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Photo: Kiyonori Hasegawa

2025/01/22(水)Vol.510

〈旬の名歌手シリーズ-XII〉
ヴィットリオ・グリゴーロ 圧倒的な「歌の力」
2025/01/22(水)
2025年01月22日号
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オペラ

Photo: Kiyonori Hasegawa

〈旬の名歌手シリーズ-XII〉
ヴィットリオ・グリゴーロ 圧倒的な「歌の力」

情熱と爆発的なエネルギーで美声を聴かせるヴィットリオ・グリゴーロのソロ・コンサートは3月にただ1回の開催! 今回のプログラムに沿って、グリゴーロの魅力を音楽評論家の室田尚子さんに紹介していただきます。

グリゴーロの歌声こそ、そんな宝物のような時間を私たちにもたらしてくれる

圧倒的な「歌の力」――ヴィットリオ・グリゴーロの舞台に接する時、いつも浮かぶのはこの言葉だ。ミラノ・スカラ座、メトロポリタン歌劇場、ウィーン国立歌劇場、英国ロイヤル・オペラハウスなど世界の名だたる歌劇場で活躍。2023年にはローマ歌劇場来日公演で『トスカ』のカヴァラドッシを歌い、またソロ・コンサートも開催していずれも大喝采を浴びた。特にソロ・コンサートでは、舞台上にグリゴーロが登場した途端、ホールの照明が一段明るくなり、温度が数度上昇したかのような感覚にとらわれたのを覚えている。そして彼が第一声を発するやいなや、その圧倒的な「歌の力」に体ごと絡め取られていく――。そんな現代を代表する「プリモ・ウォーモ」であるグリゴーロが、2年ぶりに日本公演を行う。またあの「歌の力」を全身で浴びる時間を体験することができると思うと、今から体が震えてくるようだ。

2023年「ヴィットリオ・グリゴーロ・コンサート」より
Photo: Kiyonori Hasegawa

今回のプログラムは、前半が、昨年没後100年を迎えたプッチーニの作品を中心とした曲目。『マノン・レスコー』からデ・グリューのアリア「なんと素晴らしい美人!」は、テノーレ・リリコの代表的なナンバー。美しくロマンティックなグリゴーロの歌声で堪能したい。プッチーニ『トゥーランドット』からおなじみのカラフの2つのアリアが聴けるのも嬉しい。「誰も寝てはならぬ」の輝かしい高音は前半のハイライトとなるだろう。「三部作」から『外套』のルイージのアリア「お前の言うとおりだ」、『西部の娘』からラメレスのアリア「やがて来る自由の日」の2曲はテノールのソロ・リサイタルで取り上げられる機会がそれほど多くない作品。こうした選曲にも、グリゴーロの「今の自分のレパートリーを聴いてほしい」という意欲が感じられる。

『愛の妙薬』より(メトロポリタン歌劇場公演)
Photo: Met Opera / Marty Sohl

後半は、ヴェリズモ・オペラのナンバーが集められている(ちなみにグリゴーロは昨年「ヴェリッシモ」と題するアルバムをリリースしている。コンサート前にこちらのアルバムを聴いておくのもオススメ)。ロッシーニのレパートリーからキャリアをスタートさせたグリゴーロだが、近年はヴェリズモ・オペラのナンバーも積極的に取り上げるようになっている。以前インタビューした時に、彼は声をワインに例えて「よく作られた(=才能がある)ワインで、良い樽に入れれば(=体を作れば)、ワイン(=声)はよくなっていく」と語ってくれたが、その通り、声の熟成が新たなレパートリーをもたらしたといえる。チレア『アドリアーナ・ルクヴルール』は実在の女優をモデルにした物語で、「私の心は疲れ」は主人公アドリアーナの恋人マウリツィオが、苦しい胸の内を告げる短いアリア。フランス革命を舞台にしたジョルダーノ『アンドレア・シェニエ』は、最近日本でも人気が出てきたヴェリズモの傑作。シェニエには全4幕それぞれにアリアがあるが、今回はその中から第1幕と第4幕の2曲が披露される。マスカーニ『カヴァレリア・ルスティカーナ』の「母さん、あの酒は強いね」については、グリゴーロは5歳の時にすでにこの曲を歌っていたそうだ。高度なテクニックと表現力が要求される曲だが、おそらく彼の体に染みついた歌い手としての魂のようなものが感じられるに違いない。レオンカヴァッロ『道化師』は、文字通りヴェリズモを代表するオペラ。「衣裳をつけろ」は往年の名テノール、エンリコ・カルーソーが歌って大ヒットしたアリア。「表現者」としての悲哀と人生を歌ったこの曲にもグリゴーロの「歌の力」がはっきりと示されるに違いない。

様々なものに追われる現代という時代にあって、無条件で美しいものに浸れる時間は何ものにも代え難い。グリゴーロの歌声こそ、そんな宝物のような時間を私たちにもたらしてくれるものだ。ぜひ多くの人に彼の「歌の力」を体験してほしい。

室田尚子(音楽評論家)

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NBS旬の名歌手シリーズ―Ⅻ
ヴィットリオ・グリゴーロ テノール・コンサート

公演日

2025年
3月15日(土)15:00 東京文化会館(上野)

指揮:レオナルド・シーニ
演奏:東京フィルハーモニー交響楽団

入場料[税込]

S=¥24,000 A=¥21,000 B=¥18,000
C=¥13,000 D=¥8,000 U25シート=¥4,000
*ペア割引[S,A,B席]
*グリゴーロシート=¥100,000

※プログラムについてはコチラをご覧ください。
https://www.nbs.or.jp/stages/2025/singer-02/