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Photo: Michael Poehn / Wiener Staatsoper

2025/03/19(水)Vol.514

最新ウィーン情報
2025/03/19(水)
2025年03月19日号
TOPニュース
オペラ

Photo: Michael Poehn / Wiener Staatsoper

最新ウィーン情報

オペラ・ファンにとっては、歌劇場はもとより音楽に根ざした文化をもつウィーンは、常に関心を寄せる"憧れのウィーン"でもあるでしょう。今秋のウィーン国立歌劇場日本公演の詳細も発表となり、期待が高まっています。2月は、数多くの舞踏会が開催される謝肉祭の時期であり、オペラ公演もシーズンのハイライトとなることが多いようです。ウィーンを訪れた音楽評論家の堀内修さんに、ウィーンの街とオペラの様子を紹介していただきました。

ウィーンの『ノルマ』の季節

零下の寒さもなんのその、2月のウィーン、シュテファン寺院前は人でごった返していた。シュテファンから歌劇場につながるケルントナー通りだって、混雑している。ヴェネツィアや京都同様ここは世界屈指の観光の街になっている。夕暮れに歌劇場に向かって歩くと、オーバーの裾から長いドレスをひるがえしてオペラに行く人たちが2人、4人と見受けられるようになっていく。ウィーンはオペラの街だった......のは今は昔になってしまった。

夜になっても人々が途絶えないシュテファン寺院前
Photo: M. Horiuchi

だが歌劇場に一歩足を踏み入れると、そこは昔と変わらぬ世界だった。早めに行って、以前クロークだったところに作られた「アペリティーヴォ」という名の、ケーキで有名なゲルストナーが運営しているカフェ・バーでコーヒーを飲んでいると、人が集まってくる。そしてオペラに臨む気持ちが高まっていく。この日はオペラ座舞踏会を3日後に控えた謝肉祭の土曜日で、ベッリーニ『ノルマ』のプレミエの夜だから、今シーズンの特別な公演ということになる。

開演前のウィーン国立歌劇場。
火災時の防火幕として機能する緞帳には、毎シーズン有名アーティストによるデザインが起用されている。2024/2025シーズンはスイスのビデオ・アーティスト、ピピロッティ・リストの作。
Photo: M. Horiuchi

人気オペラである『ノルマ』だが、ウィーン国立歌劇場では何十年も上演されてこなかった。今度の上演は、ロンバルディ、ベルジャンスカヤ、フローレスと、いずれも初役となる歌手たちを揃え、ローマ歌劇場の日本公演で日本の聴衆を魅了したミケーレ・マリオッティが指揮する、期待の公演だった。
前祝いに一杯やっていた人も含め、観客が席を埋め始める。もちろん満員で、立見席も鈴なりだ。同じ列に杖を持った老人が座っていたが、奥に進む人がやってくると、杖にすがってなんとか立ち上がって通す。立って人を通すのが作法とはいえ、少しよけるだけでもいいはずで、どうぞそのままでと告げる人もいた。でも必ず立つ。きっとオペラ座に来る者の作法を守るのがこの人のスタイルであり矜持なのに違いない。ケルントナー通りを行き交うのがくわえ煙草で携帯を見ながらのっしのっしと歩く人たちでも、歌劇場はウィーンのままだった。

フェデリカ・ロンバルディ演じるノルマ
『ノルマ』ウィーン国立歌劇場公演より
Photo: Michael Poehn / Wiener Staatsoper

でも本当に、これがウィーンのオペラだと感じるのは、オペラが始まってからに決まっている。マリオッティが少し遅めのテンポで国立歌劇場のオーケストラの柔らかい響きを生かし、合唱団が一片も怒鳴り声の混じらない声で高らかに「立ち上がれ」と歌い出すと、もうこのオペラの方向が見えてくる。それは流麗なベッリーニの世界だ。そしてフェデリカ・ロンバルディのノルマが登場する。
「清らかな女神よ」の序奏が始まり、ドルイド教徒たちだけでなく、劇場中がしんと静まりかえる。沈黙はどこの街のどの歌劇場だって同じはずなのだけれど、ウィーン(やミラノ)は違っているように感じられる。さあ聴くぞ、聴くのはこの劇場にいる者たちだ。判断するのはわれわれで、上演の、そして歌の評価はいまここで決まる、とでもいうような沈黙だ。あとになって、歌手はよくこの緊迫感に耐えられるものだと感心する。大事な時期の注目を集めた上演で、ウィーンの評価はすぐ世界中に広がる。歌うのはそこそこのアリアではなく『ノルマ』の、「清らかな女神よ」だ。いうまでもなく至難のカバレッタまで付いている。聴き手はけっこう残酷で、緊張のあまりはずしたりしたら、優しく許してもらえる見込みはない。ソプラノとしての成否がここにかかっている。これまでモーツァルトやプッチーニで成功してきたとはいえ、ロンバルディはまだ若く、スターになるかどうかもこの『ノルマ』にかかっている。
こんなに美しく、優美に歌われた「清らかな女神よ」は聴いたことがない。技巧的な部分も申し分ない。万雷の拍手が平土間席や桟敷席だけでなく、上のギャラリー席や立ち見席からも聞こえた。ロンバルディは成功し、ウィーンの『ノルマ』の成功が展望できた。

フローレス(ポリオーネ)とベルジャンスカヤ(アダルジーザ)
『ノルマ』ウィーン国立歌劇場公演より
Photo: Michael Poehn / Wiener Staatsoper

歌手で特筆すべきはアダルジーザを歌ったヴァシリサ・ベルジャンスカヤで、ノルマとの二重唱は得もいわれぬ美しさだった。絶好調でないとしてもポリオーネを歌うフローレスの、歌のオペラとしての調和を生む要になっていた。
先行したアン・デア・ウィーン劇場の上演がまったく方向の違う劇的なものだったので、2つの『ノルマ』像が屹立したことになる。2月はウィーンの『ノルマ』の季節になった。

取材・文:堀内修(音楽評論家)

ウィーン国立歌劇場2025年日本公演公式サイト

https://www.nbs.or.jp/stages/2025/wien/

公式サイトへ チケット購入

ウィーン国立歌劇場2025年日本公演
『フィガロの結婚』全4幕
『ばらの騎士』全3幕

公演日

W.A.モーツァルト作曲
『フィガロの結婚』全4幕

指揮:ベルトラン・ド・ビリー
演出:バリー・コスキー
10月5日(日)14:00 東京文化会館
10月7日(火)15:00 東京文化会館
10月9日(木)18:00 東京文化会館
10月11日(土)14:00 東京文化会館
10月12日(日)14:00 東京文化会館

[予定される主な出演者]
アルマヴィーヴァ伯爵:アンドレ・シュエン
伯爵夫人:ハンナ=エリザベット・ミュラー
スザンナ:イン・ファン
フィガロ:リッカルド・ファッシ
ケルビーノ:パトリツィア・ノルツ

演奏:ウィーン国立歌劇場管弦楽団

R.シュトラウス作曲
『ばらの騎士』全3幕

指揮:フィリップ・ジョルダン
演出:オットー・シェンク
10月20日(月)15:00 東京文化会館
10月22日(水)15:00 東京文化会館
10月24日(金)15:00 東京文化会館
10月26日(日)14:00 東京文化会館

[予定される主な出演者]
陸軍元帥ヴェルテンベルク侯爵夫人:カミラ・ニールンド
オックス男爵:ピーター・ローズ
オクタヴィアン:サマンサ・ハンキー
ファーニナル:アドリアン・エレート
ゾフィー:カタリナ・コンラディ

演奏:ウィーン国立歌劇場管弦楽団

入場料[税込]

―平日料金
S=¥79,000 A=¥69,000 B=¥55,000
C=¥44,000 D=¥36,000 E=¥26,000
サポーターシート=¥129,000(S席+寄付金¥50,000)
U39シート=¥19,000 U29シート=¥10,000 

―土日料金
S=¥82,000 A=¥72,000 B=¥58,000
C=¥47,000 D=¥39,000 E=¥29,000
サポーターシート=¥132,000(S席+寄付金¥50,000)
U39シート=¥21,000 U29シート=¥13,000