演はキャンセル。あらためて2021年の年明け早々に初演する予定で動いているというハンブルクの菅井からは、「私は三つ目のパートを、アレクサンドル・トルーシュと組んで踊っています。このバレエもいつか、日本の皆さんに観ていただきたいです!」と溌剌とした言葉が届いた。(残念ながらその後、劇場は1月いっぱいクローズと発表され、初演はさらに延期された)。彼女の今後の活躍に、注目したい。

[インタビュー(1)はこちらから]

インタビュー・文 加藤智子 フリーライター

ハンブルク・バレエ団日本公演は中止となりましたが、ロームシアター京都では、『ベートーヴェン・プロジェクト』と『ゴースト・ライト』の映像上映会が行われます。
詳細はこちらから
https://rohmtheatrekyoto.jp/event/61003/

菅井円加(すがいまどか) Madoka Sugai


ハンブルク・バレエ団プリンシパル。17歳のとき、ローザンヌ国際バレエコンクール第1位入賞。ジョン・ノイマイヤーが総監督を務めるナショナル・ユース・バレエを経て、2014年にハンブルク・バレエ団に入団。研修生、コール・ド・バレエ、ソリストを経て、2019年7月、日本人では初めて同バレエ団の最高位であるプリンシパルに昇格した。

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