ヨーロッパの⾳楽界では、⻑い劇場閉鎖を経て、少しずつ活動が再開されているようでもあります。7月中旬、英国ロイヤル・オペラ⾳楽監督のアントニオ・パッパーノ⽒の近況を⾳楽ジャーナリストの久野理恵子さんに電話インタビューで取材していただきました。
3月16日午後、コヴェント・ガーデン(英国ロイヤル・オペラハウス)は『椿姫』公演に向けて、いつものようにあわただしい時間を迎えていた。その中で開場直前にイギリスのジョンソン首相が「あらゆる劇場の閉鎖」を突然発表。劇場はこの会見を受けて数分後に閉鎖を発表し、コヴェント・ガーデンはその戸を閉じたのである。
劇場では多くの人が働いている。英国ロイヤル・オペラハウスの中で忙しい人の代表と言われる音楽監督アントニオ・パッパーノ氏は、劇場の突然の閉鎖後、その対応に追われた。17日の『フィデリオ』はライブ・シネマとして世界中約1,500の劇場で上演される予定であったし、それに続く話題の新演出『イエヌーファ』はドレス・リハーサルを残すのみで準備万端だった。もちろんバレエ公演も急遽中止となった。つまり錚々たる歌手も、バレエダンサーもみなロンドンで出番を待っている状態であり、大変な混乱だったのだ。現在、ロイヤル・オペラのサイトでは多くの公演のストリーミングが行われており、パッパーノ氏自身もある時は自宅から、ある時はコヴェント・ガーデンからフェイスブックでHouse Music with Antonio Pappanoを配信している。劇場が閉まっても、聴衆とのつながりは決して切ってはならない、との信念に基づく行動だ。
そして7月、パッパーノ氏は音楽監督を務めるもう一つのオーケストラ、サンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団とローマのパルコ・デラ・ムジカ野外音楽堂で5回にわたるベートーヴェン交響曲全曲演奏コンサートを行っていた。
「...‥マスクをした多くの人々がコンサートにつめかけ、収容可能な人数はあっと言う間にいっぱいになりました。もちろんオーケストラも広いステージ上で互いに距離を取りました。でも何よりも感動的だったのは、私たちが演奏を始める前に聴衆がスタンディング・オベーションで迎えてくれたことです。イタリアは早くに厳しいロックダウンを経験しただけに、音楽に触れる喜びもひとしおだったのでしょう...‥」
7月、パルコ・デラ・ムジカ野外音楽堂で開催されたサンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団の演奏会の様子
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