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Photo: Wiener Staatsoper / Michael Poehn

2025/03/05(水)Vol.513

ウィーン国立歌劇場2025年日本公演
指揮者フィリップ・ジョルダン
2025/03/05(水)
2025年03月05日号
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オペラ

Photo: Wiener Staatsoper / Michael Poehn

ウィーン国立歌劇場2025年日本公演
指揮者フィリップ・ジョルダン

ウィーン国立歌劇場2025年日本公演で、『ばらの騎士』の指揮をとるフィリップ・ジョルダン。この歌劇場での音楽監督任期は来日直前までとなりますが、そのキャリアからは彼の音楽づくりの"素"がうかがわれるはず。内外でジョルダンの指揮ぶりをみつめている音楽ジャーナリスト・宮嶋極さんにご紹介いただきます。

劇場叩き上げ型の指揮者としてキャリアを積んできたことで培われた
スコアの隅々にまで光を当てるようなジョルダンの音作り

1974年、スイス・チューリヒで生まれたフィリップ・ジョルダンは現在、ウィーン国立歌劇場の音楽監督を務めるなどオペラ、オーケストラ・コンサートの両面で活躍を続ける実力派指揮者である。とりわけドイツ・オペラにおける手腕の確かさはヨーロッパでは広く知れ渡っている。
こうした評価を決定付けたのはワーグナー作品上演の総本山として知られるドイツ・バイロイト音楽祭において指揮を担当した2017年からの『ニュルンベルクのマイスタージンガー』の成功であろう。12年のバイロイトで、『パルジファル』(シュテファン・ヘアハイム演出)の再演を指揮し好評価を得たジョルダンが、満を持して挑んだのが、バリー・コスキー演出の『マイスタージンガー』の新プロダクションであった。コスキーは大胆な読み替えによって作品の本質を突いた斬新な舞台作りで知られる演出家。17年の『マイスタージンガー』ではハンス・ザックスらの登場人物をワーグナーやリストといった実在の人物に置き換えて、作品にまつわる歴史やエピソードをコミカルなタッチで描いた読み替えで話題を集めた。ジョルダンはコスキーとの共同作業の中で、ワーグナーならではの重層構造の旋律の絡み合い(対位法)と和声を室内楽のような精緻さで再構築。従来の重厚なイメージを打破するかのようにぜい肉をそぎ落とした透明感あふれるサウンドをベースに、生き生きとしたアンサンブルを生み出し、演出プランにも見事にマッチした現代感覚にあふれる音楽を紡ぎ出した。バイロイトにおける『マイスタージンガー』で、このような響きを聴いたのは初めて。スコアの隅々にまで光を当てるようなジョルダンの音作りは同作品の音楽面におけるユニークな構造とその革新性を明快に示すものであった。終演後の彼に対する喝采は盛大で、バイロイトのワグネリアンの耳も十分に満足させ得る成果であった。翌年以降の再演もすべてジョルダンが指揮を務めたことで、ドイツ・オペラにおける評価を不動のものとした。これを裏付けるかのように22年にベルリン・フィルの定期に招聘された際にもワーグナーとR.シュトラウスを中心したプログラムを指揮している。

フィリップ・ジョルダン
Photo: Peter Mayr

こうしたジョルダンの手腕は、彼が最近では少なくなった劇場叩き上げ型の指揮者としてキャリアを積んできたことで培われたものであろう。1994からドイツ・ウルム歌劇場でコレペティトゥアとしてキャリアをスタートさせ、後にカベルマイスター(楽長)に昇格している。98~2001年にベルリン国立歌劇場(リンデン・オーパー)においてダニエル・バレンボイムの下でアシスタントとして研さんを積んだ。その後、同劇場では06~10年に首席客演指揮者を務め、さらに09年から21年まではパリ・オペラ座音楽監督を務めた。さらにニューヨーク・メトロポリタン歌劇場、ミラノ・スカラ座、バイエルン国立歌劇場、ザルツブルク音楽祭など世界の主要歌劇場、音楽祭に客演し、成功を収めてきた。
14年から20年まではウィーン交響楽団の首席指揮者を、20年からはウィーン国立歌劇場音楽監督に就いていることからも、現在のウィーンを象徴する指揮者のひとりといっても過言ではないだろう。ウィーン響との演奏を聴くとジョルダンならではの現代的な音作りにウィーンの優美さが加わったように感じられる。ウィーン国立歌劇場の日本公演で予定されている『ばらの騎士』でもウィーンの伝統を尊重しつつ、ジョルダンならではの鋭い分析力を発揮して、この名作の新たな魅力を発見させてくれるに違いない。

フィリップ・ジョルダン
Photo: Peter Mayr

宮嶋極(音楽ジャーナリスト)

ウィーン国立歌劇場2025年日本公演
『フィガロの結婚』全4幕
『ばらの騎士』全3幕

公演日

W.A.モーツァルト作曲
『フィガロの結婚』全4幕

指揮:ベルトラン・ド・ビリー
演出:バリー・コスキー
10月5日(日)14:00 東京文化会館
10月7日(火)15:00 東京文化会館
10月9日(木)18:00 東京文化会館
10月11日(土)14:00 東京文化会館
10月12日(日)14:00 東京文化会館

[予定される主な出演者]
アルマヴィーヴァ伯爵:アンドレ・シュエン
伯爵夫人:ハンナ=エリザベット・ミュラー
スザンナ:イン・ファン
フィガロ:リッカルド・ファッシ
ケルビーノ:パトリツィア・ノルツ

演奏:ウィーン国立歌劇場管弦楽団

R.シュトラウス作曲
『ばらの騎士』全3幕

指揮:フィリップ・ジョルダン
演出:オットー・シェンク
10月20日(月)15:00 東京文化会館
10月22日(水)15:00 東京文化会館
10月24日(金)15:00 東京文化会館
10月26日(日)14:00 東京文化会館

[予定される主な出演者]
陸軍元帥ヴェルデンベルク侯爵夫人:カミラ・ニールンド
オックス男爵:ピーター・ローズ
オクタヴィアン:サマンサ・ハンキー
ファーニナル:アドリアン・エレート
ゾフィー:カタリナ・コンラディ

演奏:ウィーン国立歌劇場管弦楽団

入場料[税込]

―平日料金
S=¥79,000 A=¥69,000 B=¥55,000
C=¥44,000 D=¥36,000 E=¥26,000
サポーターシート=¥129,000(S席+寄付金¥50,000)
U39シート=¥19,000 U29シート=¥10,000 

―土日料金
S=¥82,000 A=¥72,000 B=¥58,000
C=¥47,000 D=¥39,000 E=¥29,000
サポーターシート=¥132,000(S席+寄付金¥50,000)
U39シート=¥21,000 U29シート=¥13,000 

※チケットの発売は2025年4月上旬予定