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Photo: Shoko Matsuhashi

2022/07/06(水)Vol.449

東京バレエ団〈ベジャール・ガラ〉
小林十市インタビュー
2022/07/06(水)
2022年07月06日号
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東京バレエ団

Photo: Shoko Matsuhashi

東京バレエ団〈ベジャール・ガラ〉
小林十市インタビュー

この7月22日から開幕する〈ベジャール・ガラ〉の指導のため来日された小林十市さんにインタビュー。モーリス・ベジャール・バレエ団時代の彼の十八番だった「火の鳥」は、ベジャールの3大傑作のひとつと称され、パルチザンのリーダーとして闘争する火の鳥の姿が描かれます。十市さんが、今回の公演でタイトルロール・デビューを飾る池本祥真と大塚卓に託す思いとは。

「僕がいちばんカッコいいと思っている『火の鳥』を、お届けしたいと考えています」

――今回、東京バレエ団で指導をされている『火の鳥』は、モーリス・ベジャール・バレエ団のダンサーとして、比較的早い時期にタイトルロールを踊られた作品だそうですね。

小林十市:BBL(モーリス・ベジャール・バレエ団)入団2年目、21歳か22歳のときにチャンスをいただきました。まだ若く、内面的に追いついていない状態で役をもらってしまったので、作品の流れを理解し、どう感情を表現するかというよりも、表面的なテクニックにとらわれてばかりだったかと思います。ベジャールさんはダメな場合は何も言わない方でしたから、ああ、僕の踊りではダメなんだなと、なんとなくわかってはいました。数年後に再演された際、タイトルロールのサード・キャストに入ったのですが、このとき、ジル(・ロマン 現モーリス・ベジャール・バレエ団芸術監督)に徹底的に叩き直されました。

リハーサル中の小林十市
Photo: Shoko Matsuhashi

――今回、キャスティングについては何かアドバイスをされましたか。

小林:タイトルロールは池本祥真君、大塚卓君二人で、とお願いしました。池本君は一昨年の『M』VI - シ(死)という大役を務めています。ただ、直線的な動きが多い『M』と違って『火の鳥』はより柔らかな踊り。その部分での切り替えが求められます。大塚君は『M』ではII - ニの第2キャストでしたが、時間の関係でリハーサルも本番も第1キャストのみとなり、彼は踊る機会がなかった。が、一度、宮川新大君が不在の際に「立っているだけでいいから」とI - イチ、II - ニ、III - サン、 VI - シ(死)の踊りに入ってもらったら、まるでずっとリハーサルをしてきたかのようにすべてを覚えていて、ベジャールのスタイルにとてもよく馴染む。彼の中でも違和感がないのだと思います。それで昨年の『中国の不思議な役人』で役人役を踊ってもらいました。両キャストとも稽古を重ねれば、きっといい舞台になるでしょう。

小林十市(左)の指導を受ける大塚卓池本祥真
Photo: Shoko Matsuhashi

――ベジャールさんは火の鳥の踊りについて「最初のソロは20歳の踊り、中盤は40歳、最後は60歳」とおっしゃっていたそうですね。

小林:この役を踊るダンサー皆に言っているようです。そう踊ることで一つの人生が見えるといいよ、と。鳥がリーダーとして現れたときの若々しさの象徴としてのソロ、年齢を重ね、理想に向かって戦う、闘争心と喜びの踊り、それはやがて打ち砕かれるけれど、最後にはフェニックスが現れて復活する──。音楽の流れもそのようになっています。

火の鳥を演じる池本祥真
Photo: Shoko Matsuhashi
フェニックスを演じる柄本弾
Photo: Shoko Matsuhashi

――この作品の最大の魅力はどんなところにあると思われますか。

小林:作品の、というよりもむしろ、踊る人の魅力、ではないでしょうか。とくに求められるのはタイトルロールの技量ですが、ダンサーが何を表現したいのか、どうしてそこにいるのか、ということを理解できていないと、作品そのものの厚みは出せないと思います。ベジャールさんの動きは、その中に意味合いを見出せないと何も醸し出せない。動きを追いかけるだけでは、薄っぺらなものにしか見えない。でも、それを踊るアーティストが100パーセント出せばその力は伝わるはずだし、多くの人を励ますものになると思っています。
ベジャールさんのリハーサルで、ジルの個人指導で受け取ったものを、すべて伝えていきたい。時代やダンサーによっていろんなアプローチがあるとは思うけれど、僕がいちばんカッコいいと思っている『火の鳥』を、お届けしたいと考えています。

――今回の〈ベジャール・ガラ〉では『バクチIII』の上演も予定されています。

小林:この作品の真ん中を踊ったことはないのですが、ベジャールさんのリハーサルも本番もずっと見ていましたから、ベジャールさんがどんなことを注意していたか──たとえば、インド舞踊らしい腕や指の使い方、目線のもっていき方などを、とてもよく覚えている。『バクチIII』は斎藤友佳理さん(東京バレエ団芸術監督)と、以前ジルの指導を受けている木村和夫君(同バレエ団・スタッフ)がリハーサルをしていますが、僕も一度リハーサルに参加して、ダンサーたちにそれを伝えました。
そのとき、柄本弾君、宮川新大君と一緒に男性のソロに取り組んでみたのですが、「わりとできる!」(笑)。もちろん大きなジャンプはできませんが、踊ってみたいなと思いました。現役のときとはまた違った印象もあって、面白く感じたのです。
さらに、昨年指導した『ギリシャの踊り』も上演しますが、いずれも限られた時間の中で出来る限りのことをして、しっかりと仕上げていきたいと思っています。

インタビュー・文:加藤智子(フリーライター)

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東京バレエ団
ベジャール・ガラ

公演日

2022年
7月22日(金) 19:00
7月23日(土) 14:00
7月24日(日) 14:00

会場:東京文化会館(上野)

入場料[税込]

S=¥13,000 A=¥11,000 B=¥9,000
C=¥7,000 D=¥5,000 E=¥3,000
U25シート=¥1,500
*ペア割引あり[S,A,B席]
*親子割引あり[S,A,B席]


予定される演目・出演者

「ギリシャの踊り」 樋口 祐輝(7/22)
柄本 弾(7/23)
池本 祥真(7/24)
「ロミオとジュリエット」(パ・ド・ドゥ) 秋山 瑛、大塚 卓(7/22、23)
足立 真里亜、樋口 祐輝(7/24)
「バクチIII」 上野 水香、柄本 弾(7/22、24)
伝田 陽美、宮川 新大(7/23)
「火の鳥」 火の鳥:池本 祥真(7/22、23)大塚 卓(7/24)
フェニックス:柄本 弾(7/22、23、24)