10月の全幕上演に向けて準備が進む「かぐや姫」。第1幕から表題役を演じる秋山瑛自身、およそ3年という時間のなかで得てきたものも、その舞台に反映されることとなるはず。"完結"に向けての今の心境が語られたインタビューをご紹介!
プリンシパルに昇進して1年。進境著しい秋山瑛が、金森穣版「かぐや姫」の表題役を、オリジナルキャストとして演じる。この世ならざる存在という難役に、どんな思いで臨んでいるのだろうか。
――グランドバレエを一から作るのは、むろん初めてですね。しかも上演は1幕ずつ3年がかりという、特殊なクリエーションでした。
秋山:古典なら物語の結末が分かっていて、その着地点に向けて役を作っていきます。でも今回は今に至っても、終わりが分からない(笑)。台本はあっても、私たちにはあえて知らされないまま、創作をしているのです。
先が見えない状態での役作りに不安はありますが、逆に分からないからこそ、現実の人生のようにリアルな感情をもって、刹那を生きられるのかもしれません。秋の全幕上演時に、初めて全体を把握して舞台に立つことになりますが、私の中には第1幕と第2幕を「分からない」状態で演じた感覚も残っている。その両方がある本番は全く新しい経験であり、この先も恐らくないでしょう。貴重な機会だと、つくづく感じています。
――台本を知らないままのリハーサルは、どのように進められるのでしょう。
秋山:ここはこういう場面でかぐや姫はこんな気持ち、といった具体的なご説明は、ほぼありません。表現に関しては、トライ・アンド・エラー。動いてみて穣さんのイメージと懸け離れていれば修正される、その繰り返しです。
もちろん手も足も出ない時は、お聞きすればヒントをいただけます。例えば、第2幕で泣く場面。「かぐやは大人ぶっているけれど、子供の部分も残っているんだよ」とお言葉をいただき、腑に落ちました。そのように穣さんに導かれながら、手探りで進めています。
振付については、どの場面も驚くほどに音楽と動きが一体ですね。そして、手はここを通るとか、足はこう踏み出してから反対へ進むとか、細かい部分もゆるがせしません。ディテールを積み重ねたところに穣さんらしさがにじみますし、振りが体に入って音と一つになった時に、人物像や場面の意味が浮かび上がります。
穣さんはもちろん、(助手の井関)佐和子さんが実際に動いて見せてくださるのが、すごく大きい。目線や首の角度まで、食い入るように見ています。最初の頃と比べると、そうした「穣さん語」が、少しずつ分かってきたような......。体がなじんだのか目が慣れたのか、再現のコツがつかめてきました。1幕ずつ、リハーサルに時間をかけてきたからこそだと思います。
2023年4月初演第2幕の舞台より
Photo: Shoko Matsuhashi
――原作「竹取物語」と金森版では、かぐや姫のキャラクターがだいぶ異なりますね。
秋山:金森版を演じていると、ひたすら純粋で素直な人だと感じます。生き生きとして感受性が鋭く、人間らしい喜怒哀楽を満喫している。だからこそ、みんなが惹かれるのではないでしょうか。外見の美しさだけではなく中身の純粋さを意識して、全幕を踊りたい。
かぐや姫が人間的で共感できるだけに、結末が気になって仕方がありません。一体、彼女はどうなるのでしょう。稽古場では、いろんな噂が飛び交っています。「戦いが起きて、みんな死んじゃうらしい」とか、「それを生き返らせて、姫は月へ帰るんだ」とか。そして私は改めて、かぐや姫はなぜ地球に来たんだろう、という疑問に立ち返ります。月は死と再生のシンボルですが、かぐや姫が通り過ぎて全てがゼロに戻る......それが作品のテーマなのでしょうか。
――秋山さんの最近の舞台には、月のような引力を感じます。表現力をどう磨いてきたのですか。
秋山:ジゼルを初役で演じた2021年は、迷いに迷いました。初めての「死ぬ役」だったのです。その後、ジュリエット、ニキヤ(「ラ・バヤデール」)、そしてまたジゼル。舞台上でキャラクターとして生き切る経験を通して、さまざまなことを想像するようになりました。人生や命について考えた時間が、表現に反映されているのかもしれません。
かぐや姫もまた、地球での時間を一人の女性として生き抜けたら、と願っています。
インタビュー・文 齊藤 希史子(バレエライター)
10月20日(金)19:00
10月21日(土)14:00
10月22日(日)14:00
会場:東京文化会館(上野)
*音楽は特別録音の音源を使用します。
かぐや姫: | 秋山 瑛(10/20、10/22) 足立 真里亜(10/21) |
道児: | 柄本 弾(10/20、10/22) 秋元 康臣(10/21) |
翁: | 木村 和夫 |
影姫: | 沖 香菜子(10/20、10/22) 金子 仁美(10/21) |
帝: | 大塚 卓(10/20、10/22) 池本 祥真(10/21) |
S=¥14,000 A=¥12,000 B=¥9,000
C=¥7,000 D=¥5,000 E=¥3,000
U25シート=¥1,500
*文化庁 劇場・音楽堂等の子供鑑賞体験支援事業
★18歳以下限定・子ども無料招待 詳細はこちら
*ペア割引[S,A,B席]あり
*親子割引[S,A,B席]あり
12月2日(土)16:00
12月3日(日)14:00
会場:りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館〈劇場〉
かぐや姫:秋山 瑛
道児:柄本 弾
翁:木村 和夫
影姫:沖 香菜子
帝:大塚 卓
SS=¥12,000 S=¥8,500 A=¥5,500
U25シート=¥2,000