先日METライブビューイングの『ホフマン物語』が公開され、ダークな面もある主人公を好演したベルナイムに感激し、年明けの来日への期待を高めた方も多いはず。
ニューヨークのあとはすぐにロサンゼルス、その後はウィーン、パリへと、世界中を飛び回っているベルナイムですが、移動時間の合間をぬって日本での初コンサートへの想いを聞きました。一つひとつの質問に丁寧に答えてくれたインタビューを2回にわたってご紹介します。まず前編では、選曲やコンサートに対する考え方や自身の声の特性について、後編ではフランス・オペラについて、声を保つための秘訣などを語るなかに、たしかな考えをもって音楽や聴衆に向かっていることがうかがわれます。
*このインタビューはロサンゼルスでのコンサートの前にオンラインにて実施したものです。
――ファン待望、日本初のソロ・コンサートです。今回の選曲の意図についてお話いただけますか?
ベルナイム:私にとって重要なのは、毎回同じプログラムにしないということです。東京では2回のコンサートを異なる会場で歌います。違う曲を入れることで、毎回のコンサートが「特別なものだ」とお客さまに感じていただきたいのです。
今はロサンゼルスにいますが、ウィーン、プラハ、パリでも、すべてのコンサートは絵画のようなものです。それぞれが刺激的で、独自のもので、同じ繰り返しとならないようにしています。
なぜ、チャイコフスキー、ヴェルディ、プッチーニ、フランス・オペラからのアリアなのか? それは私にとってこれらが、「ロマンティックで叙情的なレパートリー」だからです。私の声にあっていて、私の声で物語をお伝えすることができるからです。私は舞台でアリアを歌う時、観客を"叙情的なロマンティシズム"への旅へと誘うことを目指しています。今回のコンサートで歌う、チャイコフスキーの『エフゲニー・オネーギン』やプッチーニの『トスカ』のアリア、その他の作品にしても、どれもが大変にロマンティックで叙情的です。ほとんど英雄的ともいえます。それらのアリアは、若い男性や若きヒーローたちが自分たちの物語を伝えているのです。
――声で物語を伝えること、そして全てのコンサートを、それぞれが異なる特別な体験として観客に提供しようとしているのですね!
ベルナイム:若さの特性とはなんでしょうか? それは、希望であり、愛であり、また情熱が若さの特性でしょう。それに私自身の個性を加え、若さの表象として観客に伝えようとしています。
フランス・オペラのレパートリーでも同じです。ロメオ(『ロメオとジュリエット』)、デ・グリュー(『マノン』)、ホフマン(『ホフマン物語』)、ウェルテル(『ウェルテル』)、『カルメン』のホセもそうでしょう、『真珠採り』も同じで、性格は異なりますが彼らは皆、若く、ロマンティックで、叙情的な「声の特質」を持っています。毎回のコンサートとは、まるでパズルのように変化していくものです。もし同じだったら、もはや「特別」にはなりません。すべてのコンサートは絵画のように特別であるべきです。
『マノン』のデ・グリュー役を歌うベルナイム(ボルドー国立歌劇場)
Photo: Eric Bouloumié
――ご自身のレパートリーを厳選されていると思います。取り組む作品を選ぶ基準を教えてください。
ベルナイム:それはとても興味深いポイントです。例えば、歌手は25歳のときには自分の声がある方向性に発展すると思っています。ソプラノでも、30歳になったら声が成長したからこれを歌おう、35歳になったらこれを歌おう、と思うわけです。でも声というのは、みな違うものなのです。
私について申し上げると、若いころはもっとドイツ系のレパートリーを歌い、もしかしたら少しだけフランスやイタリアのオペラも歌うものだと思っていました。でも私は最終的に、ロマンティックでリリカルなレパートリーを中心にすることにしました。なぜなら、ロマンティックな役柄において、自分が何かをもたらすことができ、また特別な方法で歌うことができると思ったからです。これは私にとってとても重要なことでした。私の声はロマンティックな物語を伝えるのに適するように成長してきたと思います。同時に、『ホフマン物語』のホフマンのような劇的な役柄もできるようになってきました。
Photo: Christoph Köstlin
――METライブビューイングでのホフマンもとても素晴らしかったです。
ベルナイム:ホフマンはとても長大で、とても難しく、ある意味、重い役柄です。でも一度にいくつもの新しい役は歌わないと決めたのです。ホフマンを歌うには、1~2年ほど、安心して歌えるまで十分に時間をかけて準備しました。このあと、『ファウストの劫罰』を、そしておそらく『カルメン』、『トスカ』を、その次に『仮面舞踏会』を歌います。声にリスクをとらせたくありません。新しい重い役柄を、あまりに早く歌うのは声にとって危険です。私は自分の声を『愛の妙薬』のネモリーノ役や、『エフゲニー・オネーギン』のレンスキー役、『ロメオとジュリエット』のロメオ役をいつも歌える状態に保っておきたいのです。私が『ローエングリン』や『カルメン』、あるいはもっと重い役をキャリアで早く歌いすぎたら、『愛の妙薬』に戻ってくることはできなくなります。『愛の妙薬』のネモリーノは私にとってとても大切な役柄です。
また一般的にいって、フランス・オペラのレパートリーは私の声を若々しく保つのを助けてくれていると思います。デ・グリュー、ウェルテル、ロメオ、そして重い役柄にもかかわらずホフマンも、私の声をとても明るく、とても若い音色に保ってくれます。たとえば重厚な、年長の、成熟した、暗い音色になる代わりにです。私にとって、声質を明るく保つのは大切なことです。
[後編に続く]
Photo: Julia Wesely
2025年
1月14日(火)19:00 東京文化会館(上野)
1月19日(日)15:00 サントリーホール(六本木)
指揮:マルク・ルロワ゠カラタユー
演奏:東京フィルハーモニー交響楽団
S=¥18,000 A=¥16,000 B=¥14,000
C=¥12,000 D=¥9,000 P=¥6,000(1/19サントリーホールのみ)
U25シート=¥3,000
*ペア割引[S,A,B席]
※プログラムについてはコチラをご覧ください。
https://www.nbs.or.jp/stages/2025/tenor-concert/