ローマ歌劇場 2018年日本公演 アントニオ・ポーリ インタビュー 「観客のみなさんがアルフレードに恋して しまうように歌いたい」

今年2月、ローマ歌劇場『椿姫』に登場したアントニオ・ポーリ。このプロダクションのプレミエからアルフレード役を歌っているポーリは、いまやローマ歌劇場『椿姫』の“顔”といえる存在でしょう。奇しくもこの公演の頃、ローマは6年ぶりの降雪に見舞われ、劇場への交通にも影響が出るという状況でしたが、ポーリが舞台に立った『椿姫』は熱い歓声に包まれました。公演の合間をぬって、日本公演に向けてのインタビューに応えてくれました。

Photo: Yasuko Kageyama / TOR

—— 以前のインタビューで、アルフレード役はとてもやり甲斐があると話していらっしゃいますね。テノールの技量ばかりでなく表現も複雑だとおっしゃっています。

ポーリ: アルフレードは人間的に見て、とても複雑な役柄です。オペラの初めではぎこちない感じで、内気な性格を表わしていますよね。上流社会の宴会には慣れていない青年の純粋さが窺えます。オペラが進行していく中で、彼は成長し、人を愛すことを知り、それまで肉体的にしか愛を知らなかった女性に心から愛されている自覚を持ちながらも嫉妬に苦しみます。最後には自分の行動を心から悔やんでヴィオレッタのもとに戻ります。「パリを離れよう」とヴィオレッタに言うけれど、もうすでに彼女に死が迫っていることを悟っている。その苦しみを乗り越えながら彼女の死への道を愛を持って付き添って行こうとします。
 声楽的にも、第1幕の軽やかなリリコから第2幕第2場にはドラマティックな表現に変わっていきます。ヴィオレッタもそうですが、アルフレードもまたこの変化を充分に表現できなければなりません。とても難しい役だと思っています。

—— ポーリさんにとって理想のアルフレード像とは?

ポーリ: 若々しくてカッコよくてハンサムで…‥あくまでも理想像ですよ。声はロマンティック、つまり温かみがあって光沢のある響きが必要だと思います。マエストロ・ムーティがおっしゃるように、アルフレードは『トロヴァトーレ』のエンリーコと『リゴレット』のマントヴァ公爵と並ぶ役ですから、若くて軽いだけの声では表現しきれないと思います。最近気がついたのですけれど、アルフレード役は若いテノールが歌っていることが多い。どういう訳か2~3年するとアルフレードを卒業してしまうテノールがほとんどです。ドミンゴがゼッフィレッリ監督の映画でアルフレードを歌ったのは50歳近かったかもしれませんけれど、これは特殊な例で、当時すでに舞台では歌っていませんでした。でも、若くてデビューしたばかりの歌手ではなかなかこの役で評価されないと思いますよ。主役のソプラノと父ジェルモンのバリトンとの間に埋もれてしまいますからね。アリアもカヴァレッタもピアノやピアニッシモでの表現がたくさんありますから、声楽的なテクニックもしっかり身に付けて繊細な歌唱表現で観客のみなさんまでアルフレードに恋をしてしまうくらいに歌えたら最高ですね。僕はまだしばらくこの役を大切にしたいと思っています。

—— アルフレード役を歌う上で大切にしていることは?

ポーリ: 場面場面で自分と同化させるようにしています。ヴィオレッタを愛する恋人であったり、父親に諭されたり叱られたりする息子であったり、現実の世界に置き換えてアルフレードになりきるようにしています。

—— 指揮者のヤデル・ビニャミーニさんとは?

ポーリ: マエストロのことは以前から知っていて仲良くしているので、日本公演も彼と一緒でとても嬉しいです。最近は国際的に活躍されていますね。彼の躍動感ある音楽は若さを感じさせるというか、ドラマティックな盛り上がりを見せるところが好きです。大事なのはお互いの考えを話し合えることだと思います。彼とは納得がいくまで話し合えるのでとても気持ちよく仕事ができます。

—— ヴィオレッタ役のフランチェスカ・ドットさんとは他の演目でも共演されていますが、お互いの役作りについて相談されることはありますか?

ポーリ: 彼女とはヴェローナの『椿姫』で知り合って、友達になりました。僕はあまりアルフレードを歌っていなかったのですが、彼女はデビューからヴィオレッタばかり歌っていて、冗談まじりに他の役も歌いたいと言うほどでした。ローマのプロダクションがきっかけになって僕はアルフレードばかり歌うようになって100回公演くらいになるかな。フランチェスカは他の役で次々とデビューして、状況が逆転してしまいました。

—— あなたにとってローマ歌劇場とは?

ポーリ: 我が家でありファミリーです。2011年にデビューした歌劇場だし、マエストロ・ムーティをはじめ、偉大な指揮者や演出家と出会えた、僕に幸運をもたらしてくれた劇場です。僕はローマからすぐ近くのヴィテルボという町の生まれなので、ローマ歌劇場で歌うことを夢見て勉強していました。この劇場が益々発展して、素晴らしい公演を提供し続けてくれることを心から願っています。

—— 日本には何度もいらしていて、あなたの素晴らしい声に魅了されているファンがたくさんいますよね。日本のみなさんにメッセージをいただけますか?

ポーリ: 僕は日本では『王子さま』と呼ばれているのだそうですよ。これは良い意味ですよね? 良い意味なら嬉しい限りです。僕は日本の大ファンです。歴史や文化、それから国民性も心から尊敬しています。この数年、合気道の稽古をしていて、日本の哲学を学ぼうとしています。合気道は精神力を高めるために大いに役に立っています。
 日本のみなさんにお会いできることをとても楽しみにしています。ソフィア・コッポラ演出、ヴァレンティノ衣裳のプロダクションはきっと喜んでいただけると確信しています。たくさんの方々が劇場にいらしていただけることを願っています。日本で会いましょう!

*紙面の関係上、インタビューの一部をカットして掲載しています。全文はWEBぶらあぼANNEX「ローマ歌劇場特設サイト」に3回シリーズで掲載中です。リッカルド・ムーティからの影響について、ソフィア・コッポラとの仕事についてなど、こちらからご覧ください。

http://ebravo.jp/nbs/2018/Roma/archives/479

2018年日本公演
ローマ歌劇場

『椿姫』

指揮:ヤデル・ビニャミーニ
演出:ソフィア・コッポラ

【公演日】

2018年
9月9日(日)15:00
9月12日(水)15:00
9月15日(土)15:00
9月17日(月・祝)15:00

会場:東京文化会館

【予定される主な配役】

ヴィオレッタ:フランチェスカ・ドット
アルフレード:アントニオ・ポーリ
ジェルモン:レオ・ヌッチ

*表記の出演者は2018年1月15日現在の予定です。
今後、出演団体側の事情により変更になる場合があります。

『マノン・レスコー』

指揮:ドナート・レンツェッティ
演出:キアラ・ムーティ

【公演日】

2018年
9月16日(日)15:00

会場:神奈川県民ホール

9月20日(木)15:00
9月22日(土)15:00

会場:東京文化会館

【予定される主な配役】

マノン:クリスティーネ・オポライス
デ・グリュー:グレゴリー・クンデ
レスコー:アレッサンドロ・ルオンゴ

*表記の出演者は2018年1月15日現在の予定です。
今後、出演団体側の事情により変更になる場合があります。

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