このときを聴き逃せない!という歌手、プログラムでおくるNBSの〈名歌手シリーズ〉。2025年3月に登場するのはイタリア人テノール、ヴィットリオ・グリゴーロ。天性の情熱的な声で聴く者を圧倒するスター・テノールです。さらに輝きを増して日本のファンの前に立とうとしているグリゴーロが、今回の来日コンサートについて、そして歌手としての信条などについて、メール・インタビューに答えてくれました。
今回のコンサートでは、新境地といえるプログラムとなっています。選曲について教えていただけますか?
まず、「プッチーニ没後100周年」を記念した、プッチーニに捧げるプログラムであり、また、最近録音したヴェリズモ・オペラのアリアを歌うことになると思います。でも、サプライズであってほしい!! 正直に言うと、私はコンサートとは、ユニークな旅であり、演奏する曲に影響されることなく、聴きたいアーティストに身を委ねるべきだと思っています。最も重要なのは、「私」と「聴衆」が存在するということです。
役柄をいつもフレッシュに歌い、演じ続けられる秘訣は何でしょうか。役を歌い続けるなかで、あなたのなかで役柄は発展したり変化したりしますか?
劇場の魔法こそ、すべての秘密だと思います。ルーティーンというものはありません(少なくとも私にとっては!)。延々と同じことを繰り返したら非難されるでしょう。でもいつも全く初めてと感じられるのです。
そして楽譜には常に何らかの秘密が隠されていますが、その楽譜を変化させるのは人生そのものでもあります。時が私たちの身体を変えるように、たとえ短い時間の後に同じ曲を歌っても、声は変わります。
すべての音符は唯一無二で、同じことを再現することはできないのです!
役柄も時間とともに成熟します。それは演じる者一人ひとりがその役柄に自分の人生を投影することができるから。とても幸せなことです。他と同じではあり得ない、ユニークなものにできるのですから!
私たちアーティストはみなそれぞれ個性が異なりますが、私たちに共通しているものもあります。オペラ歌手にとって決して欠かしてはならない「生命力の光」です。弦楽器は細い弦によってあらゆる感情を表現しますが、私たち歌手は"魂の振動"を生み出すために「何か」を使うことはないのです。
私たちが、人生のさまざまな時期に役を演じることは、常にお金に換えられない挑戦であり、感情を伝え、観客の心を揺さぶり届けようとする、もう一人の「私たち」を知ることに繋がっているのです。
Photo: Ieva Ukanyte
コンサートという場において、アリアだけでオペラの役柄を表現することをどのようにとらえていらっしゃるのでしょう?
コンサートでアリアを歌うのは唯一無二の瞬間といえます。「私」と「聴衆」の間のとても親密な瞬間をつくる、特別で深遠なものです。自分の全存在を通して登場人物の性格だけでなく、私自身の役柄の解釈や、私の見解を聴衆に伝えようとしています。独自の感情や経験を持たずに、単なる音符と感覚的な説明によるパフォーマンスに終わるのではあまりに単純すぎます。
オペラの上演では、どんなに歌手の感情的および個人的な側面が共有されていたとしても、ドラマトゥルギーを尊重し、物語に沿った感情の流れを反映する必要があります。ですが、コンサートでは自分のすべてを聴衆と共有できるのです。コンサートにいらしたお客さまはその瞬間を、舞台で生きている歌手の記憶として残すことになると思っています。観客はコンサートで歌い表現するアーティストが大好きです。アーティストこそ、常に中核なのです。
『ランメルモールのルチア』のエドガルド役を歌うグリゴーロ(ミラノ・スカラ座)
Photo: Brescia_Amisano
これまでグリゴーロさんはロマンティックなレパートリーで高い評価を得てきました。ロマンティックなレパートリーと、ヴェリズモのレパートリーの違いは何でしょうか?
正直に言いますと、何年か前はまだ自分の声に合わないと感じていたヴェリズモ・オペラのレパートリーに挑戦したくはありませんでした。今ではヴェリズモの価値を認めて、私の芸術に徐々に取り入れています。私の新しいヴェリズモのアルバムは素晴らしいチームに支えられて、わずか15日間でスタジオで録音し、夢を実現したのですよ! これこそが最大の挑戦でした。
どんな決断をするときも、常に私に付き添ってくれた生涯の師であるダニロ・リゴーザ先生に感謝するしかありません。歌手という職業は、もっと色々歌いたいという誘惑、肉体の未熟さが、声を失うという後戻りできないミスに繋がることが多いので、正しいアドバイスをくれる師はとても重要なのです。幸運なことに若い頃からキャリアの過程でベルカントの柔らかさを維持すること、その正しき決断をする折々に、師に付き添ってもらいました。そのおかげでタイプの違う多くのレパートリーを維持することができています。軽やかで叙情的な声質の役から、より劇的な声質が求められる役まで歌いながら、私はベルカントの柔らかさにいつでも戻れるのです...... これは実は、決して簡単なことではありません。
私にはロマンティックなレパートリーと、ヴェリズモの両方があり、それらは私の音楽的な魂の2つの側面です。この2つの側面は決して分離することはなく、常に私の声の色、音、色彩、情熱を特徴づけるものだと思っています。
Photo: Shoko Matsuhashi
キャリアを重ねられ、その絶頂期を迎えていると思いますが、他の芸術分野に対する興味は、あなたに影響を与えていますか?
キャリアには頂点や到達点というものはなく、常に新しいステップへと導いてくれる進化があると信じています。その道筋は未知かもしれませんが、目標の達成はもっと知りたい、さらに前進したいと促されることなのです。私が思うキャリアのピークとは、無音で、何も生み出さない状態です。それは「キャリアをストップした」とよく言われ、エンジンがスローダウンしたり、停止したりすること。でもエンジン自体が無くなるわけではありません。それは一度立ち止まり、良くも悪くもやってきたことを振り返り、生み出されたものをもう一度聴くことによって、すべての経験を追体験できる美しい段階です。速度をおとしても、そのことからも学びことができるのです。
でも、私自身はまだ汗をかき、油によごれて、非常にエネルギッシュなドライバーとしてレースをしている状態ですよ!!
私は好奇心のかたまりで、あらゆることに興味を持ち、一つのことに完全に固執することはありませんでした。常に人生経験や、自分を取り巻くすべてのものからインスピレーションを受けてきました。あらゆる人間的な、また物理的な限界を探ってきました。飛行機、ヘリコプター、バイク、ボートや車など、高速スピードのエンジンを持つ機械に情熱を注ぐと同時に、自然や絵画、彫刻、デザイン、そしてそれ自体が音楽である視覚芸術など、自然に関連するすべてのものを愛しており、敬意を持っています。田舎の自然の真っ只中で時間を過ごすことは、常に再生力をもたらし、貴重な心の調和を生み出します。
一言で言うと、さまざまな芸術や活動に対する興味がもたらした経験は、歌や声、情熱や愛、忍耐など、努力と献身の産物である人生を生きるように導いてくれたものばかりなのです。
私の将来の一番の願いは、魂の光を分かちあえる仲間をもっと増やし、一人でも多くの人のために音楽を創りたいということです。夢は大きなアレーナを観客でいっぱいに満たし歌うことです!
今回のコンサートは、レオナルド・シーニさんが指揮者を務められます。
彼とは実は初めての共演で楽しみにしています。いくつかの録音を聴いて、とても興奮しましたよ。今回のコンサートでは、私の声とレオナルド・シーニの指揮、東京フィルハーモニー交響楽団によって、魔法のようなユニークで二度とない瞬間を生み出すチームが必ず生まれると信じています!
日本のファンへのメッセージをお願いします。
素晴らしい音楽とベルカントへの情熱を分かち合う観客の皆さんとともに私の心を打ちふるわせる東京の街を訪れるのが待ちきれません。
(メール・インタビュー:2024年11月に実施)
2015年イタリアにて誕生したウォッチブランドUNIMATIC(ウニマティック)。
グリゴーロは2024年11月より、公式アンバサダーをつとめています。
UNIMATICは、グリゴーロの体現する優美なイタリアンスタイルと、更なる高みを飽くことなく追求するその姿勢が、まさにウニマティックが追い求めるものであると、今回の起用にいたった理由を発表しています。
2025年
3月15日(土)15:00 東京文化会館(上野)
指揮:レオナルド・シーニ
演奏:東京フィルハーモニー交響楽団
S=¥24,000 A=¥21,000 B=¥18,000
C=¥13,000 D=¥8,000 U25シート=¥4,000
*ペア割引[S,A,B席]
*グリゴーロシート=¥100,000
※プログラムについてはコチラをご覧ください。
https://www.nbs.or.jp/stages/2025/singer-02/