東京バレエ団が「ドン・キホーテ」以来、5年ぶりに挑戦する新制作の全幕バレエは、伝説の舞姫マリ・タリオーニが初演した香り高いロマンティック・バレエの傑作、「ドナウの娘」です。19世紀、白く透けるチュールのスカートとトウ・シューズを身に着けた妖精役で一世を風靡し、バレリーナの代名詞となったマリ・タリオーニの個性を最大限に生かすよう創られた本作は、その魅惑的な特色ゆえに失われたと言われています。
 これを現代によみがえらせたのが、ロマンティック・バレエの研究家でもある振付家、ピエール・ラコットです。タリオーニの出世作「ラ・シルフィード」を同様によみがえらせ成功を収めたラコットは、次に手がけるのは「ドナウの娘」だと決めていたといいます。
 ドイツのドナウ川沿岸地方に残る伝説のもと、舞台となるのは花々が咲き乱れる谷間。出生の定かでない、けれど無垢な美しさをもつ娘フルール・デ・シャンと、彼女に魅了される青年たち。美しい自然に囲まれた村と豪華な宮廷、妖精たちが棲む水中の世界。そこで起こる突然の悲劇と神秘的な出来事・・・。ここにはロマンティック・バレエ最盛期の息吹を伝える魅力的な要素がつまっています。
 ラコットが復活させた舞台といえば、この春、パリ・オペラ座バレエ団公演で「パキータ」、ボリショイ・バレエ団公演で「ファラオの娘」が披露され、おなじみのクラシック・バレエとは一味違う、豊かなスタイルが新鮮な感動をもたらしたばかり。そのラコットが、「バレエに対する敬意を抱き、才能あるダンサーを擁する」と絶対の信頼を置く東京バレエ団が、彼の3人目の“娘”ともいえる「ドナウの娘」を、1年半の準備の末に堂々初演します!