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Photo: Wiener Staatsoper / Michael Poehn

2025/01/22(水)Vol.510

ウィーン国立歌劇場2025年日本公演
『ばらの騎士』
2025/01/22(水)
2025年01月22日号
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オペラ

Photo: Wiener Staatsoper / Michael Poehn

ウィーン国立歌劇場2025年日本公演
『ばらの騎士』

ウィーン国立歌劇場2025年日本公演で上演される2作品は、ウィーンとは特別な関係をもつ作品。ウィーン国立歌劇場のプロダクションには、ほかの歌劇場にはない、その特別な関係があらわされます。2つの作品それぞれについて、音楽評論家の堀内修さんに紹介していただきます。まずは『ばらの騎士』から!

ウィーンの『ばらの騎士』

天上からの挨拶のような香りがします!
まだ幕が開く前の、ごく短い前奏だけで、第2幕でばらの騎士となったオウタヴィアンがさし出す銀のばらを手にしたソフィーのように、ウィーン国立歌劇場の『ばらの騎士』の馥郁たる香りに包まれる。
初演したのはドレスデンで、作曲したのはミュンヘン生まれのリヒャルト・シュトラウスなのだが、『ばらの騎士』は最初から「ウィーンのオペラ」だった。

1968年に現在まで続くオットー・シェンク演出の舞台が登場した。指揮したレナード・バーンスタインは、この『ばらの騎士』でウィーンでの絶大な名声を獲得する。伝説になったバーンスタインの「指揮」がある。第2幕の終りに、オックス男爵が楽しそうに歌いだす。「『ばらの騎士』のワルツ」が始まる時にバーンスタインが究極の指揮の技をくり出した。振っていた指揮棒を置いたのだ。指揮者が聴衆のひとりになって、ウィーン国立歌劇場管弦楽団(ウィーン・フィルでもある)に耳を傾けた。ウィーンと「ウィーンの『ばらの騎士』に最高の敬意を示したのだ。どんな演奏をしたか想像に難くない。上演後の熱狂が今日まで伝わっている。

『ばらの騎士』第2幕より
Photo: Wiener Staatsoper / Michael Poehn

「ウィーンの『ばらの騎士』」は人の心を動かしただけでなく、『ばらの騎士』という作品をも変えてしまった。オペラのタイトル・ロールはばらの騎士、つまりオクタヴィアンだし、作られている過程ではオックスを主役とする喜劇の面も強かった。でもいまこのオペラの中心人物が元帥夫人だと感じない人は少ない。元帥夫人は第2幕には登場しないのに。

『ばらの騎士』第2幕より(2022年4月ウィーン国立歌劇場公演)
Photo: Wiener Staatsoper / Michael Poehn

『ばらの騎士』第2幕は聴きどころ満載だ。ばらの騎士登場のキラキラ輝く音楽と、見つめ合う若い二人の官能が、大騒ぎに転じたかと思うと、オックスのぼやきとぬか喜びが混じり合う幕切れを迎える。うっとりするようなワルツはここで聴かれる。だがウィーンは元帥夫人をオペラのまん中に引き入れた。
元帥夫人はマリア・テレジア女帝時代のウィーンの、優雅な貴婦人にとどまらない。世に出た『ばらの騎士』を熱狂的に迎えたウィーンの人々には、元帥夫人が誰なのか、すぐに理解できた。元帥夫人は滅亡しようとする帝国の栄光の化身にとどまらない。振り返ると見える過去のウィーンの優雅そのものだった。

『ばらの騎士』第3幕より
Photo: Wiener Staatsoper / Michael Poehn

オペラの圧巻というべきは、第3幕の、元帥夫人がその中で恋をあきらめて静かに去ろうと決める三重唱だ。シュトラウスのオペラの頂点というべき場面なのだが、「ウィーンの『ばらの騎士』」は、その三重唱にも劣らない名場面を第1幕に見出した。それは考えようによっては衰えを感じ始めた女性の、ちょっとした悩みに過ぎないのだが、奇蹟が起る。若い恋人を傍に置いて歌い始める元帥夫人の、一見とりとめのないモノローグは、老いる不安から移ろい易い時への怖れへ、さらに抗い難い時と対峙した人間の悲しみへと変容していく。ウィーン国立歌劇場がふさわしいソプラノを元帥夫人役に迎える時、18世紀ウィーンの優美をまとった『ばらの騎士』が、同時に時のオペラになっているのを知ることになる。
第1幕のモノローグで元帥夫人は夜、家中の時計を止めてしまいたくなると歌う。ウィーンの『ばらの騎士』を聴き終えたあとには、きっと彼女は本当に時を止めたのだと信じている。自分だけじゃない、客席にいるすべての人が「時よ止まれ、おまえは美しい!」と念じたはずなのだから。

堀内修(音楽評論家)

ウィーン国立歌劇場2025年日本公演
『フィガロの結婚』全4幕
『ばらの騎士』全3幕

公演日

W.A.モーツァルト作曲
『フィガロの結婚』全4幕

指揮:ベルトラン・ド・ビリー
演出:バリー・コスキー
10月5日(日)14:00 東京文化会館
10月7日(火)15:00 東京文化会館
10月9日(木)18:00 東京文化会館
10月11日(土)14:00 東京文化会館
10月12日(日)14:00 東京文化会館

[予定される主な出演者]
アルマヴィーヴァ伯爵:アンドレ・シュエン
伯爵夫人:ハンナ=エリザベット・ミュラー
スザンナ:イン・ファン
フィガロ:リッカルド・ファッシ
ケルビーノ:パトリツィア・ノルツ

演奏:ウィーン国立歌劇場管弦楽団

R.シュトラウス作曲
『ばらの騎士』全3幕

指揮:フィリップ・ジョルダン
演出:オットー・シェンク
10月20日(月)15:00 東京文化会館
10月22日(水)15:00 東京文化会館
10月24日(金)15:00 東京文化会館
10月26日(日)14:00 東京文化会館

[予定される主な出演者]
陸軍元帥ヴェルデンベルク侯爵夫人:カミラ・ニールンド
オックス男爵:ピーター・ローズ
オクタヴィアン:サマンサ・ハンキー
ファーニナル:アドリアン・エレート
ゾフィー:カタリナ・コンラディ

演奏:ウィーン国立歌劇場管弦楽団

入場料[税込]

―平日料金
S=¥79,000 A=¥69,000 B=¥55,000
C=¥44,000 D=¥36,000 E=¥26,000
サポーターシート=¥129,000(S席+寄付金¥50,000)
U39シート=¥19,000 U29シート=¥10,000 

―土日料金
S=¥82,000 A=¥72,000 B=¥58,000
C=¥47,000 D=¥39,000 E=¥29,000
サポーターシート=¥132,000(S席+寄付金¥50,000)
U39シート=¥21,000 U29シート=¥13,000 

※チケットの発売は2025年4月上旬予定