10月に全幕世界初演を迎える金森穣振付『かぐや姫』。
原作にはない「かぐや姫」の影姫役は、金森演出のカギを握る存在ともいえるでしょう。第2幕、そして来たる全幕上演で、沖香菜子はどのような影姫を観せてくれようとしているのか......。
「第2幕で初登場した帝の正室・影姫。演出の金森穣が「かぐや姫の『鏡』のような存在」として創出したこの役に挑んだのは、看板プリンシパルの沖香菜子だ。辺りを払う威厳と目力で従来の可憐なイメージを打ち破り、第2幕単独上演成功の立役者となった。「ライバル」の枠には収まりきらない難役を、全幕を通してどう演じるのだろうか。
――影姫は、宮廷を牛耳る実力者。原作「竹取物語」には登場しないキャラクターですね。
沖:最初はなかなか役柄をつかめませんでした。穣さんに優しすぎると言われたので、質問を重ねて軌道を修正していきました。
お聞きしたのは「影姫に帝への愛はあるのか」。政略だけの関係かとも考えたのですが、答えは「愛はある」でした。その時「ちゃんと感情がある人で、だからこそ、愛されない現実に傷ついている。でもその弱さを誰にも見せたくなくて、強さの鎧で心を覆っているんだ」と、納得できたのです。かぐや姫との位置関係は「真逆」ですが、それは底でつながっているということ。単なるライバルではなく、深い部分で共鳴し合う......その点を、いちばん大切に演じています。
影姫(沖香菜子) とかぐや姫(秋山瑛)「かぐや姫」第2幕より
Photo: Shoko Matsuhashi
――第2幕は、そんな影姫の後ろ姿から始まりました。
沖:第1幕をご覧になり、続きを楽しみにしていらした方もいれば、初見のお客様もいらっしゃる。そんな中で考えたのは、振り向いた瞬間に「あ、これは主役のかぐや姫ではない」と、どなたにも分かるようなオーラを出したい、ということでした。大臣たちを従えているものの慕われてはおらず、そうした自分の危うい立場も、全て承知している。そんな寂しい女性として、舞台に存在したい、と。影姫は物語を牽引するというよりも、存在すること自体に意味がある役だと感じています。
――ただ歩く姿からも、孤独が伝わりました。ヒロインと対峙する役は初めてだったそうですね。
沖:もともと「眠れる森の美女」のカラボス(オーロラ姫を呪う悪の精)を演じてみたいと思うほど、悪役に憧れていたのです。女性には強烈なキャラクターの役が少ないこともあって、影姫をいただけた時は本当にうれしかった。昨夏の「ドン・キホーテ」を降板して以来、舞台を離れていましたが、この役を踊りたくて復帰を決めました。
やはり筋力が落ちていて、リハーサルの当初は思うように体が動かず、焦ったのは事実です。立っていられずにふらついてしまい、穣さんが「ゆっくり戻せばいいよ」と気遣ってくださるほど。けれども、オフバランスも多く全身の筋肉を使うせいでしょうか、「1週間で体が元に戻った」と、周囲が驚いていました。影姫が格好の筋力トレーナーになってくれたようです(笑)。
「かぐや姫」第2幕より
Photo: Shoko Matsuhashi
――これまで名だたる巨匠の振付を受け、日本物としてはベジャールの「ザ・カブキ」も経験されています。金森さん独特の動きは、苦もなく体に馴染みましたか。
沖:「ザ・カブキ」には、内股や摺り足など日本舞踊そのものの所作もありますが、金森さんの動きは洋を基本に和のニュアンスを加えている、というのでしょうか。振りを作っては更新、また更新、という過程をたどるので、初めは頭がパンクしそうでした。動いているうちに、しっくり収まっていく感じです。
重い打掛の扱いにも慣れているつもりでしたが、今回は薄物。袖や裾がすぐに翻ってしまい、顔に当たったりきれいに見えなかったり。これまでにない難しさの連続です。
「かぐや姫」第2幕より
Photo: Shoko Matsuhashi
――結末を知らされないまま、リハーサルが進んでいるそうですね。影姫の行く末を、観客も案じています。
沖:バレエ団の大切なレパートリーとして長く伝えられていく作品の中で初役を演じられるのは、この上なく光栄なことです。影姫を魅力的なキャラクターとして残したいと、今はそれだけを考えています。でもたぶん最後まで、帝には振り向いてもらえないんだろうなぁ(笑)。
インタビュー・文 齊藤 希史子(バレエライター)
10月20日(金)19:00
10月21日(土)14:00
10月22日(日)14:00
会場:東京文化会館(上野)
*音楽は特別録音の音源を使用します。
かぐや姫: | 秋山 瑛(10/20、10/22) 足立 真里亜(10/21) |
道児: | 柄本 弾(10/20、10/22) 秋元 康臣(10/21) |
翁: | 木村 和夫 |
影姫: | 沖 香菜子(10/20、10/22) 金子 仁美(10/21) |
帝: | 大塚 卓(10/20、10/22) 池本 祥真(10/21) |
S=¥14,000 A=¥12,000 B=¥9,000
C=¥7,000 D=¥5,000 E=¥3,000
U25シート=¥1,500
*文化庁 劇場・音楽堂等の子供鑑賞体験支援事業
★18歳以下限定・子ども無料招待 詳細はこちら
*ペア割引[S,A,B席]あり
*親子割引[S,A,B席]あり
12月2日(土)16:00
12月3日(日)14:00
会場:りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館〈劇場〉
かぐや姫:秋山 瑛
道児:柄本 弾
翁:木村 和夫
影姫:沖 香菜子
帝:大塚 卓
SS=¥12,000 S=¥8,500 A=¥5,500
U25シート=¥2,000