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金森穣 <br><small>Photo: Shoko Matsuhashi</small>

2023/06/21(水)Vol.472

金森穣インタビュー(前編)
東京バレエ団「かぐや姫」全幕上演に向けて
2023/06/21(水)
2023年06月21日号
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金森穣
Photo: Shoko Matsuhashi

金森穣インタビュー(前編)
東京バレエ団「かぐや姫」全幕上演に向けて

東京バレエ団「かぐや姫」全3幕完結まであと4カ月。第1幕、第2幕を経て、作品の仕上げに取り組む金森穣のインタビューを2回にわたってご紹介します。

ついに完結! 「かぐや姫」全3幕の後に残る問い

新月が半月に、やがて満月へと膨らんでいくように、1幕ごとに披露されてきたグランド・バレエ「かぐや姫」が、今秋いよいよその全容を現す。第1幕の寒村で天真爛漫に育ったかぐや姫が、第2幕では宮廷に送り込まれ、人々の欲と業に翻弄された。第1幕初演からおよそ2年を経て迎える最終章で、道児との初恋は成就するのか。孤独な帝や、欲深い翁の末路は......? リハーサルもたけなわの6月、演出・振付の金森穣に構想を聞いた。

――全幕ドビュッシーの音楽で構成される本作。代表作「月の光」は、第1幕でかぐや姫と道児の美しいパ・ド・ドゥになりましたが、再び二人によって踊られるのですね。

金森:第3幕ではなく、第2幕に追加するものです。終盤、道児がかぐや姫を取り返そうと宮中に忍び込んで捕まりますが、その展開があまりに速すぎたな、と。そこで、久々に再会した二人の場面を挿入することにしました。同じ「月の光」ですが、村では本来のピアノ曲、宮廷ではオーケストラ版を使います。時の流れや心情の変化を見せられたら。全幕を通す通常の上演形式であれば、こうした手直しを加えられるのは再演時となります。本番を見てフィードバックしながら全体を仕上げられるのは、今回のクリエーションならではですね。

かぐや姫と道児のパ・ド・ドゥのリハーサル
Photo: Shoko Matsuhashi

――第1幕の設定は緑がまぶしい夏、第2幕は真っ赤に色づく秋でした。第3幕の季節は冬。戦いや破滅が描かれると聞いています。牧歌的な幕開けからは、想像もつかない展開ですね。

金森:追いつめられたかぐや姫が、意を決して宮廷から逃げ帰る。追い掛ける貴族と村人たちが諍いになり、環境が破壊されます。
この21世紀に新しい何かを生み出すのであれば、現実を違う角度から眺めるような、あるいは自分自身を鏡に映して見つめるような、そんな時間を提供したい。必然的に、現代人にとって切実な問題が盛り込まれます。3年前に台本を書き上げた時には、まさか実際に戦争が起こるとは思ってもみませんでしたが......。

「かぐや姫」第1幕世界初演より(2021年11月)
Photo: Shoko Matsuhashi

――第2幕で浮かび上がった極めて現代的なキーワードに、「孤独」があります。宮中の華やかさとは裏腹に、誰もが欠落感を抱えていました。

金森:最高権力者とは名ばかりの帝。その正室の影姫も、大臣たちを従えてはいるものの、実は幼少時に売られてきた、という裏設定がある。それぞれの孤独が、立場を超えて響き合います。かぐやと(帝の正室)影姫は、互いを照らし合う関係なのです。

「かぐや姫」第2幕世界初演より(2023年4月)
Photos: Shoko Matsuhashi

――原作「竹取物語」のかぐや姫は超然としていて人間らしい感情はありませんが、本作では喜怒哀楽を満喫します。例えば第3幕では、優しかった翁が欲にかられ、金の亡者と化していく姿に絶望させられる。信じていた道児もまた、変わってしまい......。愛を求めながら、決して地上では得られなかった、という切ない物語になるのでしょうか。

金森:愛を求めるというより、「愛とは何か」を、身をもって体験するのです。人は生まれ落ちた瞬間から、母なる存在に愛を注がれて成長します。長じてそれが反転し、誰かに向けられるようになり、この世のあらゆるものが生み出されていく。浴びてきた愛にどう応えるかが、人間の本質なのだと思います。 かぐや姫は月の世界で罪を犯して地球に堕とされた、という解釈がありますよね。地上での愛の体験は彼女にとって、贖罪と言えるのかもしれません。

――罪を償ったかぐや姫はカタストロフィー(破局)を経て、全てを忘れてしまうのですね。

金森:羽衣をまとった瞬間に記憶が失われ、月へ帰っていった、と原作には書かれています。金森版ではその忘却が、周囲にも及ぶ。かぐや姫を巡って争った人々もまた、全てを忘れてしまうのです。何もかもが夢であったかのように。そこに、忘却の負の側面が出てきます。どれだけつらい思いをしても忘れてしまうから、過ちが繰り返される。それが人類の歴史であり、戦争は愚かさの最たる例でしょう。

――月の使者がもたらすものは、安易な救いではない。とすると結局、かぐや姫は地球に何を残していったのでしょうか。

金森:「かぐや姫」というこの作品を通して、ご覧くださる皆さんの中に何かを残すために、我々は動いてきました。物語は舞台上で完結するのではなく、一人一人の内部で続いていく......そんな問いを残せたらと願っています。(後編に続く)

インタビュー・文 齊藤 希史子(バレエライター)

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東京バレエ団 創立60周年記念シリーズ1
「かぐや姫」全3幕 世界初演
演出振付:金森穣

東京公演

10月20日(金)19:00
10月21日(土)14:00
10月22日(日)14:00

会場:東京文化会館(上野)
*音楽は特別録音の音源を使用します。

予定される配役

かぐや姫: 秋山 瑛(10/20、10/22)
足立 真里亜(10/21)
道児: 柄本 弾(10/20、10/22)
秋元 康臣(10/21)
翁: 木村 和夫
影姫: 沖 香菜子(10/20、10/22)
金子 仁美(10/21)
帝: 大塚 卓(10/20、10/22)
池本 祥真(10/21)

入場料[東京公演・税込]

S=¥14,000 A=¥12,000 B=¥9,000
C=¥7,000 D=¥5,000 E=¥3,000
U25シート=¥1,500
*文化庁 劇場・音楽堂等の子供鑑賞体験支援事業
★18歳以下限定・子ども無料招待 詳細はこちら
*ペア割引[S,A,B席]あり
*親子割引[S,A,B席]あり

新潟公演

12月2日(土)16:00
12月3日(日)14:00

会場:りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館〈劇場〉

予定される配役

かぐや姫:秋山 瑛
道児:柄本 弾
翁:木村 和夫
影姫:沖 香菜子
帝:大塚 卓

入場料[新潟公演・税込]

SS=¥12,000 S=¥8,500 A=¥5,500
U25シート=¥2,000

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