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Photo: Algirdas Bakas

2024/01/24(水)Vol.486

〈旬の名歌手シリーズ2024〉
アスミク・グリゴリアン
2024/01/24(水)
2024年01月24日号
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オペラ

Photo: Algirdas Bakas

〈旬の名歌手シリーズ2024〉
アスミク・グリゴリアン

〈旬の名歌手シリーズ2024〉の第3弾として登場するアスミク・グリゴリアンは、いま世界で最も注目されている歌手のひとり。その才能を世界に知らしめることとなったのは2018年ザルツブルク音楽祭の『サロメ』ですが、それよりも前から、グリゴリアンに惹かれていた音楽評論家の石戸谷結子さんに、聴くたびに魅了されてきたグリゴリアンの多彩な魅力を紹介していただきます。

天性の多彩な魅力の持ち主グリゴリアンは、さまざまな女性に変身できる!

ある晴れた日に、世界のオペラ界に衝撃が走った。アスミク・グリゴリアンというスター歌手が"出現"したのだ。すらりとした体型にハリウッド・スターのような美貌。その声は細部まで良くコントロールされ、遠くまでよく透る。高音も美しく艶やかで、ドラマティックな場面でも決してその美しい響きは変わらない。数年前までほぼ無名だったグリゴリアンだが、2017年にザルツブルグ音楽祭にデビューすると、聴衆も批評家も騒然となった。それからは同音楽祭に毎年のように登場して、いまでは"ザルツブルクの女王"といわれるプリマ・ドンナに成長した。

Photo: Jan Frankl

グリゴリアンを初めて聴いたのは、2017年のザルツブルク音楽祭。ウラディーミル・ユロフスキの指揮による『ヴォツェック』だった。マリーを歌った彼女は、声量も充分で歌の巧さにも感心した。翌年はいまでは伝説となった、ロメオ・カステルッチ演出の『サロメ』。これまでのサロメと違ってドラマティックな場面ものびやかな声で歌い、自我の強い自立した強靱なサロメ像を打ち立てた。次は2022年の《プッチーニ三部作》。ここで彼女の幅広い実力が発揮された。『ジャンニ・スキッキ』では「私のお父さん」を切々と歌いあげ、『外套』では、自分の生き方に疑問を持ち新しい恋に命を賭ける魅力的な女性を演じ、『修道女アンジェリカ』では、唯一の生きる糧だった子供の死を知らされ、自殺する不幸な女性という、声質も表現も全く異なる3人を一晩で演じたのだ。カーテンコールに独りで登場した彼女は、ブラボーの嵐に包まれた。

Photo: Olivia Kahler

2023年の『マクベス』では、子供を産めない不幸から復讐の鬼へと変貌していくマクベス夫人の心の動きを見事に演じた。グリゴリアンは表現力も豊かだが、演技力にも秀でており、さまざまな女性に変身できるのだ。
キャリアの初期の頃は『椿姫』や『ラ・ボエーム』なども歌っていたが、しだいに個性的な役柄に移っていく。サロメ、クリソテミス、イェヌーファ、ルサルカ、マノン・レスコー、リーザなど。バイロイト音楽祭では『さまよえるオランダ人』のゼンタも歌っている。ソプラノ歌手だった母の得意役だったという『蝶々夫人』も各地で歌って絶賛されている。いずれもドラマティックな表現力が要求される役柄が多いのだが、彼女の得意技は、声を張らずに美しい響きを保ちつつ、強烈で深い感情表現ができること。名歌手だった両親から受けついだ、才能と特別な声楽テクニックを身に付けているのかも知れない。父の故ゲガム・グリゴリアンはマリインスキー・オペラのスター・テノールで、CD録音や映像も多く、来日も重ねている。

Photo: Rokas Baltakys

今回のコンサートでは、最近の得意演目がずらり並んでいる。必聴の『ルサルカ』は両日ともに入っているが、『サロメ』は聴き逃せない。しかし『蝶々夫人』のアリアや『トゥーランドット』も聴いてみたい。Aプロにしようか、Bプロにしようか悩むところだ。さらに言えば、今年の夏のザルツブルク音楽祭で、彼女はプロコフィエフの『賭博者』に出演し、ポリーナを歌うことになっている。

石戸谷結子(音楽評論家)

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NBS旬の名歌手シリーズ2024-Ⅲ
アスミク・グリゴリアン ソプラノ・コンサート

公演日

Aプロ:2024年5月15日(水) 19:00
Bプロ:2024年5月17日(金) 19:00

会場:東京文化会館

指揮:カレン・ドゥルガリャン
演奏:東京フィルハーモニー交響楽団

入場料[税込]

S=¥18,000 A=¥15,000 B=¥13,000
C=¥11,000 D=¥8,000
U25シート=¥4,000
*ペア割引[S,A,B席]

※プログラムについてはコチラをご覧ください。
https://www.nbs.or.jp/stages/2024/singer/03.html