第14回世界バレエフェスティバル前夜祭！ 東京バレエ団 　６月公演 『ドン・ジョヴァンニ』 アリーナ・コジョカル ウラジーミル・シクリャローフ 膨らむ初共演への期待！可憐で神秘的なコジョカルの舞姫勇壮なる戦士シクリャローフ

　この夏に開催される世界バレエフェスティバルの前夜祭、「ラ・バヤデール」のキャスティングを聞いて、わくわくする気持ちを抑えきれなかったのは私だけではないだろう。イングリッシュ・ナショナル・バレエのアリーナ・コジョカルとマリインスキー・バレエのウラジーミル・シクリャローフが日本で初めてペアを組むのだから。
　ドラマティックな演劇性が持ち味の英国バレエ界。今やその第一人者と言っても過言ではないコジョカル。かたや、詩情あふれるロシアバレエ生粋のダンサー、シクリャローフ。一見、まったく違う環境に育った、まったく共通点のなさそうな二人だが、実に似ている気がするのだ。
　まず、幾度舞台に立とうとも、失せることのないその瑞々しい感性である。
　たとえばコジョカル。豊かな音楽性と確かな技術で「眠れる森の美女」はまるでコジョカルとチャイコフスキー（ともちろん王子）の魅惑のコラボレーションといった風情。一方、「ロミオとジュリエット」では、ジュリエットの魂の叫びが見る者の胸に怒涛のように押し寄せる。年齢の壁さえあっけなく超えてしまう。「ザ・レッスン」では、まだバレエを習い始めて間もない少女にしか見えない。それらは同じダンサーが演じているとは思えないほどだ。違う演目を踊っているのだから当然と思われる方もいるかもしれない。だが、同じ演目であろうとも、見るたびに新しい発見、新たな印象、今まで知らなかった個性の一端に出会えるのがコジョカルの舞台なのだ。彼女は前回2012年の世界バレエフェスティバル全幕特別プロでも「ラ・バヤデール」を踊っている。その後、バレエ団を移籍し、新天地での活躍を経て、可憐で神秘的な舞姫に新たな息吹を吹き込んでくれるに違いない。

　シクリャローフはチャーミングな風貌にロマンティックな雰囲気で王子役にぴったり。まだソリストの頃の「眠れる森の美女」デジレ王子。踊るのが楽しくてたまらないという無邪気さと初々しさ。それでいてロシア帝国御用達バレエ団の歴史を受け継ぐダンサーらしいエレガンス。そのアンバランスさが逆に魅力的で忘れ難い。同じ王子でも、映像にもなっているラトマンスキー版「シンデレラ」の王子は少しばかりアイロニカル。だが、シクリャローフはちょっぴりキザで軽快、それでいてシンデレラに向ける優しいまなざしが印象的で、役をしっかり自分のものにしていた。大先輩のヴィシニョーワに一歩も引けを取らない、その存在感にも目を見張ったものだ。また、見た目の印象よりも踊りがダイナミックで、演目によってはそのパワー、スピード感がもたらす高揚感がたまらない。シクリャローフもまた、見るたびに新しい姿、驚きが待っているダンサーなのだ。残念ながら、私はまだシクリャローフのソロルを見たことがないのだが、勇壮な戦士を彼がどう演じるのか、いまから楽しみでたまらない。
　そして、舞台での華も遜色ない、いやさらに引き立てあいそうな二人なのだ。小柄で可憐な容姿ながら、舞台に登場するともう彼女からは目が離せない。温かみのある、会場全体を花の香りで優しく包んでしまうようなオーラがコジョカルなら、舞台の真ん中で一点キラキラ光るのがシクリャローフ。感受性豊かな二人のこと、きっとお互いの個性に敏感に反応し、より輝かしい舞台が生まれるのではないか。
　イギリスを本拠地として活躍するが、ロシアの隣国ウクライナにあるキエフ・バレエ学校で研鑽を積んだコジョカル。二人の踊りのスタイルにも響きあうものがあるはずだ。まるで世界バレエフェスティバル本番さながらの、見ごたえたっぷり、華麗な舞台に期待は高まる。

（柴田明子　舞踊評論家）