4月の日本での初ソロ・コンサートを控えたリセット・オロペサ、快進撃が止まりません。去る1月にパリ・オペラ座ガルニエ宮創立150周年を記念するコンサートに出演し喝采をあびた歌姫は、今度は2月6日に初日を迎えたベッリーニ作曲『清教徒』に出演。主役エルヴィーラを舞台で初めて演じ(演奏会形式の公演は過去に出演)、全10公演を1人で歌いきるという偉業をまさに今成し遂げようとしています。そんなオロペサのエルヴィーラに沸いたパリ、バスティーユ公演の様子をNBSスタッフによるレポートでお届けします。
今やベルカント・オペラの名手としての存在感をゆるぎないものとしつつあるリセット・オロペサ。昨年12月にはマドリードのテアトロ・レアルで『マリア・ストゥアルダ』(ドニゼッティ作曲)のタイトルロールで大成功をおさめ、この2月にはパリ、オペラ・バスティーユにて『清教徒』(ベッリーニ作曲)全10公演に出演するなど、まるでカバリエやグルベローヴァの全盛期を彷彿とさせる活躍ぶりです。
『清教徒』はベッリーニの傑作でありながら、特に主役のエルヴィーラとアルトゥーロに超高音と至難なコロラトゥーラ(装飾歌唱)が求められるために、世界的にも上演の機会は多くありません。300年以上の歴史を誇るパリ・オペラ座においてもガルニエとバスティーユの公演をあわせて39回(2025年2月21日時点、オロペサが今回の最終公演(3月5日)を終えた時点で43回になる)しか上演されておらず、今回の上演がいかに貴重な舞台であるかがうかがわれます。
今回上演されたのはロラン・ペリー演出(2013年初演)の再演。ペリー演出の特徴はエルヴィーラ役に焦点が当てられていることで、序曲から終幕にいたるまで、エルヴィーラは本来の出番でないときも常に舞台上で演技をし続けていなければならず、主役には歌唱だけではなく高度な演技力が求められます。演技力にも定評のあるオロペサはまさに本演出で本領発揮の機会を得たといえます。合唱団がチェスの駒のような衣裳を身にまとい、機械的な動きをすることに対して、エルヴィーラは"人間的"に動き回り、抑圧されている中で必死に自由を求めているような印象を受けます。だからこそ最初の聴きどころである第1幕のアリア「私は美しい乙女」では澄んだ声音にコロラトゥーラの盤石なテクニックが自由を渇望する乙女の祈りのようにも聴こえ、彼女が単なる深窓の令嬢ではなく、意思のある若い女性であることが音楽と演技で明示されます。オロペサのアリアが終わると場内から大きな拍手とブラボーの声がまきおこり、オロペサがすぐに次の演技に移れないほどに盛り上がりました。
休憩時間のホワイエでもオロペサの話で盛り上がる現地の観客の姿が多く「彼女のアリアは最高だね」「狂乱の場が楽しみだ」とシャンパンを片手に話に興じる男性客、ウキウキと「私は美しい乙女」の旋律を口ずさむ老婦人の姿など、オロペサがすっかりパリのオペラ・ファンに受け入れられ、愛されている様子がうかがえます。
そして休憩をはさんで第二部(ペリー演出では全3幕を休憩1回を含む二部構成に変更)。最大の聴かせどころであるエルヴィーラの"狂乱の場"。20分を超える長丁場を高度な技巧を駆使しながら、気のふれた演技をしなければならないという、ソプラノにとっては最大の難所ですが、オロペサは安定した声とテクニックで物語を紡いでいきます。特にアリアの最高潮では、鉄柵で組まれた足元が不安定な装置から飛び降りるところを周りに止められるというハードな演技をしているにもかかわらず、完璧なコロラトゥーラで超高音を響かせ、客席を驚愕させました。終演後のアンコールでは誰よりも大きな拍手とブラボーがオロペサに贈られたこの日の舞台は、5回ものカーテンコールによって盛況に終わりました。
終演後は「この舞台長いから終わるのが毎日23時なのよ。ずっと舞台にいなきゃいけないから本当に大変なの」と話すオロペサですが、日本公演のことに話がおよぶと顔が途端に輝き、「日本のお客さまのために早く歌いたいわ! もし叶うなら桜が観られると嬉しいのだけど」と4月に日本では初めてとなるソロ・コンサートを本人としても心待ちにしているようです。なお、『清教徒』からは、「私は美しい乙女」のアリアがコンサートにプログラムされており、パリの感動を日本に居ながらにして感じることができます。
2022年から重ねた来日のたびに、その歌唱力と芸術性の高さで日本の聴衆を惹きつけているオロペサ。新たな役を得て一段とその芸術性に磨きをかけた旬の歌姫から目が離せない、オロペサの時代がまだまだ続くと予感させるパリの一夜でした。
2025年
4月10日(木)19:00 サントリーホール
4月13日(日)15:00 サントリーホール
指揮:コッラード・ロヴァーリス
演奏:東京フィルハーモニー交響楽団
SS=¥24,000 S=¥19,000 A=¥16,000
B=¥13,000 C=¥11,000 D=¥8,000 P=¥5,000
U25シート=¥4,000
*ペア割引[S,A,B席]
※プログラムについてはコチラをご覧ください。
https://www.nbs.or.jp/stages/2025/singer-03/