本来なら、ちょうど今頃日本公演が開催されているはずだったミラノ・スカラ座。カレンダーを前に、あらためて日本公演の中止を残念に思っているファンも多いことでしょう。まだまだ安心できる状況ではないとはいえ、スカラ座は特別に秋のシーズン・プログラムを発表し、その活動を再開しました。活動再開のスタートとなるミラノのドゥオモでのヴェルディ「レクイエム」が、日本でも配信(有料)されることはすでにご紹介した通り。ミラノでの演奏が終わった直後に、スカラ座スタッフに演奏会の模様やリハーサルでのエピソードなどを田口道子さんに取材していただきました。
9月4日、ミラノの大本山であるドゥオモ(大聖堂)でスカラ座がヴェルディの「レクイエム」を演奏した。国営放送RAIが中継し、ライヴ・ビューイングで多くの犠牲者が出たミラノ郊外のコドーニョのほか、ミラノの3つの教会でも大スクリーンに映し出された。この「レクイエム」は7日にベルガモ、9日にブレーシャでも演奏された。
コロナウイルスは北イタリアで蔓延し、厳重な警戒令が出されたためスカラ座は今年2月以来6カ月も閉鎖されていた。本来なら9月には日本公演で来日していたはずだったのだが...‥。半年ぶりの演奏会となった「レクイエム」はどのような様子だったのかスカラ座のスタッフに聞いてみた。
犠牲となった死者に捧げる演奏が行われたゴシック建築のドゥオモ大聖堂はヨーロッパで最大の寺院だ。この寺院の内部に600席が用意され、大統領を招いての演奏となった。祭壇の前にオーケストラが、合唱団は左右の翼廊に分かれて配置された。普段は合唱はオーケストラの後ろに並ぶのだが、ソーシャルディスタンスを守ると96名の合唱団員が入りきらないことから、左右それぞれを、二人の合唱指揮者がシャイー指揮のモニターを見ながら指揮することで問題を解決した。
聴衆も演奏者も全員がマスク着用という異様な雰囲気の中、マエストロ・リッカルド・シャイーとソリストたちもマスクを着けての登場。実はこのマスクはテレビ中継ということもあって、全員黒で統一したそうだ。マエストロ・シャイーがマスクを外すとソリスト、合唱、管楽器奏者もマスクを外したが、それ以外のオーケストラ奏者は最後までマスクを着けたままで演奏した。
実は8月31日からリハーサルが始まる予定だったが、全員のPCR検査の結果が出るまでリハーサルは禁止され、実際に始まったのは9月2日と本番直前になってしまったとのこと。しかしヴェルディの「レクイエム」は、ムーティ、バレンボイム、シャイーと共に演奏を重ねてきたレパートリーだけあって問題なく本番を迎えることが出来た。だが、素晴らしい演奏を客席ばかりでなくテレビやライヴ・ビューイングでも届けるためには大変な苦労があったとのこと。大聖堂の音響は反響が大きすぎて生の音楽が聴きづらいことがある。それを音響技術でカバーするためにスタッフは必死の努力をしたそうだ。
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