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Photo: Victor Santiago

2022/06/01(水)Vol.447

〈旬の名歌手シリーズ〉
ソニア・ヨンチェヴァ メール・インタビュー(前編)
2022/06/01(水)
2022年06月01日号
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オペラ

Photo: Victor Santiago

〈旬の名歌手シリーズ〉
ソニア・ヨンチェヴァ メール・インタビュー(前編)

7月の日本初コンサートを前に、ソニア・ヨンチェヴァがメール・インタビューに応えてくれました。歌手としての音楽への向き合い方のほか、幼いころのことなどがとても丁寧に記されていることに、彼女のアーティストとして、また人間としての深さがうかがわれます。前後編2回にわたってのご紹介。まず前編は、今回のデビュー・コンサートのプログラム一曲一曲についてのこと、自身のレパートリーについてのことなどから。

「厳選した曲は、アーティストとしての私を最も引き出してくれるものと思っています」

――日本デビューとなる今回のコンサートのプログラムについてお聞かせください。

ヨンチェヴァ:ヴェルディ、プッチーニ、ベッリーニという素晴らしい作曲家の作品の中から、私の最も好きなアリアを歌います。コンサートは、ヴェルディ作曲『イル・トロヴァトーレ』のレオノーラの最初のアリアとカバレッタ"穏やかな夜...この愛を語るすべもなく"で始まります。オペラの公演ではまだレオノーラを歌ったことはありませんが、コンサートでは何度もこの見事なアリアを歌ってきました。夜想曲のような雰囲気と美しいレガート、そしてカバレッタのパッセージが大好きです。

プッチーニ作品の1曲目は『マノン・レスコー』から"この柔らかなレースの中で"を歌います。マノン・レスコーは今シーズン、ハンブルクでのコンサートでレパートリーに加えたばかりの、私にとって最も新しいプッチーニの役です。

オペラの舞台ではまだ歌ったことのない2曲も歌います。ヴェルディの『運命の力』から、鮮烈で感動的な曲"神よ平和を与えたまえ"、そしてプッチーニの『妖精ヴィッリ』から"もし私がお前たちのように小さな花だったら"。『妖精ヴィッリ』はあまり知られていないオペラで、プッチーニがまだ25歳の時の作品ですが、驚異的に素晴らしい作品です。プッチーニが作曲した初めてのオペラですが、すでに彼がどれほどの天才だったか判ります。

東京で歌うプッチーニは、あと2曲あります。『トスカ』の"歌に生き、恋に生き"、『蝶々夫人』の"ある晴れた日に"。皆さんご存じの通り、この2曲はとても象徴的なアリアですし、トスカは5年前のMETでのロール・デビュー以来、私が最も頻繁に歌った役の一つでもあります。蝶々さんはまだレパートリーになってはいませんが、来シーズン、ウィーン国立歌劇場でロール・デビューします。『蝶々夫人』は20世紀初頭の日本文化へのオマージュとも言えますから、東京でこのアリアを歌えるのは素晴らしいことだと思っています。

ほかには、ベッリーニの『ノルマ』の"清らかな女神"を歌います。このオペラは、最も有名なベルカント作品の一つですが、とにかく音楽の華麗さと、私自身がノルマという役を愛しているので選びました。
今回の曲目の多くは、過去10年の間で私のレパートリーの中心にあった役のアリアから厳選しました。オペラ界を象徴する最高の作曲家たちの作品から選んだ曲は、アーティストとしての私を最も引き出してくれるものと思っています。

2018年ザルツブルク音楽菜『ポッペアの戴冠』より
Photo: Claudio Monteverdi L'incoronazione di Poppea Salzburger Festspiele 2018

――貴方にとってベルカント・オペラとは? ベルカントのレパートリーを歌ううえで特に難しい点は何でしょう? 今後ベルカントのレパートリーは増やしていく予定でしょうか?

ヨンチェヴァ:ベルカント(・オペラの役)を歌うことは、歌手としてまたアーティストとして多くのことをお見せすることができます。レチタティーヴォでは、表現力とより正確な発音が求められます。とりわけベッリーニの延々と続く、美しいレガートには、歌う悦びを感じます。またカバレッタではパッセージを歌わなければなりませんが、アジリタの技巧の見せ場でもあります。また、私にとっては、ベルカントのノルマやイモジェーネといった強い女性を演じることも大きな悦びです。ノルマはとてつもなく強い女性で、作品の間中ずっと、ふり幅の大きい感情を生きています。イモジェーネの方は、長い狂乱の場を歌うわけで、それはオペラの中でも最も素晴らしい瞬間の一つであり、女優としてもとても興味深いシーンです。こうしたベッリーニの役たちに私は惹きつけられます。

ベルカント・オペラのレパートリーは増やしていくつもりです。4月にはドニゼッティの『アンナ・ボレーナ』でロール・デビューする予定でしたが、残念ながら、この2年ずっと予防してきたにもかかわらず新型コロナウイルスに感染してしまい、キャンセルせざるを得ませんでした。でもこの役は、いつかぜひ歌いたいと思っています。

――役を選ぶうえで、大事な点は何でしょうか?

ヨンチェヴァ:最も重要な要素は、そのキャラクターです。興味深い何かがあることが必要です。その役について掘り下げてみたい、そしてその心理を舞台で描いてみたいと思える何かが必要です。私が興味を持てないキャラクターであれば、描くことはできませんから、役をお受けすることはありません。キャラクターに興味を持てれば、次は、その音楽がどのようなものか、どのように書かれているのかを確認します。そして、自分の声、声の長所に適しているとわかれば、その役をお受けします。

ミラノ・スカラ座「海賊」より
Photo: Brescia e Amisano Teatro alla Scala

――今後歌ってみたい役はありますか?

ヨンチェヴァ:探求してみたい役は沢山あります! 今後数年で予定している演目でもいくつか新役はあり、どれも待ちきれません。来シーズンは、ウィーン国立歌劇場でアレヴィ作曲の『ユダヤの女』のラシェル、スカラ座ではジョルダーノ作曲『フェドーラ』でそれぞれロール・デビューしますが、そのわずか数週間後にMETでもフェドーラを演じます。その後、ウィーン国立歌劇場での『蝶々夫人』の蝶々さんは同劇場でのロール・デビューとなります。ほかにも、初めてのワーグナー・オペラの役として『ローエングリン』のエルザや、チャイコフスキー作曲の『スペードの女王』がレパートリーに加わる予定で、それも楽しみにしています。まだ予定には入っていないけれども、いつか歌ってみたいのはサロメ! サロメは本当に面白いキャラクターで、演者として、そして歌手として見せ所がたくさんある役ですね!

――ご自身の声にはどのような特徴があるとお考えでしょうか?

ヨンチェヴァ:自分の声の特徴を説明するのはとても難しいですね。確かに録音したものを聴くことはできますが、ホールでの生の声を聴くのとは決して同じではありません。ですから自分の声がどのように聴こえているか、私自身は正確には判らないのです。説明はほかの方々にお任せしたほうが良いでしょう。私の声に関心を寄せていただける日本の皆さま、ぜひ7月2日に東京文化会館にお越し下さい!

(次号 後編につづく)

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〈オペラ・フェスティバル〉特別企画
旬の名歌手シリーズ2022-I
ソニア・ヨンチェヴァ ソプラノ・コンサート

2022年
7月2日(土) 15:00

会場:東京文化会館

指揮:ナイデン・トドロフ
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

プログラムほか公演の詳細についてはこちらから

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